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世界秩序はイスラエルのガザ地区への攻撃を耐え抜けるのか?

「戦争犯罪人」というラベルの貼られたアントニー・ブリンケン米国国務長官のポートレート写真。(AFP)
「戦争犯罪人」というラベルの貼られたアントニー・ブリンケン米国国務長官のポートレート写真。(AFP)
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16 Nov 2023 04:11:29 GMT9
16 Nov 2023 04:11:29 GMT9

イスラエルがガザ地区での軍事行動を終える時、私たちの中東地域は、そして、世界はどのような様相を呈することになるのだろうか?230万人のパレスチナ人(その70%は過去の戦争からの難民が占めている)が暮らしている包囲された狭い地域から発表される統計は驚異的だ。自衛を名目に行われたイスラエルの猛攻撃が開始されてから36日間で、11,000人以上が死亡し、数千人が瓦礫の下で行方不明となっており、24,000人が負傷した。約4,500人の子供たちが殺害され、家屋や高層ビルの40%が破壊または損傷され、30,000トンの爆発物の標的となった地区内の箇所は居住不可能な荒れ地になってしまった。少なくとも50人のジャーナリストが死亡した(因みに、20年間にわたるベトナム戦争を通して死亡したジャーナリストの人数は63人である)。想像を絶する残虐行為には終わりが無いかのようだ。100万人超のガザ地区住民が退避を余儀なくされている。水や食料、医薬品、燃料は払底し、安全な場所すら無い。これは、まさに、パレスチナ人の大虐殺なのだ。

イスラエルは停戦の呼びかけを拒否し、十分な援助をガザ地区に届けるための戦闘の人道的な一時停止を実行していない。イスラエルの政府関係者によると、停戦に向けての国際的な圧力は、今後2、3週間で高まっていく見通しだという。世界中で数千万人の人々が、戦争の終結を求めて声を上げた。欧米の当局者たちは耳を傾けることを拒んでいる。

数多くの人々が、これは武装組織ハマスを壊滅させるための戦争では最早なく、殲滅戦なのだと考えるようになった。国連機関や赤十字国際委員会、ヒューマン・ライツ・ウォッチやその他の非政府組織の停戦要請は無下にされた。イスラエルは10月7日の残虐行為への復讐を決意しているだけでなく、イスラエル・パレスチナ紛争の基盤を突き崩す、これまでの構図を一変させるような戦略の実行を意図している。イスラエルの目標は、1948年のナクバにまで歴史を遡行し、そこからやり直すことなのだ。

数多くの人々が、これは武装組織ハマスを壊滅させるための戦争では最早なく、殲滅戦なのだと考えるようになった

オサマ・アル・シャリフ

ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政治的パートナーである極右勢力は、ガザ地区を再占領し、その住民を強制的に移住させ、新たなユダヤ人入植用地とする必要性について公の場で語っている。極右勢力は、また、ガザ地区で進展中の状況は、ヨルダン川西岸地区の将来の状況の予行演習だとも述べているのだ。イスラエルを対象としたアナリストたちは、急進的な連立パートナーたちを御するのにネタニヤフ首相では無力過ぎると指摘している。宗教的シオニズム運動は、自身の政治的キャリアを何とか救い上げ、さらには政治的遺産を残そうとしているネタニヤフ首相を強請っているのである。

アラブ諸国の首脳たちは、侵攻するイスラエル軍によって行われた戦争犯罪や大量虐殺、民族浄化に対して率直な発言を行ってきた。また、アラブ諸国の首脳たちは、欧米諸国が国際法を適用する際の二重基準を明確に指摘してきた。米国は、国連安全保障理事会での停戦決議の採択を妨害してきた。国連において見るに堪えない行状をこれまで重ねてきたイスラエルが、そのような停戦決議を尊重することはいずれにしてもなかったのかもしれない。

つまり、現実の世界では、ガザ地区における戦争がどのように終結するのか、誰にも予測不可能なのだ。しかし、この戦争もいつか終わる。その時、国際社会はイスラエルの戦争機構が為したことを目の当りにすることになる。死者数は数万人に達し、不具となったり負傷した人々の数は驚愕する水準に達するだろう。破壊のレベルは、第2次世界大戦後のドイツや日本の都市に近いものになり得る。この人道的大惨事は、今後長期にわたって、世界的な悪夢となるに違いない。

ネタニヤフ首相とその政治的パートナーたちは、10月7日のハマスによる襲撃を殲滅戦遂行のための白紙委任状として利用している。国際人道法や戦争のルールには、比例原則も自制も順守も無い。イスラエル政界の既成勢力にとっては、民間人を含むガザ地区の住民全員が10月7日の襲撃の加担者なのだ。ネタニヤフ首相が大量虐殺の呼びかけとしか解釈しようのないタルムードの詩を引用していることを勘案すると、イスラエルの兵士たちが何をしようとしているのかを想像することは容易い。米国の政治家たちがこれは宗教戦争だと語る時、数十万人の罪の無い民間人の身の上に起こることになる悲惨な出来事をイスラエルとその熱狂的な支持者たちが前向きに許容していることに対して、嫌悪と恐怖の入り混じった感情が沸き上がる。

そして、事態は誰の手にも余るところにまで既に来てしまった。そこで、次のような疑問が生じる。この戦争後の世界はどのような様相を呈するのだろうか?ガザ地区での戦争は、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領がソビエト連邦崩壊後に提唱して以来30年以上が経過した「新世界秩序」の試金石となっている。その当時、米国は世界唯一の超大国として浮上し、冷戦時代とは異なる何かを請け合ったのだ。

しかし、新世界秩序の下で、世界は苦しむことになった。米国は、アラブ・イスラム諸国に対して、ほとんど虚偽の口実で、戦争を2度仕掛けた。米国は、数十万人の罪の無い民間人を殺害し、中東地域の治安を悪化させ、分裂を深めた。米国の政策は、宗派間戦争や民族間戦争を引き起こし、過激主義者を勢いづかせ、中東地域には深い傷跡と分断が残った。中東において、新世界秩序の残したものは、有害でしかなかった。

ガザ地区での戦争とその惨酷な結末の後、中東地域と世界はこれまでの日常を継続することは出来なくなる

オサマ・アル・シャリフ

絶望から生じる悪影響が数十年にわたってパレスチナ人たちにしつこくまとわりついてきた。米国は、ネタニヤフ首相に、最後に残った希望である二国家解決を葬り去る破滅的な計画を進めることを許諾した。ネタニヤフ首相が得た免罪符は、パレスチナ人のみならずイスラエル人にとっても呪いとなったのだ。

ガザ地区での戦争とその惨酷な結末の後、中東地域と世界はこれまでの日常を継続することは出来なくなる。欧米諸国は、戦争の終結を待って、二国家解決とパレスチナ人国家の樹立を推進すると公言している。これは虚偽に満ちた空虚な謝罪の言葉であり、こうした事を語るのは、不誠実か世間知らず、またはその両方である。イスラエル政界の極右勢力はこの提案にイデオロギー的に猛反対している。二国家解決という選択肢はずっと昔に消滅しているのだ。

欧米諸国が長年伝道に努めてきた「ルールに基づく秩序」は、悲惨な問題に直面している。イスラエルがガザ地区で行ったことに対する公平な調査を求める声が聞き入れられないというのに、欧米諸国が人権や国際法について語ることが何故できるのだろうか?米国とその同盟国は、国際刑事裁判所が、戦争犯罪を犯した疑いのある、または、戦争犯罪を政治的あるいは物質的に支援し手助けしたイスラエル人その他に対して逮捕状を発行することを認めるのだろうか?

欧米諸国は、国際法廷で数万人のガザ地区住民が証言する事、そして、それが世界中の人々に聞かれることを受け入れられるだろうか?イスラエル軍の空爆で家族全員を失ったパレスチナ人の戦争孤児が米国議会で証言することはあり得るのだろうか?

答えは、おそらく、そしてほぼすべての場合において、断固として否である。そして、このようにして、現在の世界秩序は終焉を迎えることになるのだ。

無力な国連と第2次世界大戦後の法的、人道的インフラのすべてを救うためには、多極化した世界が必要なのである。これは、グローバルサウス諸国が世界の運営について発言権を持たなければならないことを意味している。それは、また、ロシアと中国がその新しい世界秩序に積極的に参加する必要があることも意味しているのである。とはいえ、最重要なことは、サウジアラビアやトルコ、イランといった中東諸国が中東地域の安全と安定に貢献しなければならないということなのだ。

中国とロシアが、為し得ることがもっとあったにも関わらず、パレスチナの試練に対して口先だけの関心を示すのに留まっている事実は嘆かわしい。ガザ地区住民の救援のためにロシアや中国から援助物資輸送隊が派遣されたというニュースを私たちは未だ耳にしていない。ロシアと中国の両国は、11月11日にリヤドで開催されたサミットで表明されたようにアラブ人とイスラム教徒の立場を支持し、反戦と反大量虐殺を提唱する欧米諸国の数百万人に訴えかけることで、欧米のイスラエル擁護のナラティブやイスラエル偏重のバイアスに立ち向かう貴重な機会を逸してしまったのだ。

ガザ地区への攻撃は、グローバリズムから腐敗したシオニストが支配する欧米の政治エリートに至るまで、すべての不正義に対峙するための掛け声となっている。民間で高まるこうした機運を無視したり脇に追いやったりするべきではない。それは、すべての個人やコミュニティが法律で守られ責任を負う新しい世界秩序を求める人々の要求へと発展していくはずのものなのである。

もう一つの可能性は恐ろしいものになるだろう。イスラエルに対する長年の不処罰が前例となって、誰も法律を順守しない世界である。このようなシナリオが実現することを許してはならない。

  • オサマ・アル・シャリフは、アンマンを拠点にジャーナリストおよび政治コメンテーターとして活動している。X: @plato010
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