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海洋温暖化の危険性を過小評価してはならない

近年、科学者たちは地球の海洋で観測されている記録的な温度上昇について警告を発している。(資料画像 / AFP)
近年、科学者たちは地球の海洋で観測されている記録的な温度上昇について警告を発している。(資料画像 / AFP)
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19 Jan 2024 08:01:59 GMT9
19 Jan 2024 08:01:59 GMT9

地球の心臓部と長い間考えられている広大な水域、すなわち世界の大洋が現在、深刻な変化の途上にあることは受け入れ難い。世界の海水は、現在、これまでの記録を上回る温度を示しており、これは刮目すべき懸念事項となっている。この温暖化は、厳しい現実を伝える指標として、国際社会に重大な警告を発する機能を果たすべきものだ。

近年、世界中の科学者たちが、地球の海洋で観測されている記録的な温度上昇という驚嘆すべき現象について警告を発している。

中国や米国、ニュージーランド、イタリアの科学者チームが協働して行い、2024年1月に大気科学を専門とする学術誌「アドバンシス・イン・アトモスフェリック・サイエンス」に最近掲載された分析では、2023年に海洋熱が大幅に上昇したことが明らかにされた。この研究の調査結果は、年間15ゼタジュール(10垓ジュールの15倍)の上昇があったことを示したのだ。これは、2021年に世界の全人間活動によって生成された総エネルギーの約25倍に相当する。

この前例の無い海洋温度の上昇は、広範囲に影響を及ぼす。しかし、まず第一に、地球の海洋がこれほどの驚異的な温暖化に見舞われている理由とその背後にある仕組みの理解のために、この問題の複雑さを掘り下げることが必要である。

化石燃料の燃焼や森林伐採などの人間活動が、気候変動の主な原因である。人間活動は、残念幸なことに、大気中の温室効果ガス濃度の上昇を引き起こしてしまった。二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスは、熱を閉じ込め、地球表面の温暖化の一因となっている。こうした余分の熱のかなりの部分は海洋に吸収され、海洋は地球の気候の調節という重要な役割を担う巨大な貯水地として機能している。

海洋は地球の気候の調節という重要な役割を担う巨大な貯水地して機能している

マジッド・ラフィザデ博士

広大な海洋は、歴史的に、気候変動の影響に対する緩衝材として作用してきたのである。海洋は大量の熱を吸収して蓄え、地球の温度を調整し、温室効果ガス濃度の上昇の影響を緩和する。しかし、現在では、この緩和能力が不安視されるようになってきた。吸収する膨大な量の熱により前例の無い温度まで上昇したことにより、効果的なヒートシンクとしての海洋の能力が懸念されるまでになってきたからである。

問題となっているのは、人間活動の激化、特に化石燃料の燃焼と森林伐採が、地球の気候変動の大きな要因となっていることである。温室効果ガスが大気中に放出されることにより、温室効果が発生し、より多くの熱が閉じ込められ、地球全体の温暖化に繋がっていく。この人為改変の影響を、過剰な熱の大部分を吸収している海洋が直接的に被っているのである。

主要な脅威の一つは、海洋温暖化によって、極地の氷冠や氷河の融解が加速していることである。こうした氷層の広がりが溶けることで海面が上昇し、それは沿岸部の地域や低地にとって深刻な脅威となる。その結果、世界の経済、特に沿岸地域に関連する産業は多大なリスクに対峙することになってしまう。そうした産業には、貿易や海運、沿岸地域に関連するインフラが含まれる。

海洋温暖化と氷の融解の相乗効果はフィードバックループを形成し、気候変動の影響を強め、海洋温度をさらに上昇させる。海洋温暖化と多様なフィードバックループの複雑な相互作用は、人類が直面している課題をさらに厄介なものにしている。

海洋温暖化によって、極地の氷冠や氷河の融解が加速している

マジッド・ラフィザデ博士

第2番目の脅威は、温度上昇により、海洋内の確立された流れや循環パターンが攪乱される可能性である。海流は、地球表面の各所に熱を分配し、気候システムを調節する事で、海洋生態系を支える重要な役割を果たしている。こうしたパターンの変化は、海洋生物や気象システム、海洋に依存する経済に対して、予測不可能かつ潜在的に有害な結果をもたらす可能性がある。

さらには、海洋温度の上昇は、海洋生態系に直接的な脅威をもたらす。活力に溢れた生物的多様性で知られるサンゴ礁は、熱ストレスに対してとりわけ脆弱である。水温が上昇すると、サンゴの白化現象が発生する。これは、産後に栄養分と色彩を与える共生藻類をサンゴが排出する現象である。白化現象が長期にわたると、サンゴ礁は死滅し、生態系全体が壊滅し、サンゴ礁に依存している地域社会の生活も危険に晒され得る。

海洋温度がさらに上昇し続けると、海洋生物は、適応かより適した生息地への移動を余儀なくされる。生物多様性と移動パターンのこの変化は、食物連鎖全体にカスケード効果をもたらし、漁業とそれに依存する地域社会に影響を与える可能性がある。また、気候変動に直面する事で絶滅危惧種が種としてさらに脆弱になるため、そうした生物種の保護も課題となっていく。

地球の海洋で現在観測されている記録的な高温は、端的に言えば、地球の気候に深刻な変化が起きているという明確で差し迫った警告なのである。残念ながら、人間の活動は、地球の基盤に他ならない海洋を再構築する連鎖反応を引き起こしてしまったのだ。

地球の大洋の運命は、人類の運命と複雑に関係している。

  • マジッド・ラフィザデ博士は、ハーバード大学で学んだイラン系アメリカ人の政治学者である。 X: @Dr_Rafizadeh
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