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OPECは死なず、だが消え去らない

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09 Mar 2020 05:03:27 GMT9
09 Mar 2020 05:03:27 GMT9

がらりと何かが変わったわけではない。石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアを主体とする10の産油国が協調しはじめてからの話だ。この体制はOPECプラスと呼ばれるようになるが、3年以上にわたって市場の均衡をともかく保った。このため生産国・消費国双方の利となった。双方とも、操業ないし投資を決めるにあたり明確な見取り図を必要とするからだ。

前回の推移はこうだった。減産を求めたOPECに対し、ロシアは洞ケ峠を決め込んだ。そして最後には折れた。去年12月、ロシアは強硬な態度で交渉に臨み、そこから利を得た。ロシアは日量210万バレルの減産に加わったが、OPEC側はそこからコンデンセート(超軽質原油)を除くことに同意したためロシア側の意向は満たされた。

が、直近のケースでは事情は異なった。サウジアラビアは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた石油需要の低迷に対処するため、3月5~6日に予定された会合を2月半ばに前倒しすることを望んだ。昨年12月の日量210万バレルの減産に加え、さらに60万バレルの減産勧告が認められればOPECプラスとしても上々だった。あえなくも、会合は予定通りに、とのロシアの主張で話はおじゃんとなった。

市場は好感しなかった。1バレルあたりの原油価格は、イランのソレイマニ司令官暗殺による地政学的不安のあった1月初頭の70ドル近くから、今月3日には53.6ドルまで急落した。国際エネルギー機関(IEA)は新型コロナ拡大のため今年の需要はゼロ増の可能性ありと警告していたものの、OPECプラスでの協議に一縷の望みをかけ、価格はともあれ維持されていた。

では、この6日、ウィーンで何が起きて供給協定は瓦解したのか。このたびロシアが折れなかった理由は何なのか。

新型コロナのため原油需要は崩壊にいたった。今後数ヶ月のうちにどういう結果となって終息するのか見極めぬうちは、感染拡大が世界経済に全体でどのような影響を及ぼすのか見通せる者はだれもいない、と来ているからなお悪い。すでに製造業のサプライチェーンは身動きの取れぬ状態で工場は閉鎖、これは東アジアだけにとどまらない。国境は閉ざされ、飛行機は運休となり、旅客は絶え果て、大勢の集まりはキャンセルとなった。本来ならあふれんばかりの観客で埋まるスポーツ大会は無観客でおこなわれ、今夏予定される大規模イベントはどれもまず開催されまい。先週のOPEC会合も内々で済まされた。報道も識者も建物への立ち入りを禁止され、各国の閣僚級代表団も最低限にとどめられた。OPECのムハンマド・バルキンド事務局長とロシアのアレクサンドル・ノーワク・エネルギー相はふだんの心づくしの握手を取りやめ、足を触れ合わせて握手の代わりとした。

会合の中身、動き、結果にいたる原因に触れよう。

OPECプラスの体制のもとでサウジアラビアやUAEと協調することには、ロシアにとって石油を越えた利があった。

コーネリア・マイヤー

目下、新型コロナによる情勢は悪化の一途をたどり、OPECの示した日量60万バレルという当初の減産勧告は先週までに100万バレルに上昇、その後150万バレルにまで達した。最大の減産はサウジアラビアが担い、UAE、クウェート、イラク、ロシアも減産に加わるはずだった。3月5日夜、OPECはいつになく強い口調の声明を出し、日量150万バレルの減産を勧告するとした。ノーワク・エネルギー相はその日のうちにモスクワへ戻り翌朝ウィーンにとんぼ返りしたが、その時点ではすでに協力を拒む姿勢は固まっていた。

OPECプラスの体制のもとでサウジアラビアやUAEと協調することには、ロシアにとって石油を越えた利があった。ロシアは中東では競合勢力となっており、湾岸協力理事会(GCC)の指導国との協調は、それらの国々がシリア内戦でロシアと対立する側であるだけに得がたいものだった。OPEC諸国と手を組むことで、ロシアとしては利ざやの稼げる投資契約も結べれば、別の領域での協力を見込めもした。

それだけにとどまらない。ロシアには西側、特に米国に軽んぜられているという思いがある。ロシアは制裁に苦しめられているし、ロシア産天然ガスをバルト海の海底を通してドイツへ渡すことになるノルド・ストリーム2パイプラインに米国が反対姿勢を取ることが不快でならない。と同時に、米国産シェールオイル・シェールガスもノーワク氏・プーチン氏双方にとって目の上のたんこぶだ。市場でのシェアやどちらが力をもつかの角逐は現在進行中だ。

ロシアがかくも憤懣やるかたない思いでいること、また減産という形でさらなる痛みを負うことに後ろ向きであることは納得できるとみる向きもあるかもしれないが、これはかつて試された危険なゲームなのだ。2014年、サウジアラビアが手綱をゆるめたことを契機に全OPEC加盟国がフルスロットルで増産した。その結果、原油価格は暴落した。目指すところは、GCC諸国よりも生産コストのかかる米国産シェールの操業が差し迫るなか、これにダメージを与えることであった。米国側は短期では被害を受けた。が彼らは生産工程を最適化、今度は意趣返しに現れた。似たようなことが今回も起きる可能性はある。

さはさりながら、3月31日に終了が予定される現行の日量210万バレル減産には不確かなところもある。サウジアラビアは8日、4月には日量970万バレルから1,100万バレルにまで増産する計画を発表している。

このようなわけで今やOPECの将来を疑問視する向きも多い。それは違うと言いたい。OPECは死んだ、とは、これまでも、百万遍とはいわずとも繰り返し宣告されてきたことだ。だが、いつも細工を加えて生きながらえてきた。生まれ返った姿で再生したことすらある。主要産油国が国営石油企業と協議する場をもつことには合理性がある。OPECプラスの体制を構築したことで、産油国の指導者らは、米国のシェール生産能力増大と立ち向かうには十年一日旧態依然のやり方ではだめだと気づいたのだ。

石油はいずれ代替エネルギー源に取って代わられることは疑いない。サウジアラビアのビジョン2030はこれを織り込んだもので、経済を炭化水素頼みから脱却させ多様化することを図る。とはいえ、世界経済には、ことに輸送用燃料としてなお石油が必要となるはずだ。IEAもOPECも今後20年は石油需要が伸びるという見立てだ。一時的に新型コロナによりグラフは落ち込むかもしれないが。

OPECの存在は、北米・西欧を除くほとんどの主要産油国の利益に資する。今後とも順風満帆とはいくまいが、追い風ばかりが吹くわけがない。

コーネリア・マイヤー氏は、経営コンサルタント、マクロエコノミスト、エネルギー問題専門家。Twitter: @MeyerResources

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