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難民の帰還権という困難な懸案は解決できる

UNRWAはパレスチナ難民が難民ではなくなり、故郷に帰還できるまで援助することになっている。(ロイター)
UNRWAはパレスチナ難民が難民ではなくなり、故郷に帰還できるまで援助することになっている。(ロイター)
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08 Feb 2024 10:02:14 GMT9

イスラエルは先月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員12人がハマスによる10月7日の攻撃に関与したと非難した。米国、英国、ドイツ、日本、オーストラリアなどを含む主要な援助国はまだ真実がわからない疑惑を受けて、UNRWAへの資金拠出を停止した。UNRWAは1949年以降、イスラエル建国時に残酷な形で故郷を追われた難民に援助を行っている。

いつものことだが、真実が明らかになるにつれて、イスラエルの言い分は変化している。イスラエルは後になって、関与したと思われる人数は12人ではなく4人だったと発表した。そしてスカイニュースが報じたところによると、イスラエル側の主張や提出された文書は直接UNRWAが関与していたとは示していないという。米国国務省でさえ、イスラエルの主張は「信憑性が高い」としながらも検証できなかったとしている。少々紛らわしい。もしイスラエルの主張が「信憑性が高い」のであれば、なぜ米国務省はそれを確認できないのだろうか。

「なぜ今なのか」と、問いかけることが重要だ。なぜイスラエルはUNRWAの閉鎖にここまでこだわるのか。これは偶然なのか。イスラエルがUNRWAへの資金停止へと動いたのは、パレスチナ国家の構想が広く論じられるようになったときと重なる。英国のデービッド・キャメロン外相が先週、同国はパレスチナ国家の承認を検討していると発表した。米国も同様のメッセージを出している。「パレスチナ国家承認の可能な選択肢を検討している」と伝えられている。これは何を意味するのか。イスラエルが主導権を握ることはなく、パレスチナ国家樹立について拒否権も持たないということを意味する。

パレスチナ国家承認を強いられると考えるイスラエルは、帰還権という大きな問題を解決する必要がある。UNRWAはパレスチナ難民が難民ではなくなり、故郷に帰還できるまで援助することになっている。イスラエルのギラド・エルダン国連大使は2023年7月の演説で、「帰還権など存在しない」と明言している。イスラエル側からすれば、何百万もの難民の子孫の帰還権は、ユダヤ民族の自決権を抹殺する要求であると同氏は付け加えた。エルダン氏は、パレスチナ難民の状態を永続させているのはUNRWAとパレスチナ自治政府に責任があると非難した。

イスラエルが提示する根拠は、1948年に約80万人のユダヤ人もアラブ諸国から追放されたというものだ。

よって、人口交換があったとして、この議論は終わらせるべきだという。しかし、この人口の「等価交換」は精査に耐えられない。祖国を離れたアラブ系ユダヤ人は新たに建国されたイスラエルの市民となったが、国家を持たないパレスチナ人はいつまでも難民のままである。イスラエル人は、続々と帰還するパレスチナ人に圧倒されるのではないかと心配なのだ。

パレスチナ国家が成立すれば、現在無国籍で、数カ国しか受け入れていない渡航書類を持っているパレスチナ難民全員に政治的代表権を与えることになる。繰り返しになるが、イスラエル側からみた困難な問題とは、「もし難民全員が出身地に戻ると決めたらどうなるのか」である。1974年の国連総会決議第3236号には、「追放された郷里に帰還し奪われた財産を取り戻すパレスチナ人の不可侵の権利を再確認し、その帰還を要請する」とある。

イスラエル建国には、認識し対処すべき夥しい土地収奪が関係していた。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

イスラエル人は常に、1948年に起きた大規模な追放は合法的であったと説明しようとする。しかしそうではなかった。ご存じの通り、国連はパレスチナを分割し、55パーセントをユダヤ人に与えてイスラエル建国に導いた。しかしこの分割により、ユダヤ人にその土地の住民を追い出す権利が与えられたわけではない。たとえば、オスマン帝国の臣民だった著者の曽祖父はベイルートに家があったので、1920年に大レバノン国家が成立すると、レバノン国の管轄下に暮らすレバノン国民となった。レバノン山脈の住民が、曾祖父のところにやって来ては家から追い出し、代わりに住むなどという権利を持っていたわけではない。そんなことは決してなかった。

イスラエル建国には、認識し対処すべき夥しい土地収奪が関係していた。人々は私有地から追い出されたのだ。この土地収奪が抵抗の原動力となる不公平感を生み出した。この問題を公正に解決することは、イスラエルにとって、そして国際社会にとっても利益となる。

実際にパレスチナ難民が帰還するのが困難で、イスラエル人にとって脅威とみなされるのであれば、パレスチナ人に補償すべきである。イスラエル人はここで「1948年に祖国を離れたユダヤ人はどうなるのか」と問うだろう。もちろん、正義が選択的、排他的であってはならない。正義はすべての人のためにあるべきだ。だから、国連の下に法廷を設置し、自分の財産の証拠とそれが強制的に奪われたという証拠を提示できる人々に補償すべきである。パレスチナ難民だけでなく、1948年にアラブ諸国を離れたり追放されたりしたユダヤ人も対象にするのである。そうすると数十億ドルの補償が必要で、何年もかかるかもしれない。しかし、持続可能な和平のために払う代償としては小さなものだ。

アラブ連盟も、1948年に祖国を離れたユダヤ人の帰還権を言明すべきである。1948年以前、バグダッド市民の3分の1がユダヤ人だった。イラク出身の英国系イスラエル人の歴史家アヴィ・シュレイム氏によれば、バグダッドのユダヤ人は「イラク社会で非常にプラスの力を持っていた」という。しかし今は違う。「何が変わったのか。それはイスラエル国家の誕生だ」とシュレイム氏は主張する。もちろん、仮にアラブ連盟が帰還権を発表したとしても、現状のイラクのバグダッドに、アラブ出身のユダヤ系イスラエル人が戻るとは思えない。しかし、このような決議があれば、イスラエルが、特に現在のネタニヤフ政権が煽っている敵意ではなく、人々の間に一体感が生まれるだろう。ユダヤ人はアラブ諸国によって迫害されてきたと、アラブ出身のユダヤ系イスラエル人や国際社会に思いこませようとしてきたのだ。このような被害者意識がパレスチナ人の虐待を正当化しているところがある。

難民への補償を決める法廷が設置され、アラブ系ユダヤ人にもアラブ諸国の先祖からの故郷へ帰還する権利を与えられるのであれば、イスラエル右派の被害者意識というウソの物語は解体されることだろう。イスラエル右派は、アラブ人やパレスチナ人がユダヤ民族を迫害していると自国民に説明し、この憎悪と恐怖をエネルギーにして勢力を伸ばしている。和平と公正な和解を実現するためには、このような物語を解体し、土地や財産の剥奪に対処する必要があるのだ。

• ダニア・コレイラト・ハティブ博士は、ロビー活動に重点を置く米国とアラブ諸国関係の専門家。トラックII 外交に注力するレバノンの非政府組織「協力・平和構築研究センター」の共同創設者。

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