イラクは、破綻国家への道を進んでいるのだろうか?先週、連合軍の兵士を数人殺害したカタイブ・ヒズボラの過激派(人民動員隊の一部)は、イランはもちろん、イラク議会の有力者とも緊密な同盟関係にある。これは、イラクがいかに国民国家から、イランの覇権下で準軍事的領土の戦闘集団へと発展しているかを示す、警告すべき多くの兆候のひとつにすぎない。
イラク人は、効果的な支配と政府に横行する汚職の終結を求めている。しかし、首相に任命された人は誰もが、おいしい金のなる木や資格のない歩兵の雇用源として、政治的恩顧主義の派閥の閣僚にうまみをばらまかねばならないという、大変な圧力に直面している。ムハンマド・アラウィ次期首相は、怒ったイラクのシーア派多数派の抗議運動によって拒否されたが、とにかく政府をひとつにまとめようと試み失敗に終わった。2018年の選挙では統一した選挙結果を出せなかったため、どの候補者も実質的には過半数を獲得することはほぼ不可能だった。シーア派の政治家は、イランとの関係や民兵の動員解除などの基本的な問題について180度反対の見解を持っており、非妥協的な姿勢で対立している。
1月にアメリカがガセム・ソレイマニとアブ・マハディ・アル・ムハンディスを殺害した後、聖職者で政治の中心人物でもあるムクタダ・アッ・サドル(サドル師)は、イランを後ろ盾にしてその支配下に入ることを切望した。しかも翌朝には、彼は方針を180度転換して抗議運動の賛同者をやめ、市民の蜂起を鎮圧するために歩兵を派遣したのだ。これは、サドル師の政治的重みを考えると、シーア派陣営内の勢力バランスをイラン側へと傾ける決定打となった。
新しい首相候補の選任期限が近づく中、多数派のシーア派が独占する7人委員会が、政府成立という課題に挑戦している。イラン国家安全保障理事会書記アリ・シャムカーニは、ここ数週間、バグダッドでこの過程の舵取りを手伝い、準軍事組織のアル・ハッシュド派閥に対するイランの支配を強化し、米軍の立ち退きを扇動している。レバノン同様、長期にわたる政治の麻痺状態が当たり前になっているがその一方で、自己利益を求める議会内派閥が政府での地位を巡り論争している。
イラン上級部隊の後継者の1人でヒズボラの兵士、そしてソレイマニの後継者であるシャムカーニは、多国籍を代理する民兵のイラン政府の人物の間の秩序を回復しようと模索している。カタイブ・ヒズボラやアサイブ・アフル・ハックのように、アル・ハッシュドの民兵の最高指導者アリ・ハメネイへの形だけの忠誠心を疑う余地はないが、自信に満ちたリーダーシップの不在により、この複数の派閥(新聞報道では約60の派閥が存在する)は、縄張り争いにエネルギーを費やしているのだ。
これらの民兵は当初、イランが動員し武装させていたが、2014年以降、主にイラクの国家予算から資金を調達している(年間約21億ドルという多額の資金)。イランの資金は米国による制裁が重荷となって、驚異的にさらに減少した。その結果、これらの民兵は犯罪ネットワークへと変貌し、薬物、武器、売春、石油密輸、マネーロンダリングなど収益の上がる企業と結託して、イラクの都市や州で自分たちの領土を広げ、市民や企業から金銭を強要した。ラテンアメリカの麻薬カルテルのように、この勢力は国家よりも多くの武器を持つように脅かして市民を恐怖に陥れ、イラク全土における事実上の支配権を成立させようと戦っているのである。ここ最近数カ月、この不可解な民兵が、何百人もの抗議者を殺すために動員されていた。
2003年以降、イラクを脆弱で政治的に分裂させたまま、イラクを支配することがイラン政府の外交政策の優先事項だった。ヒズボラはレバノンにおいて、イランの覇権の他の追随を許さない代理として設立された。一方で、イラン政府はイラクにおいて、対立する計略や厳しい競争を拡大させる間、イランの意のままに動く、多数のライバルであるシーア派民兵や政治的派閥の勢力を強めていった。
その間、「イスラム国」紛争後の都市の再建には、微々たる進展しかなかった。モースルだけでも、約138,000もの家屋がひどい被害を受けた。ニネベ州の主要な避難民キャンプは強制的に閉鎖されて、2019年には約186,000人がこれらのキャンプから出たものの、多くの場合、戻れる家はなかったのだ。これは、スンニ派の地域社会の再建に大きな影響を与えている。失業率は非常に高く、家族はすべてを失っている。基本的なサービスを受けるためには市民権に関する書類を入手する必要があるが、多くの場合、公的手続きにおいて障害が立ちはだかる。「イスラム国」と関係していたという、十把一絡げにした烙印に直面しているのだ。これらの地域社会が、シーア派に属し親イランの傾向があると(不当にではなく)広く認識されている政権によって、市民として扱われない場合、将来におけるイラクの統一の先行きが暗くなるだろう。クルド人の社会経済的状況は間違いなく好転しているが、イラク国家との統合は一段と弱まっている。
イランとその代理組織による2019年の国際目標に対する挑発はほとんどが無視されたが、そのことがアヤトラをさらに勇気づけた。アメリカのトランプ大統領は、この過ちから学ぶことがあったようだ。ソレイマニに対する攻撃はイラン政府に大きな心理的な衝撃を与えたが、一方で、最新のミサイル攻撃への米国の反応により、ゲームのルールが変わったことが明確になった。つまり、イランおよび同盟関係にある組織はもはや、責任を問われることなく、外国を目標にして攻撃することは不可能なのである。
イラン政府は、対立する計略を拡大させる間にイランの意のままに動く、多数のライバルであるシーア派民兵や政治的派閥の勢力を強めていった。
バリア・アラムディン
イラク当局は、これらの民兵に外国人を攻撃させないために何ひとつしていない。これら外国人の多くは、「イスラム国」の復活を阻止しようとしているイラク軍への支援という、必要な役割を果たしてるのに、だ。しかし、米国が、イランが雇う過激派を標的とするこれらの攻撃に対応すると、イラクの指導者たちは目を覚まし、大騒ぎで非難や脅迫を始めて、この問題を国連で言及するだろう。しかし、いかに多くの上級政治家がイラン政府の支配下にあるかを思い出させることになるだろう。
イラクは長年、主権国家としての機能を停止させている。イラクはますます、イランの慰みものが支配を求めて争う、無法地帯へと悪化し、敵対心で外国の政策課題を促進するために、イラク人の生命を費やしているのだ。イラクには、機能している政府、首尾一貫した国家的アイデンティティ、軍隊の優位性、争いのない統治権が存在しない。さらに、大規模な抗議、コロナウイルス、原油価格の下落、マクロ経済政策の失敗といった大嵐の中で、イラクの経済は深刻な問題に直面している。
イラクは過去20年間において、何度か内戦に追い込まれている。もし、宗派横断的、民族主義的、そして効果的な統治を支援する緊急の介入がなければ、国際社会が再び加わり、困難な事態を収拾せざるを得なくなるのは、時間の問題である。