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コロナウイルス大流行、各国政府対応の試練

ドナルド・トランプ大統領がワシントン D.C. における国民に向けた談話で COVID-19 コロナウイルスのパンデミックに対する米国の対応を発表する。(Getty Images)
ドナルド・トランプ大統領がワシントン D.C. における国民に向けた談話で COVID-19 コロナウイルスのパンデミックに対する米国の対応を発表する。(Getty Images)
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17 Mar 2020 12:03:55 GMT9
17 Mar 2020 12:03:55 GMT9

中東ならびに世界各国は中国で昨年末に発生して以来世界中で数千人の死者を出しているコロナウイルスのパンデミックという前例の無い世界的脅威に対応するために封鎖を始めている。サウジアラビア・ヨルダン・クウェート・バーレーン・アラブ首長国連邦・レバノンの各国は国土の部分的もしくは全体的な封鎖を行っている。各国は新たな感染者の発生と感染の拡大を防ぐために厳格な措置を取っている。これらの措置は各国や周辺地域、ならびに世界の経済に短期的、中期的、長期的な影響を及ぼすことは明らかである。

中東とヨーロッパで拡大するコロナウイルスの感染が現在は話題の中心である。中国がようやく感染拡大を抑制しつつある様であるそばで、ヨーロッパが感染の中心となっている。各国政府は新規感染者数を減らし感染者数を横ばいに保つために「社会的距離の確保」を推進することに躍起になっている。このことはショッピングモールやレストラン、スポーツジム、学校および大学、ならびに官庁を閉鎖し、市民に人混みを避け自宅で待機することを呼びかけることを意味する。サウジアラビア・クウェート・ヨルダン・イスラエルの各国は国際線の発着を停止した。これらの措置がどれほどの期間続くのかが今最も重要な疑問だ。封鎖が長引けば長引くほど経済への悪影響は大きくなり、差し迫る世界的な不況を予想する声もすでに聞かれる。

このパンデミックに対する様々な反応は各国政府の国家緊急事態への対応能力を明らかにする。感染の発生が報告されてからサウジアラビアは迅速に効果的かつ断固とした対応を取った。市民を守るために国際線全便発着の停止以前からメッカのグランドモスクにおける礼拝を中止し国境の閉鎖を行っていた。他の湾岸諸国も同様の措置を取った。

一方でイラン政府の対応は鈍く、ウイルスはコムから他の都市や地域へと感染を拡大して行った。貴重な時間を無駄にし政治活動によって必要な予防措置が影響されたため、イランは地域における流行の中心地となり、感染はそこから湾岸諸国およびイラクへと拡大していった。月曜日にイラン政府は 1 日の死者数の増加としては今までで最大となる 129 人の死者を発表した。死者数の合計は 853 人となり、感染が確認された人の数はおよそ 15,000 人に及ぶ。コロナウイルスに対するイラン政府の対応を指揮する政府関係者は日曜日、このパンデミックによって医療崩壊が起きる可能性があることを認めた。

アメリカによる厳しい制裁に苦しんでいる事実をもってしても、イランが感染の流行に対して適宜に対応できなかったことで国外における代理戦争に貴重な資源を費やす体制に対する市民の不信感は高まっている。この危機は当初コロナウイルスの脅威を軽視していた最高指導者アリ・ハメネイ師と支持率が低迷するハサン・ロウハニ大統領の政府にとって新たな難題となっている。

感染発生に対して素早く予防措置を取ったイスラエルでは批判が集まるベンヤミン・ネタニヤフ首相が再度の総選挙直後に政治生命を賭けて戦っており、最近の政治局面が引き続いている。首相はコロナウイルスの流行を機に最大のライバルであるベニー・ガンツ氏に対して連立内閣樹立への参加を呼びかけたが、 15 議席を獲得して第三政党となったアラブリスト連合に対しては呼びかけを行わなかった。また首相はウイルスの流行を理由として自身に対する裁判を最低 2 ヶ月延期させた。

そこでアラブリスト連合は歴史的な意思表示である全体としてのガンツ氏の「青と白」ブロックへの支持を表明した。これはアヴィグドール・リーベルマン氏と左派による支持を合わせるとガンツ氏は政権樹立に向けた「マジックナンバー」である 62 議席を確保したことを意味する。現状では波乱に満ちたネタニヤフ首相の政治生命は象徴的な「コロナウイルスの犠牲者」としてついに終わりを迎えることになりそうだ。

イランが感染の流行に対して適宜に対応できなかったことで国外における代理戦争に貴重な資源を費やす体制に対する市民の不信感は高まっている。

オサマ・アル=シャリフ

さらにもう 1 人コロナウイルスの犠牲者となりうる人物はアメリカ大統領ドナルド・トランプ氏だ。彼は世界的な流行を無頓着にも「民主党によるでっち上げ」と銘打っていたが、結果として株式市場の暴落が起きた。先週彼が国家非常事態を宣言するまでにアメリカはウイルス感染の拡大を抑制する予防措置を導入する貴重な時間を最低でも 2 ヶ月は無駄にした。この危機的状況の処理の不手際によって有権者における彼の立場は悪化した。国内の一部地域で封鎖が実施されビジネスや株式市場が影響を受ける中でこの傾向は特に顕著である。現時点で選挙集会が中止されたことで支持者と繋がりを持ちそれを動力とするための彼にとって最も重要な壇上は失われてしまった。

グローバル化した世界にとって気候変動や商業的相互依存と同様にパンデミックは各国政府の能力と準備を試す機会となる。コロナウイルスを抑え込むことに成功した際には各国政府は互いの経験を共有しそこから学ぶことを期待したい。これはさらに重要なことであるが、脆弱な経済に損害を与える世界的な不況の影響を最小限に留めるために各国政府は団結しなければならない。

オサマ・アル=シャリフはアンマンを拠点とするジャーナリストであり政治コメンテーターである。 Twitter: @plato010

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