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OPECプラスプラス会合の裏でうごめくそれぞれの計略

ロシアもサウジアラビアも、OPECブラスだけでは荷が勝つと感じているのが真の問題なのだ。(ロイター)
ロシアもサウジアラビアも、OPECブラスだけでは荷が勝つと感じているのが真の問題なのだ。(ロイター)
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08 Apr 2020 12:04:39 GMT9
08 Apr 2020 12:04:39 GMT9

コーネリア・マイヤー

原油価格は先週木曜の4月2日、ドナルド・トランプ米大統領のツイート内容を受け急騰した。トランプ氏は、サウジアラビアのムハンマド皇太子とロシアのヴラジーミル・プーチン大統領の両者に原油市場でのシェア争いをやめるよう訴えたとし、ついでOPECプラスによる減産を予告した。OPECプラスとは、OPEC諸国とロシア主導の10カ国による協調体制だ。トランプ氏は、減産は日量1,000~1,500万バレル程度が望ましいと旗を振った。これを受け原油価格は22%上昇、ブレントもこの日1バレル29.29ドルで取引を終えた。ブレントについてはその後週末にかけて1バレル30ドル超で取引された。

明けて月曜の4月6日には、OPECブラスによる遠隔会議開催の期待が高まったものの、OPECブラスの合意終焉の経緯について技術的な詰めでサウジとロシアが一致点を見いだせなかったため開かれなかった。両国はまた、減産をするにしろ、どの時期を減産のとっかかりとするかについても意見を異にしている。ロシアは、サウジが日量970万バレル程度を生産していた第1四半期を主張。サウジは、日量1,200万バレル超と自国に有利な現行の生産期間としたいはらがある。

ロシアもサウジもOPECプラスだけでは荷が勝つと見ている点が真の問題だ。特にロシアは、ロシア産天然ガスをバルト海経由でドイツへ送る海底パイプライン、ノルドストリーム2について、米側が制裁措置を取ったり声高に反対したりしていることに憤りを募らせている。同事業は工事担当企業がじかに制裁を加えられたことを受け撤退、竣工間際で足踏み状態にある。

OPECプラスが減産に合意するなど通り一遍でできるものではない。まして交渉に入る国が増えるとなればその多難さなど言うも疎かだ。例えばノルウェーは交渉入りに前向きだとされる。カナダ、ブラジル、メキシコなども加わる見込みがある。難関は米国だ。2週間ばかり前にOPECのムハンマド・バルキンド事務局長がテキサス鉄道委員会(TRC)のライアン・シットン委員長を訪ねている。このTRCというのは実はテキサス州のシェール規制当局だ。原油価格の超低落にどこよりも打撃を受けているのがシェール事業者であり、事業に高コストがかかるがゆえに現行の価格水準が維持されると多くが倒産する恐れがある。

とはいえはっきりしていることもひとつある。ロシアにしてもサウジアラビアにしても、何の取引をするにせよ自国だけ損な役回りを引き受ける気などさらさらない、ということだ。

コーネリア・マイヤー

3日、トランプ氏は国内の石油企業と面会したが、OPECプラスの遠隔会議に参加するといった提案もなく、これといった実りはなかった。公平を期したいので、米国の減産協議はそう簡単ではないことも言っておく。米国にはサウジやロシアのような国有石油企業もなく、政府と緊密に結びついたごく少数の支配的な企業があるわけでもないのだ。米国の石油企業はともかく多すぎる。多くの弱小企業、その他の中規模の独立系、そしてメジャー3社だ。いずれにせよ業界の現況に鑑みれば米国で減産があっても実態は名ばかりとなるはずだ。

G20議長国のサウジアラビアは、週末までに、そうしてG20財務相遠隔会議が開催される前に、何らかの成果を示すことを迫られている。トランプ氏は一貫してサウジの強い味方であるだけに、サウジ政府が折れてくることは期待しているはずだ。

石油をめぐっては、各国間の電話回線で表では直接やりとりがもたれ、裏でも腹の探り合いが続き活発な趨勢だ。ロシアは米国の減産参加を主張するはずで、自国の減産の見返りとして制裁の緩和を思い描く。OPECに近いある筋はこんなことを言っている。選挙イヤーだけにトランプも国内の石油産業をにらみ厳しい立場ではあろうけれども、この際アメリカも多少なりといい顔をして見せるのも大事ではないかと思う、と。

トランプ氏はサウジとロシアの原油輸入に関税を課すことをちらつかせている。関税と言われれば深刻そうだが実際はそうでもない。両国とも輸出の大半はアジア向けであり一部が欧州向けとなっているから。

減産の背後にひかえる真の問題は、貯蔵の問題だ。貯蔵にかかる費用は増大しているが、ある段階でもはや世界のどこにも貯蔵できる場所がなくなってしまいかねない。TRCのシットン委員長は、その時期はテキサス州パーミアン盆地では6月初頭になるとしている。

問題はまだある。恒久的な影響を及ぼせないようでは、いくら減産しても意味がない。国際エネルギー機関(IEA)では、石油需要が崩壊し、新型コロナウイルス感染症への対策に終わりが見えないなかでは、底値をつけるのは困難だろうとしている。

目下、冗談混じりに言われているのは日量1,000万バレルの減産でどうか、ということだ。新型コロナ禍によっていかばかり需要が落ちこんだのか、はっきり見通せる者はだれもいない。多くのアナリストが提示するのは日量2,000から2,500万バレルだ。筆者の見立てではそれらも凌駕するとみる。つまり、いま取り沙汰されている数字程度は原油価格には一時の気休めでしかないということだ。需要が崩壊していることを考えればそれも十分ではない。いまはまだなかなか光明は見えないのだ。

OPEC事務局では減産の数値について、どれだけあればよいのか、どれだけのものになりうるか、試算している。そうして、最終的にどれだけの国が参加するにしろ、それらの国々でどの程度分け合うべきかも考慮している。

今回は、OPECプラス最大の試煉となる会合となるやもしれない。要求は引きも切らないし、中には自分で勝手に引いた線から一歩も引けぬと主張する国もある。とはいえはっきりしていることもひとつある。ロシアにしてもサウジアラビアにしても、何の取引をするにせよ自国だけ損な役回りを引き受ける気などさらさらない、ということだ。両国とも妥協も近いともされているが、それも、OPECプラス以外の国々が何をもたせてくれるのかで大きく異なるはずだ。欧州では正午までに、ブレントは1バレル33.25ドルに到達、きょうだけで2.5%の上昇となった。

  • コーネリア・マイヤー氏は、経営コンサルタント、マクロエコノミスト、エネルギー問題専門家。Twitter: @MeyerResources
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