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このパンデミックでは貧困者が最大の代償を払うことになる

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12 Apr 2020 07:04:00 GMT9
12 Apr 2020 07:04:00 GMT9

COVID-19のパンデミックに起因する感染者数と死者数に関する連日のメディア報道の対象は豊かな国に偏っているきらいがある。狭い住居に大勢が住み、十分な栄養や医療にアクセスできないことから貧困者の方がリスクが高いとする研究報告はあるが、その種の研究の大半は対象がアメリカまたはヨーロッパだ。実際、アメリカやヨーロッパは問題を抱えている。パンデミックが原因で経済が縮小するなか、アメリカだけでも1700万人と、多くの失業者が出ている。わずか数週間前には想像もつかなかった長い行列に見舞われているフードバンクは運営が逼迫している。

医療制度が比較的うまく機能している国でも、この事情は変わらない。ロンドンからニューヨーク、武漢からパリに至るさまざまな都市でCOVID-19患者専用の新しい病院が記録的な速度で建設され、運営を開始している。これらの裕福な国でさえ、医療従事者が利用できる保護具は不足しており、十分な数の集中治療室のベッドや人工呼吸器にアクセスできない病院が続出している。これらの国は隣国や同盟国を仕向地とする医療機器の輸出を文字通り「ハイジャック」している。

これが豊かな経済社会の現状だ。最良の状態でさえ不十分な医療制度しか持っていない低所得国に目を転じると、状況ははるかに悲惨な様相を呈する。ウイルスへの感染が拡大するにつれて、アフリカ、アジア、中南米の諸国は手ひどい打撃を受けるだろう。この場合も、最も大きな打撃を受けるのはスラムに暮らす貧困者だ。居住区は人で埋め尽くされ、公衆衛生は最悪の状態にある。頻繁に手を洗い、石鹸をたくさん使うようにという医師の指導は、彼らの耳にはとんでもない皮肉のように聞こえるにちがいない。きれいな水も石鹸もないというのに、どうすればそんなことができるというのか。

それよりさらに気が滅入るのが難民の窮状だ。中東だけでも、控えめに見積もって2千万人の難民が、既に破綻寸前の医療制度を抱えた崩壊国家や紛争に苦しむ国々に散らばっている。600万人のシリア人が国外で難民となっている。それに加えて、破壊されたイドリブ県だけでも100万人に上る主に国内の難民が多数存在する。アメリカ主導の侵攻以降、200万人のイラク人がいまだに難民の状態にあると国連は推定している。イエメンには300万人のアフガニスタン難民と400万人を超える国内の難民がおり、リビアやその他の国々では紛争が続いていて、それらすべてが住民を家から追い出している。

これらの難民の大半は、人口密度が高く、公衆衛生にほとんどアクセスできず、食糧の供給が不十分な難民キャンプに暮らしている。キャンプの世話をしている難民支援者の保護具が不足していることはいうまでもない。急速に蔓延するウイルスの温床があるとすれば、難民キャンプがそれだ。

最良の状態でさえ不十分な医療制度しか持っていない低所得国に目を転じると、COVID-19の危機は、はるかに悲惨な様相を呈する。ウイルスへの感染が拡大するにつれて、アフリカ、アジア、中南米の諸国は手ひどい打撃を受けるだろう。

コーネリア・マイヤー

これらの難民キャンプではCOVID-19の感染例がほとんど報告されていない。今月初め、ギリシャで初めて難民の感染例が報告されたが、レバント地方のシリア難民の感染例はまだ報告されていない。難民の感染例は、ないわけではなく、報告されていないだけだ。検査キットにほとんどアクセスできないというのに、感染者を調べることなどできるわけがない。

さらに悪いことに、これらの崩壊国家とそこに存在する難民キャンプが破綻を免れているのは、ウイルスを拡散させることが確実な水面下の取引ネットワークがあるからだ。

先進国が自国のウイルス関連の経済問題に集中的に取り組んでいる間に、援助金は当然枯渇していく。国連の世界食糧計画が格好の例だ。世界食糧計画は慢性的な資金不足に陥っているが、それでもイエメンなどの紛争地帯で多くの人々に栄養を補給し続けている。さまざまな理由から、世界食糧計画は今後数ヶ月でイエメンへの援助を40%削減する予定だ。

地球上で最も不運な人々の間でウイルスが蔓延したときの状況は想像するだに恐ろしい。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、新型コロナウイルスの危機が続いている間は停戦するよう紛争当事国に呼びかけた。一部の国はその呼びかけに応じた。たとえば、サウジアラビアはイエメンでの2週間の停戦を延長する用意がある。リビアでは、一部の勢力はグテーレスの呼びかけを聞き入れたが、東部地域を支配するハリファ・ハフタルをはじめとする多くの勢力が呼びかけに応じていない。リビアでは、既にコロナウイルスを巡るある種の責任のなすり合いが始まっている。

多くの裕福な国が理解していないのは、それらの国の周辺地域にある難民キャンプで起きることは、やがて彼らにも影響を及ぼすことだ。ヨーロッパやアメリカで危機が終息するにつれて渡航制限が緩和されたとき、これらの難民はましな暮らしを求めて何としても国境を越えようとするだろう。そのとき、難民はそれらの国にウイルスを持ち込み、事態は振り出しに戻って再びロックダウンが実施されるだろう。したがって、これらOECD諸国のパンデミック戦略では、難民キャンプで起きることを考慮に入れる必要がある。公衆衛生学の教授で「人道支援における教育および研究のためのジュネーブセンター」を率いるカール・ブランシェは、その事情をこのようにうまく表現している。「この戦略にすべての人を含めるか、さもなければ我々が戦略的に失敗するか、二つに一つです。これらの人々を含めない選択肢は、我々の社会全体にとって失敗の処方箋にほかなりません」

COVID-19の感染が難民キャンプにどれだけ広がるかは、単なる著しい過小報告という問題にとどまらず、世界の裕福な人々にとっても、最も貧しい人々と同様に、大問題なのだ。私たちが同胞の人間として弱者を保護する必要があるのは、それが正しいことだからだが、同時にそれが自己を利する行為でもあるからだ。

コーネリア・マイヤーはビジネスコンサルタント、マクロエコノミスト、エネルギー専門家である。Twitter: @MeyerResources

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