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これからの最重要産品:データはなぜ新しい石油と見なされるのか

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10 Aug 2020 12:08:17 GMT9
10 Aug 2020 12:08:17 GMT9

データは21世紀の石油となった。この根本的な価値を持つ膨大な資源は、少なくとも中東と北アフリカ地域では、まだ完全には活用されていない。世界は急速に「石油ピーク」に近づいており、それを過ぎれば、石油の消費は減少し、大きく下がる価格はかつては莫大だったオイルからの収益を低下させることになる。

中東諸国の政府に先見の明があれば、これまでに前兆を感じ取って、避けられない事態に備えていたことだろう。そうした事態に備える方法としては、これまで爆発的に成長し、世界経済を丸ごと変容させたにもかかわらず、資金もリソースも十分には与えられていないセクターを活用することが考えられる。10年前には、テクノロジー企業が製造した電気自動車が、環境に優しい自動車による革命をもたらし、その企業が従来の自動車メーカーを凌ぐ規模に成長する、というストーリーは多くの人に笑われたことだろう。しかし、テスラはまさにそれを成し遂げたのである。それは、Airbnbがホスピタリティ産業をひっくり返し、Amazonが実店舗を破壊し、Uberが個人向け輸送にダメージを与え、ソーシャルメディアが従来のニュースメディアと通信の時代の終わりを告げたのと同様のことなのだ。

データの持つ力とはこのようなものだ。世界の10大企業のうち7社は、テクノロジー、データ、インターネットサービスを事業分野としており、合計で6.4兆ドル以上の価値を保持している。この額はGCC(湾岸協力会議)諸国のGDPの合計のほぼ4倍、MENA地域全体のほぼ2倍近くに相当する。

さらに、データ関連分野にはまだまだ成長の余地があるのだ。なぜなら、世界の少なくとも40%がインターネットに接続されていないか、データ主導の最新の技術革新に触れていないのだから。しかし、人工知能、ビッグデータ、分析、高速5G接続の出現にもかかわらず、データ主導の新しいテクノロジーの導入が鈍化し、場合によっては減少しているのは奇妙に見える。この頑なさの原因は短期主義と文化的硬直性であることが多く、これらはさらに悪いことに、セクター、分野、国境を越えて浸透し、長期的な利益を犠牲にして短期的な利益を得ようとするゆがんだ計画をもたらしている。

新型コロナウイルス感染症の流行後の世界は徐々に形作られつつあり、競合する諸地域が共通の利益のために戦略的バランスを争う、多極型秩序に収束しようとしている。現在見られる地理的・政治的な代理紛争は、軍事的勝利だけでも機敏な外交だけでも、また言うまでもなく経済的優位性だけでも、もはや十分ではないことの証拠となっている。

国や地域に優位性を与えるのは、利害の一致、確立された共通性、文化の共有、および近接性に基づく、現実主義だ。したがって、MENA諸国が、繁栄はもちろん、存続していきたいと思うのなら、テクノロジーとデータ主導のイノベーションへと向かう避けられない大きな変化への準備を整え、国と地域の安全保障の問題としても、テクノロジーへの投資を経済的要請として優先させなければならない。

アラブ諸国が同地域全体、および発展途上諸国において技術革新を推進することは非常に重要である。この地域は、ヨーロッパ、アジア、アフリカの接点として存在感を発揮するのに最適な場所に位置しており、すでに航空輸送、観光、ホスピタリティ、不動産、貨物、物流の各分野において多大な恩恵を生み出している。

アラブ諸国が同地域全体、および発展途上諸国において技術革新を推進することは非常に重要である。

ハフド・アルグウェル

加えて、もしアラブ地域が少なくとも2023年までは経済的な逆風に直面し続けるという場合でも、各国内、地域内、および海外の新興企業への投資を優先できる、豊かな人材、技術リソース、資本がまだ残されるはずなのだ。地元の資源が利用できない場合でも、アラブ地域は、必要な人材と投資を引き付けて維持するためのインフラストラクチャーと経験を既に持っている。また、多数の移民はGCC諸国の人口構成を多様化している。このことは、テクノロジー主導のソリューションを特定のターゲット市場の言語または方言に適合させる際に、使用および導入が容易にし、大きな利点となる。

例えばGCC諸国の政府にとっても、次の段階へと進化し、アラブ地域が世界のデジタル経済で足場を固めることにつながるようなイニシアチブ・取組み・プログラムに積極的に関与、または資金を提供することは不可欠だ。

世界のほとんどの国にはすでに何らかのテクノロジーセクターがあり、起業家たちはアナログシステムに代わるデジタルソリューションを立ち上げようとしている。こうした取り組みに、新しい市場で足場を固めたり現在の保有部分を拡大したりするために、参加、投資、提携したりするのは容易なことだ。長い目で見れば実は有用なことでもあるだろう。というのは、発展途上諸国のほとんどの新興企業にとっての最大の懸念は、市場全体にパートナーシップがほとんどないことであり、プロジェクトが十分な規模に達する前に停止してしまう可能性があることだからだ。

端的に言って、アラブ地域は、自地域や発展途上諸国全体の眠っている可能性のより容易な有効活用につながる数多くの利点を持つ、重要性の高い接点に位置している。膨大な量のデータのマイニング、抽出、処理に重点を置くことにより、世界のサービスが行き届いていない地域の一部で現場のソリューションに貢献し、衰退の危機にある石油セクターを効果的に代替するのに十分な規模の大きさが実現される。

言い換えれば、インターネットにアクセスする世界の人口の60%が少なくとも6兆ドルの富を獲得しているとすれば、まだ約4兆ドルが誰のものになるか分かっておらず、残された時間は少なくなっているということだ。確かに、新型コロナウイルス感染症の流行からの回復はほとんどの経済圏にとって優先事項だ。しかし、賢明なプランとは、未開発でサービスをまだ享受していないが潜在的な収益性が高いセクターを活用に目を向けることにより、回復および回復力の構築の両者に重点を置くものであるだろう。

さらに、アフリカ、中東、およびアジアの一部においては、当面の間は人口増加が見込まれる。これは、投資、事業、イノベーションの機会の増加につながるものだ。このような戦略を通して、アラブ諸国は、技術とデータ主導の革新への飽くなき欲求に彩られた成長市場によって支えられている新しい石油(の時代に、ポジションを確保することができるのだ。アラブ地域が、それら成長市場の最初の寄港地となることを願うしかない。

  • ハフド・アルグウェル氏は、ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院の外交政策研究所の非居住シニアフェロー。彼はまた、国際経済コンサルタントMaxwell Stampおよび地政学的リスクアドバイザリー会社Oxford Analyticaのシニアアドバイザーであり、ワシントンDCStrategic Advisory Solutions International Groupのメンバー、世界銀行グループの理事会の元アドバイザーでもある。Twitter: @HafedAlGhwell
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