
ベイルート港での爆発の翌週、爆発が政府の愚劣と無関心が自国の人々を苦しめるはるか以前からレバノンに影響を及ぼしてきた壊滅的な危機が表面化した。先週火曜日からの一連の出来事は、長引く安全保障、政治、経済、人道的災害に対しレバノン政府がどのように対処してきたかを強調している。ヒズボラと同盟国の主導により、レバノン政府はレバノン国民の利益ではなく、ヒズボラと同盟国、イランの政治的利益を優先してきた。
レバノン政府と国民の間の溝は、政府に対するレバノン国民の反応が反映されている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、レバノンのどの指導者よりも先にベイルートの被災地を訪れたことは多くを物語っている。
爆発の前日の8月3日、ナシフ・ヒッティ外相は、レバノン政府は同国が破綻国家へ転落する危機を回避出来なかったと警告し辞任している。爆発後、他の閣僚も追って辞任を表明し、8月10日にはハッサン・ディアブ首相自身が汚職体制と戦いたかったものの「汚職体制は国家よりも巨大」であることが判明したとして、内閣総辞職を発表した。
フランスが今月9日に開催した資金支援のための国際会議では、レバノンが世界的に孤立し、国際社会からの信頼を失っていることが確認された。爆発の犠牲者対し深い同情を示す一方で、参加国は、汚職撲滅に対する取り組みや国際金融機関が提案した経済改革が進んでいないことに不満を表明した。
会議参加国は、総額約3億ドルを拠出することを決定したが、これはかつてレバノンのため数十億ドルを拠出した前回の資金支援と比べ少額となった。援助を約束している国々は、レバノン政府を介してではなく、国際的な援助団体を通じて、被災者に援助を直接届けることを主張している。支援国らはまた、経済及びガバナンス改革の実施を今後の援助提供の条件とした。さらに、多くの支援国が、今回の大規模爆発に対する独立調査と国際調査団の参加を要求した。レバノン政府の代表者はこれらの要求を無視し、国際的な調査の提案を拒否した。
昨年から始まった政府に対する抗議行動は、今回の爆発以降激化している。改革の可能性をあきらめ、完全に国を離れる準備を始めてしまったレバノン人が一部いることは悲しいことだ。多くの人が悲惨な内戦への回帰に対する懸念を表明した。
レバノンが数々の要因と失策の結果、壊滅しまったことは明らかであるが、元に戻すことは不可能ではない。レバノンは以前にもその回復力を示し、何度も灰の中から立ち上がることができた。私は、1989年10月にタイフ協定が締結された直後の1990年にレバノンを訪問した時のことを今でも覚えている。多くの人は14年に渡る内戦でレバノンを見限っていたが、この協定によりレバノンは再度命を得て復活した。しかし、協定の下で選出された初代大統領ルネ・モアワドが就任してわずか数週間で暗殺されると、しばらく国は再度絶望に包まれた。しかし、レバノン人はこれに耐え、別の大統領を選出し、再建のエンジンがかかった。
それ以来多くの大失敗により、人道的状況は絶望的に見え、経済は混乱に陥り、政治体制は膠着状態となっているこの現状に陥っている。
この混乱を解決することはおろか、この混乱を解きほぐすことは容易ではないだろう。レバノンの歴史から得た教訓は、困難で不確実なものではあるものの、いくつか解決策を示している。
第一に、レバノンの現在の指導者について我々がどう思おうと、人道支援を継続・強化する必要があるということだ。湾岸協力理事会の参加国は、レバノン政府に対し懸念を抱いているにもかかわらず、最初に援助を提供した。支援は、独立した支援団体の援助により、直接被災者の元に届けるべきである。レバノン政府がどのように被災地の復旧・復興に取り組むかは、今回の危機に対する政府の本気度を示すバロメーターとして多くの人が注目している。
二つ目に、爆発の原因についての国際的な独立した調査が急務である。今回の爆発の責任者に調査を依頼したり、政治的な組織に依頼したりしても、信頼できる調査結果とはならないだろう。透明性のある独立した調査の実施は、レバノン政府の信頼性回復につながるだろう。
レバノンは以前にもその回復力を示し、何度も灰の中から立ち上がることができた。
三つ目に、レバノンは5月の悲惨な債務不履行を受けて、経済を改革し、通貨を安定させ、信用力を回復させるために、国際通貨基金(IMF)と真摯に協力しなければならない。レバノンでは貧困ラインを下回ると推定される世帯が50%に上るが、経済活動を回復させなければ、より多くの世帯がこれに加わることになる。
四つ目に、レバノンは横行する汚職に対処する必要がある。ガバナンスを改善する効果的な方策を整備してきた世界銀行や国連機関からの支援を得ることができるだろう。
五つ目に、早期に選挙を実施して政治的な行き詰まりを解消する必要がある。レバノンには、数か月政党間で新内閣をめぐって揉めている余裕はない。前回の選挙では、選挙法の欠陥の結果として宗派間の選挙区操作が行われたため台無しになったという批判があった。タイフ合意によれば、政治的宗派主義ははるか前に終わったはずである。現在の民衆による多くの抗議デモでは、政府の仕事や様々な宗派や民族に対する政府補助金における宗派間の分断に終止符を打つため、新たな能力主義の政治システムを求めている。
六つ目は司法改革である。レバノンでは、大統領、首相、宗教指導者、ジャーナリスト、学者などが殺害されるなど、政治的な暗殺事件が多発している。また、政治的動機による大量の銃撃や大規模な拘留も発生している。これらに対し、レバノンの司法は何の行動も起こしていない。その失敗が、ハーグにレバノン特別裁判所が設置された理由の一つである。まず8月18日に予定されているラフィック・ハリリ元首相暗殺事件の判決を発表する際に、レバノン特別裁判所に協力することが先決である。レバノン特別裁判所への協力を怠れば、国際社会に誤ったメッセージを送り、他分野での協力に影響を与える可能性がある。