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新型コロナウイルスワクチンによって分断が深まるようなことがあってはならない

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18 Dec 2020 07:12:53 GMT9
18 Dec 2020 07:12:53 GMT9

新型コロナウイルス感染症ワクチンの製造競争はゴールラインに近づいているようであるが、ウイニングランをしている時間はない。世界にワクチンを接種することが新たな課題となる。

スピードが優先されるなか、ワクチン開発の競争を繰り広げたした製薬会社は、ものすごいスピード、素晴らしいコラボレーション、桁違いの競争力を示した。科学者たちが仕事を終えた今、問題は「限られた量のワクチンを世界中に公平に分配するにはどうすればよいか」ということになる。

危険なのは、ワクチン分配によって世界の「持つ者」と「持たざる者」との分断が明らかとなり、その分断が深まることである。結局のところ、パンデミックは世界中に不平等の断層線が存在することを露わにした。

最も貧しく脆弱な中間層が最も大きな打撃を受けた。彼らはズームを介して仕事を進めることができる幸運な人たちではない。世界銀行は、2021年に最大1億5000万人が極度の貧困に陥る可能性があると予測している。これは、ここ20年で初めての貧困数の増加となる。

さらに、最近なんとか貧困から抜け出し、不安定な下位中産階級に転じたアジアやアフリカの人々は、貧困へと逆戻りしてしまっている。一方、ズームを使った知的労働者は、自分たちの仕事をしっかり保持し、世界的パンデミックの間でさえ、自身の投資ポートフォリオの不可解な上昇を目撃した。

先進国の裕福な家庭は、学校の閉鎖期間中に子どもたちの教育水準を維持するうえで必要な、高速ブロードバンドアクセスやある種の特別な個別指導に対する金銭的な余裕があった。それ以外の家庭は、子どもたちは遅れを取ることとなった。

パンデミックによって引き起こされたダメージは数十年続くものの、ワクチンは私たちが正常な感覚を取り戻すのに大いに役立つ。もう1つの重要な問題は、「世界のどこが最初に救われるか?」ということである。

パンデミックによって引き起こされたダメージは数十年続くものの、ワクチンは私たちが正常な感覚を取り戻すのに大いに役立つ。

アフシン・モラヴィ

ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の同僚であるハル・ブランズがブルームバーグのオピニオン欄に書いたように、2021年の終わりまでには、「経済力を駆使してワクチンの早期供給を確保できる、ほとんどの裕福な先進国では、新型コロナウイルスが大した脅威とはならず、いわゆるグローバル・サウスで猛威を振るう」という状況に直面する可能性がある。

「民衆のワクチン連盟」は、67の貧しい国々で来年末までにワクチン接種を受けことができるのは、わずか10人に1人であると述べている。また、世界の人口のわずか14%を占める、主に欧米の先進諸国が、主要なワクチンの入手可能量の半分以上をすでに購入していることにも言及している。

ファイザーとビオンテックが共同開発した、有効性が95%のワクチンは、すでに米国の最前線の医療従事者と英国の高齢者に接種されている。ファイザーは米国に1億回分のワクチン供給を約束した。

2021年の終わりまでに、米国人口の大部分がワクチン接種を受け、同国は集団免疫への道を順調に進むこととなる。同様の集団予防接種の取り組みは、ヨーロッパでも年間を通じて実施される。したがって、西側諸国と「それ以外」という従来の分断が顕著になることが予想される。

一方、グローバル・サウスの一部の国、特にベトナム、台湾、アラブ首長国連邦はパンデミックに非常にうまく対処しており、北部の多くの国はパンデミックに苦しんでいる。

規模が小さく、統治に優れた国は、人口全体にワクチンを接種するために必要なワクチン投与数が西側諸国に比べてはるかに少なく、医療制度と政府はパンデミックへの対処に長けていることが証明されているため、西側の大国よりも回復しやすい可能性がある。たとえば、オーストラリアのグローバル感染症対策指数は、新型コロナウイルスへの対応に関して、シンガポール、アラブ首長国連邦、台湾を世界の上位10か国にランク付けしている。

しかし、パンデミックによって大きな打撃を受けたアフリカ、アジア、ラテンアメリカの広大な地域はどうであろうか?シノファームとシノバックが開発した、中国の2つの主要ワクチン候補が助けにやって来るのであろうか?

中国は世界にワクチン接種をするという意欲的な目標を掲げている。シノファームは、来年には最大10億回分の生産が可能であり、中国の他の有望なワクチンによって、世界市場にさらに30億回分の追加供給が可能と述べた。

ファイザーと米国を拠点とするモデルナのワクチンは、どちらも超低温保管と複雑なサプライチェーンを必要とする。そのため、たとえ国がより高い価格を支払う余裕があったとしても、どちらも開発途上国全体への大量配布には向いていない。したがって、開発途上国の大半は、ロシアのスプートニクVワクチン、中国が供給するワクチン、手頃な価格で「世界にワクチン」を提供することを約束したアストラゼネカのワクチンのいずれかという選択肢が残されることとなる。

来年の半ばまでに、ワクチンを「持つ者」と「持たざる者」の間の分断がはっきりと示される可能性が高い。西側のより裕福な国々、そしてアジアとラテンアメリカのより先進的で統治に優れた国々は、国民の大部分への接種を終えている一方、それ以外の国々はただ順番待ちをしているであろう。

シノファームは、臨床試験後で86%の効果があることが証明された後に、アラブ首長国連邦がそのワクチンの使用を承認した際、世界各地からの問い合わせが大幅に増加した。開発途上国全体で、アラブ首長国連邦は効果的な制度を備えた統治の優れた国と考えられているため、そのお墨付きは、シノファームのワクチンが安全で効果的であるというサインを多くの開発途上国に送ることとなる。

この歴史的なワクチン開発競争から学ぶべき明確な教訓は、国境を越えた科学的および国家的協力の重要性と力である。世界中にさまざまなワクチンを分配する取り組みにおいても、これと同じ協力の精神が必要となる。

道徳的、政治的、経済的に、現在の分断がさらに深まるようなことをしている場合ではない。ワクチンの効果的かつ公正な分配を確実にすることは、単に猛威を振るうウイルスを殺す以上の意味がある。

* アフシン・モラヴィは、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院外交政策研究所のシニアフェローで、New Silk Road Monitorの創設者であるとともにその編集者を務めている。

著作権:Syndication Bureau

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