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我々が適切な支援を行えば、シリアは2021年に変われるだろう

2017年3月12日、アレッポ市へ移動するシリア兵(Shutterstock)
2017年3月12日、アレッポ市へ移動するシリア兵(Shutterstock)
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02 Jan 2021 01:01:15 GMT9
02 Jan 2021 01:01:15 GMT9

中東の外交事情はさながら入れ子構造になったロシアのマトリョーシカ人形のようだ

年の瀬が近づき、新たな大統領がアメリカの手綱を握る準備を進めている今、我々はあることを覚えておかなくてはならない。それは、ある勢力が他勢力の問題や危機に介入するとき、あるいは破綻寸前の国に安定をもたらそうと試みるとき、その決断は多くの場合、別の問題や国との関係に影響を受けるということだ。

例えば、西側諸国はレバノンに関与するとき、シリアのことを考えている。シリアに関与するときは、イランのことを考えているようだ。イランに関与しているときはロシアのことを考えている。そしてロシアに関与しているときは中国のことを考えている。西洋諸国がガザやリビアといった他国の数々に関与するときにも、同様の連鎖がみられる。また逆に、西洋諸国に関与する中東諸国も、こういったことを念頭に置いている。

数ある外交的な人形たちの中には、歴史的にも中東のカギであり、地域全体のバランスを揺るがしうるものが存在する。それはシリアだ。内戦によりその政情は不安定だが、それでも中東における最も重要な二勢力であるレバノンとイランの間に位置していることは変わらない。シリアが安定しなければ、レバノンの直面する問題を恒久的に解決することはできないだろう。また、シリアを安定させるための道筋や手段は、イランの方針に直接的に関わってくる。

バラク・オバマ大統領の外交政策チームは、イランとの交渉の間は、政治的緊張を高めないためシリア政権の行動に対しては沈黙または譲歩で対応していた。イランとの合意を優先させた方が中東地域のためになるという考えからだ。つまり、オバマのチームは、シリアに関与するとき、イランのことを考えていたといえる。

シリア政権がたびたび「一線」を越え、それに対しアメリカが反応しなかったことは象徴的だ。しかしより重要なのは、シリアにおけるイランの存在を制度化し、ある意味正式化したことで、シリアがイランの地域ネットワークの一部となったことだ。これによりイランは軍やヒズボラ兵を送り込むことができるようになり、領土拡大のビジョンを実行に移している。

時計の針を進めて2020年、中東および世界の勢力の介入により、シリアは現状維持に近いようなものを実現している。ロシアとトルコの間のバランスが大きな要因だろう。また、バイデン政権がシリアにおけるトルコの役割をどう見るかは、今後重要になってくるだろう。

前年は中東地域全体におけるトルコの介入が顕著だった。諸問題についてトルコはロシアとは真逆の見解を持っているが、両国は幾つかの合意をみている。同様に、トルコはイランとは競争関係にあるが、貿易を行っている。その最中にもトルコはNATOを軽視し、アラブ人やイスラム教徒に取り入る政策を実施することで、ヨーロッパ諸国を脅してきた。

トルコはヨーロッパやNATOにおけるアメリカの同盟国を軽視している。それでもバイデン大統領の外交政策チームはトルコがこのようなアプローチを続けることを容認するだろうか?その答えは、アメリカがイランとロシアに対しどう介入しようと考えているかによる。また、この決断は、シリアの問題の解決に向けての取り組みに直接的に影響するだろう。

シリアにおいて現状維持は恒久的な解決策にはなりえない。なぜなら現状は、中東の多くの国々のように、過激派とナショナリストが常に争い続け、市民が苦しみ続ける無法状態に立ち戻ってしまうリスクを抱えているからだ。

西側諸国はイランに関与し、譲歩することで、ロシアとイランの同盟を破棄し、ロシアの利益を損なうことができると考えている。しかし、実際に何が起こるか予想するのは容易ではない。

カレド・アブ・ザール

地政学的要因でなければ、経済危機によってシリア問題の解決が促されるだろう。国民の多くに支持され、国の再建のプロセスを開始できる能力を持つ政府を確立させるため、妥当な政治的解決策を見つける必要があり、それに向けてのロシアの努力を見れば、その緊急性は明らかだ。

これはまた、イスラエルを含めた世界と中東における各勢力にシリア(かつレバノン)におけるイランの存在と影響力を認めさせることといった重要な問題に関わってくるため、レバノンでのコンセンサスを可能にするだろう。

筆者の考えでは、これが(へズボラの掌握を除けば)アラブ諸国がレバノンに関与しない理由のひとつだ。彼らはシリア問題の解決策が見つかるのを待っているのだ。しかしシリアが安定するためには、湾岸諸国の力添えも必要だろう。

つまり、シリア問題にとってカギとなるのは、中東に対するバイデン政権の立場だ。

その影響は、とかく議論されがちなイラン核合意への回帰にとどまらない。より現実的で、より重要なのは、アメリカは再び「アジア・ピボット」戦略に回帰するのか、という問だ。言い換えれば、アメリカは中東だけでなくヨーロッパに対しても、割く資源と労力の量を減らすことになるだろうか?

もしそうなるとしたら、トルコは現状の方針を維持すると考えられるだろう。だがそれでもアメリカは自国の利益を優先して取引を行うことができるだろう。それはイランの切望する新たな合意につながる。イラン政府の主張とは裏腹に、イラン経済は外貨流入をひどく必要としている。そしてこのことはまた、レバノンの辿るであろう未来をも指し示す。

ある勢力や国に関与することで、望ましくない同盟から抜けさせるという計画やビジョンは常に存在してきた。西側諸国がイランに対して行っているのはまさにこれだろう。西側諸国はイランに関与し、譲歩することで、ロシアとイランの同盟を破棄し、ロシアの利益を損なうことができると考えている。

しかし、実際に何が起こるか予想するのは容易ではない。冷戦時代のエジプトのように、立場を変えて西側に味方し、共産主義と相対する、といったことはもうないだろう。もっと言えば、ロシアは変化をコントロールし、自国の利益を確保することができるだろう。

我々は世界的な危機を経験しても、ほとんどの場合学習しない。あるいは、その教訓をすぐに忘れてしまう傾向がある。誰もが2021年にはパンデミックが収束することを願っているが、そうなったとしても、我々は恐ろしい衛生的・社会的な遺産と向き合わなければならないだろう。そしてより重要な、しばらく続く深刻な経済への影響とも。世界の経済状況に関する国際通貨基金の最新の報告書は、危機を知らせている。イランにとってはなおさらだ。

ゆえに、中東に関与する国々はマトリョーシカ人形のようなアプローチをやめ、レゴブロックのような方針に切り替えるべきだ。このような地域の変化と健康危機は、中東の国々にとって、自国の利益を守り、世界の他の国々と関わるためのプラットフォームになりうる強固な基盤の上に、新しくより良いものを構築するまたとない機会をもたらしている。ヨーロッパやドイツとフランスの同盟の強さから、このアプローチの利点は明白だろう。

  • カレド・アブ・ザールはメディア・テクノロジー企業のユーラビアのCEOを務めており、アルワタン・アルアラビ新聞の編集者でもあります。
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