コロナウイルス（正式にはCOVID-19と命名）は現在、少なくとも56の国々の8万5,000人以上の感染し、そのうち3,000人近くが死亡している。都市全体の封鎖や数多くのフライトやイベントの中止を含め、深刻で、また時に前例のない措置が多くの場所で取られている。

人々は恐怖を感じ、またこのような場合には、あらゆる種類の噂が素早く拡散し、混乱や不合理な行動を増大させている。SNSで共有されている最も危険な考え方の1つは、一部の種子やその他の「伝統的」な治療法に関する（誤った主張がされている）効果だ。インフルエンザよりもはるかに危険性は低い伝染病として片付け、「冷静かつ合理的になって、嵐が通り過ぎるのを待つ」よう推奨する人もいる。

これはまさに、「科学的リテラシー」が露呈している状況だ。科学リテラシーは、全ての国民が今日の世界と付き合っていくために持つ必要がある最低限の科学的知識であり、この世界では、ウイルスとバクテリアの違いや、どのような種類の放射能は危険なのか、どのような遺伝子改変が生物に何を生じさせるのか、ビタミンの特徴、ワクチン、核について、またその他のこのような多くのトピックについて知ることが重要であり、時に必要不可欠であるのだ。

長年、私は、我々の世界の一部で科学的リテラシーの普及、推進、研究のキャンペーンを行ってきた。数多くの国々、大抵は西洋諸国では、定期的かつ広範囲にわたる研究が行われており、マレーシアなどの場所でも行われているものの、アラブ世界では、このテーマに関する取り組みはほとんど行われておらず、行われていたとしても、非常に少ない。

コロナウイルスはウイルスやバクテリア、ワクチン、予防対策、治療などの基礎知識や理解が国民に不足していることを露にした。これに関して、基本的な情報を伝えさせてほしい。

まず、ウイルスとは何か？これは細胞に侵入し、非常に高い確率で、内部で複製を行う（それ自身のコピーを数多く作る）生物学上の「病原体」だ。ウイルスは自分では増殖しないので、生物としては通常見なされない。これとは対照的に、細菌（複数形はバクテリア）は、核を持たないものの、2つの同一の娘細胞に分かれることで複製を行う単細胞生物だ。最も重要なことは、我々の体内や器官に侵入するバクテリアは抗生物質を使って殺すことができるものの、ウイルスにはこれを用いることはできず、抗ウイルス薬を使って対処することになるということだ。

もしウイルスが世界中のより広範囲に素早く拡散し始めれば、取り得る効果的な治療法がないことにより、悲惨な結果につながる可能性がある。

ニダル・ゲッスム

細胞の複雑なシステムである我々の「免疫システム」と、我々の体内に含まれるたんぱく質が、バクテリアかウイルスかを問わず、外からの危険な感染症と自然に闘うようになっていることを知っておくことも重要だ。これは過去の「侵入者」の情報を追跡・記録するので、次に我々の体内に侵入した時には、素早く簡単に破壊することができる。COVID-19に効果的に使用できる薬がまだない中でも、これまでにコロナウイルスに感染した人たちの半数近くがこのようにして回復している。

では、コロナウイルスはインフルエンザとはどう違うのだろうか？どちらも我々の呼吸器系（肺、喉、鼻など）を攻撃し、同じような症状（咳、鼻水、頭痛など）を引き起こすウイルスだが、インフルエンザは入院が必要になるほど重篤になることは稀であるのに対し、コロナウイルスははるかに強力だ。

しかし、ここに人々の混乱が生じている：インフルエンザでは毎年数万人が命を落としていることが広く報告されている。アメリカでは、2018年-2019年のインフルエンザのシーズンに3,500万人が感染し、49万人が入院、3万4,000人が死亡した。インフルエンザの入院件数と死亡者数に注目すると、コロナウイルスは大惨事としてははるかに規模が小さいように思える。しかし、インフルエンザの感染者数に占める死亡率は、入院率（1.5%）と同様、非常に低い（0.1%）のに対して、コロナウイルスの死亡率は約3%、入院率（重篤な症状）は10%から20%だ。

この話の教訓はこうだ：コロナウイルスははるかに強力で、死亡者数はまだインフルエンザをはるかに下回ってはいるが、これは専ら、現時点で流行が比較的抑え込まれていることによるものである。しかし、もしウイルスが世界中のより広範囲に素早く拡散し始めれば（そんなことがあってはいけないのだが）、取り得る効果的な治療法がないことにより、（死亡者数、経済活動、その他の社会の分野で）悲惨な結果につながる可能性がある。

コロナウイルスが抑え込まれ、ほとんどの人が感染しない、あるいはそれぞれの免疫システムで上手く打ち勝つことができることが望まれる。その場合、感染拡大は減速し、危機は和らぎ、数ヶ月以内におさまるだろう。それまでは、さらなる感染を防ぐために、誰もが基本的な衛生指示に従うべきだ。石鹸で頻繁に手を洗い、少なくとも20秒間水で洗い流す、洗っていない手で人の目や鼻、口に触らない、典型的な症状が出ている人との接触を避ける、多くの人が頻繁に触ったものや表面を洗浄し、消毒するなどだ。

一般論として、また特にこのような状況において、科学的リテラシーの重要性に立ち戻るために、私は我々の地域の専門家（医師、生物学者、科学者）らに対し、国民に情報を伝え、教育する上で行わなければならない取り組みにさらに参加するよう呼び掛ける。正しい情報を広め、誤解を晴らすために、きっと、ツイッターやフェイスブックで1日に数分くらいは時間を割くことができるだろうし、ユーチューブやその他のメディアで週に1時間くらい費やせるだろう。これは、科学者や教育者、人類社会の構成員としての役割に留まらない。このような困難な時には、我々の責任でもあるのだ。

• ニダル・ゲッスムは、UAEのシャールジャ・アメリカン大学教授、ツイッター：@NidhalGuessoum