1月6日に首都ワシントンで発生した出来事に対し世界中に怒りが広がっている中、怒りに満ちた暴徒が米国の連邦議会議事堂を襲撃するはるか以前より、欧米の多くの民主主義国の中心には倦怠感が高まっていたこと、そして彼らの不満は根深いものがあることを理解することが重要である。

民主主義は一人一票の原則に基づいており、最も平等主義的な哲学である。世界中のいたるところ、特に欧米の民主主義国で不平等が拡大しており、この平等主義の原則が脅かされている。

グローバリゼーションは何億人もの人々を貧困から救い出した一方、先進国の多くの人々は仕事を奪われ、生活の糧を奪われた。国家と国民の間の社会契約が、誰もが平等であることを前提としている場合、自分自身をグローバリゼーションの犠牲者と見なす人々が、権利を奪われたと感じるのは必然である。これにソーシャルメディアを介して過激派の意見がフィルターなしで拡散されていることが加わることにより、有害な組み合わせが出来上がる。そして、人々が国家とそのエリートから切り離されたと感じるとき、ポピュリストの扇動者らにより、摘み取られてしまう時期が熟すのだ。

新型コロナウイルスの世界的大流行は、不平等を拡大・加速させ、陰謀論を煽っている。オルタナ右派はこうした不満の高まりを巧みに利用している。こうしたオルタナ右派は米国だけではない。ドイツには「ドイツのための選択肢」 (AfD)、フランスにはマリーヌ・ルペン党首が率いる「国民戦線」オランダにはヘールト・ウィルダース党首が率いる「自由党」がある。これらの組織は、オルタナ右翼思想と極度の外国人恐怖症という共通点を有している。

我々の民主主義は守る価値がある。なぜなら、民主主義は包摂性と平等の上に成り立っているものであるからだ。我々は民主主義が機能していないと主張する口実を独裁者らに与えてはならない。

コーネリア・マイヤー

これらの組織による躍進の結果は明らかである。難民に対する不当な扱いに反対するキャンペーンを展開していたドイツの政治家、ウォルター・リューベック氏が2019年6月、自宅で極右過激派により暗殺された。そして、その年の10月には、ドイツのネオナチの銃撃犯がハレ地区にあるシナゴーグ（ユダヤ教礼拝所）を襲撃し、2人が射殺された。これを受けて、ドイツのホルスト・ゼーホーファー内相は、右翼過激派を国家安全保障に対する最大の脅威と指摘した。

欧米の民主主義国家において、米議会議事堂は過激派が取り押さえようとした最初の政府所在地ではなかった。昨年8月、陰謀論キューアノン（QAnon）支持者やオルタナ右派の支持者、反ワクチン主義者が混在する集団がベルリンの連邦議事堂を襲撃しようとしたが、わずかな数の警官らにより撃退された。11月には、AfDのメンバーが右派支持者を連邦議事堂に招き入れ、その支持者らが主流派政党の議員らに嫌がらせを行った。

ドイツが代表的な例だが、どの国も民主主義国家を守るため警戒しなければならない。これだけ多くの人々が権利を剥奪されたと感じているとき、主流派の政治家らは、民主的・経済的プロセスが包括的であるだけでなく、実際に人々がそうだと受け止めるには何ができるかを真剣に考えなければならない。ウィンストン・チャーチルが以前、「民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」と述べたように。

米国で起こったことは、米国、ヨーロッパ、他の国々におけるエリートらに対し発せられた警告であると捉える必要がある。我々の民主主義は守る価値がある。なぜなら、我々の民主主義は包摂性と平等の上に成り立っているものであるからだ。我々は民主主義が機能していないと主張する口実を独裁者らに与えてはならない。

・コーネリア・マイヤー氏は、投資銀行と産業界における30年の経験と博士号を有する経済学者である。またビジネスコンサルタント会社Meyer Resourcesの会長兼CEOを務める。ツイッター：@MeyerResources