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すべての新興市場が対等に生まれるわけではない

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16 Mar 2021 06:03:01 GMT9
16 Mar 2021 06:03:01 GMT9

新興市場の肯定的側面は、オブザーバーが簡単にマクロ経済の傾向を分析できるという点だ。否定的側面は、あまりにも大雑把に全体像を描きすぎて、林檎と梨を比較するような危険性を秘めているという点である。

このことは、新興市場(EM)が市場全体としてCOVID-19パンデミックの影響からどのように回復するかを分析する時にも該当する。

かなりの苦戦を強いられる市場もあれば、湾岸協力会議(GCC)などのように、石油価格の上昇や先見の明のあるパンデミック管理、ワクチン摂取プログラムの発表、管理可能な債務水準のおかげで力強く前進する市場もある。

大事なことを第一に。 

先週、経済協力開発機構(OECD)が今年の世界経済の予想成長率を引き上げた。2021年の世界経済の成長率は5.6%で、昨年発表された4.2%よりも高い。新たに発表された数値の大きな根拠は、米国における1.9兆ドル相当の最新の成長刺激策である。

ほとんどの船が満ち潮になることで船の位置が上がることを考えれば、世界経済の成長率は重要ではあるが、物事はそれほど単純ではない。OECDは、2022年のEM全体の成長率は、2019年との比較で3~4%下降すると予測した。

これは重要だ。なぜなら、EMは、パンデミックの嵐を切り抜けるために借金を背負っただけでなく、その借金に至った経緯が、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の勧めで、両組織の寛容な債務支払猶予イニシアチブ(DSSI)の援助を受け、G20の支援を受けたからというものだからだ。このイニシアチブの救済を受ける資格のある73ヶ国のうち、43ヶ国が救済を受ける契約をしている。 

DSSIの提供する救済は極めて需要の高いものであるが、現時点では、6月30日で期限切れとなる予定だ。イニシアチブがさらに拡大したとしても、契約済みの国が支払いをしなければいけない時は必ずやってくる。

利率は低く、しばらくの間はそのままであるかのように思われる。しかし、EMよりも先進国の方が利率が低い。

世界格付け機関、フィッチによれば、先進国では、今年、政府歳入の3.3%を債務返済に充てるのに対し、EMでは、平均10.4%を返済に充てるが、2019年以来2.4%上昇している。ドル建てでは、OECD加盟国が約3倍もの負債を抱えているにもかかわらず、両市場はそれぞれ8,600億ドルを返済に充てる。

一部の発展途上国の流動性が逼迫することはそれらの予想に織り込み済みである。G20のいくつかの数値に注目しただけでも、ブラジルの公共負債は国内総生産(GDP)の102%に達しており、インドと南アフリカはそれぞれ89%、82%である。

ここでもまた、同じように比較することはできない。財務負担が大きくなっても、経済成長がそれを凌ぐ国はそうでない国よりもかなり条件がよいからだ。インドやインドネシア、ハンガリーなどの国は経済的見通しの立たない国よりもはるかに好条件だ。経済的回復を牽引する部門がどこであるかにも左右される。長距離の観光に依存している国には、より長期のリードタイムが必要となる。

前述のように、GCC加盟国は一般的なEMとは立場を異にしている。

ひとつには、石油価格が上昇することにより、予算の収支が合うからだ。

さらに、GCC諸国は、刺激策として決定的な対策をとっているが、運用はうまくいっている。サウジアラビアは対策にGDPの3.4%を充てているのに対し、UAE、バーレーン、オマーンはGDPの25~30%を充てている。この3ヶ国の数値は大きく見えるが、国際的な比較ではそれでも小さい。 

サウジアラビアは慎重で倹約的な反循環アプローチに着手し、去年の石油価格の暴落時にはVATを3倍にして収益を確保した。国別格付けと金利格差でGCC諸国は魅力的な存在と解釈され、その証拠として、今年始めに発行されたソブリン債は、海外投資家の目には王国やUAEほどの位置づけにはないオマーンやハーレーンにおいてさえ、瞬く間に売れた。

言い換えれば、GCC加盟国には債務負担能力や保守的なマクロプルーデンス管理の視点があり、それが、ワクチン摂取プログラムの発表に加え、自国の通貨のドルとの連動、石油価格の上昇、パンデミックの管理の成功とうまく噛み合い、海外の投資家にとって魅力的な投資機会になったのだ。

この先、GCC加盟国の経済が他の部門に多様化する中、投資家にとっては石油価格の安定が重要な基準となるだろう。

中期的には、 投資家は、リスクとリターンのバランスを取ろうと試みるだろう。これが新興市場国の中でGCCが魅力的なサブグループであり続ける理由である。

しかしながら、世界規模では、より広範囲でEMの成り行きに注目すべきである。なぜなら、満ち潮がすべての船を持ち上げたため、引き潮では船が沈む傾向にあるからだ。林檎と梨を比較しないように気をつけなければいけない一方で、必ずとは言えないまでも、それぞれの市場が結果的に比較されることを念頭に置いておくべきである。

  • コーネリア・メイヤーは投資銀行および投資業界で30年の経験を積む経済学者で博士号を持つ。事業コンサルタント、メイヤーリソーセズの会長兼CEOである。Twitter: @MeyerResources
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