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サウジアラビアの「ビジョン2030」の成功を測る

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子、『ビジョン2030』がサウジアラビアの長期的な目標と期待を表現した野心的でありながら達成可能な将来図であると述べた。(AFP)
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子、『ビジョン2030』がサウジアラビアの長期的な目標と期待を表現した野心的でありながら達成可能な将来図であると述べた。(AFP)
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28 Apr 2021 01:04:21 GMT9

2014年半ばの原油価格暴落により、財政均衡への圧力が高まったことを受けて、サルマン国王とムハンマド・ビン・サルマン皇太子を筆頭とするサウジアラビアの指導部は、「サウジ・ビジョン2030(Saudi Vision 2030)」を立ち上げた。

「ビジョン2030」は、サウジアラビアの石油収入への依存度を下げ、経済の変革と多様化を図り、公共部門のサービスを向上させることを目標とした。その他の目標として、国民の生活の質の向上、雇用の増加、健康、教育、娯楽、観光、電子政府サービス、インフラの改善などを掲げている。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、「ビジョン2030」は野心的でありながら達成可能な将来図であり、サウジアラビアの長期的な目標と期待を表現し、サウジアラビアの強みと可能性を反映したものであると述べている。ビジョン2030を達成するために必要とされる3つの強力な柱として、「活気に満ちた社会」、「繁栄する経済」、そして「野心的な国家」が掲げられている。

しかしながら、当初の「ビジョン2030」の戦略的コンセプトは、石油収入の下落に対処し、財政予算のバランスをとる、直面する避けられない課題に取り組むための変革が求められている。

課題を認識することは、当該課題を解決するための道のりの半分にあたり、サウジアラビア指導部は早速国際的なコンサルタントと協議し、「サウジ・ビジョン2030」の野心的な長期目標を達成するための戦略を練り直している。

コンサルタントや専門家から提示されたのは最先端の戦略である。一つの課題は、「ビジョン2030」の戦略、プログラム、イニシアティブを実行し、提供するために選ばれた人材に関するものだった。長期的なビジョンでは、プログラムやイニシアティブを強化して達成するために、機敏で、効率的で、意欲的で、十分な教育を受けた経験豊かな人材が必要とされる。

「ビジョン2030」の立ち上げの一環として、「国家改造プログラム(National Transformation Program) 」やサウジアラビアの省庁に「ビジョン実現オフィス(Vision Realization Offices) 」を設置するなどのプログラムや取り組みが進んでいる。さらに、長期戦略の目標と目的を達成するために、効率化を図り、変革を実現し、機動的な戦略を推進するため、さまざまな政府機関の統合も進んでいる。

長期ビジョンが発表される前は、公共部門のサービスは、国民の期待に応え、国民が満足するサービスを提供することができないことが多かった。

「ビジョン2030」の目標と目的を達成するために、サウジアラビアの指導部は、公務員や従業員を訓練すると共に、変革をリードする民間企業の幹部を採用している。

民間企業のリーダーたちを公共部門の指導的ポジションに採用することは、戦略的目標を反映し、公共部門の新しいアプローチを促進し、官民のネットワークとパートナーシップを強化することにつながる。

但し、リーダーたちが公共部門に転じるには、組織的、文化的、個人的な違いに適応するための相当なモチベーションが必要となる。

そうした中でリーダーたちが公共部門に転じることを可能にしている主な要因の一つは、サウジアラビアや地域全体に影響を与える変革の一端を担う機会に従事することである。

リーダーたちは、次の世代のために未来を築くチームの一員になりたいと考え、政府の一員になることで学び、成長する大きなチャンスがあると考えている。

民間企業のリーダーたちが公共部門に転じた際に直面する典型的な課題は、変化を達成するために必要な広範なプロセス、ポリシー、手続きを知ることとなる。リーダーたちは、政府機関のプロトコルやコミュニケーションを学び、または学び直す必要がある。彼らは、政府の指揮系統の複数のレベルから承認を得るための手順を学ぶ必要もある。そして最後に、公共部門の利害関係者との協力の仕方を学ぶ必要がある。

「サウジ・ビジョン2030」の達成に向かう動きとそれに伴う政府機関の再編により、公共部門の機関はいくつかの劇的な変化を遂げている。

トゥルキ・ファイサル・アル=ラシード博士 

組織の変化を生み出した1つの政策転換は、公務員に対するマイナスの固定観念を払拭することにつながった:公務員は民間企業に比べて労働時間が短く、生産性が低という思い込みである。現在は、公務員や若い人たちは働くことに意欲を持ち、長時間勤務を厭わず「ビジョン2030」の成功に貢献したいと考えている。

公的機関も改革され、サービスを受ける人に尊厳のある優れたサービスを提供するようになっている。例えば、パスポート、国民ID、運転免許証、住民票関連のサービスに加え、健康、法律(婚姻、離婚、委任状)、法人関係のサービスの改善などが挙げられる。政府が国民や住民に電子サービスを提供することで、時代遅れの官僚的なプロセスが排除されている。現在は、すべてオンラインで手続きが済む。

公共部門と民間部門では、組織文化に違いがある。

公共部門では、間違った決定をするよりも、何も決定しない方が望ましい。また、ミスク財団(Misk Foundation) と創造型リーダーシップ民間部門ー公的部門転籍センター(Center for Creative Leadership Private-to-Public Transition)の調査によると、ムジャマラ(mujamala、礼儀として何かを受け入れること)の概念や、一部の昔から長く勤務している公務員の中には、民間部門出身者に対して「我々」対「彼ら」という態度をとる傾向は依然として如実に残っている。

公共部門の仕事における文化は、労働時間が短く、仕事のプレッシャーが少なく、雇用の安定性が高いという点で魅力的であり、一方、民間部門の文化は、専門的な能力開発の場である。したがって、民間企業での勤務を好む人は、公共部門で働くことを選んだ人よりも、よりダイナミックで才能豊かな傾向がある。

しかし、最近では公共部門でも、公務員がより優秀となり、リーダーは機敏に動くようになり、さまざまな機関間の調整が活発になるなど、変革の成功がみられる。プログラムやイニシアティブを実現するための公務員の能力やキャパシティの変化は、非常に大きなものとなっている。成功は、公衆衛生、電子サービスと電子商取引、優れた情報技術などに反映されている。「ビジョン2030」は連携と相互のサポートを生み出している。

「サウジ・ビジョン2030」の成功には、ステークホルダーの参加が最も重要となる。長期ビジョンの目標と目的を達成するためには、民間企業、公共部門、そして市民の参加による調整と協力が必要である。このように、ステークホルダーの参加は、プログラムや目標の実現を成功させるための重要な要素となっている。

「サウジ・ビジョン2030」の成功には、サウジアラビア国民や住民の生活の質を高めるプログラムを提供し、その実現に尽力する指導部の献身的な取り組みが必要だ。このことは、最近発表された「2021年世界幸福度報告(2021 World Happiness Report)」にも表れており、「国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(UN Sustainable Development Solutions Network)」によると、サウジアラビアはアラブ世界で1位、世界で21位にランクされている。

「エデルマン社の2021年信頼バロメーターレポート(Edelman’s 2021 Trust Barometer report)」によると、サウジアラビアは世界で最も信頼されている政府の一つとして、高い信頼性を維持している。サウジアラビア政府の業績に対する信頼度は、2020年1月の78%から2021年1月には82%へと4ポイント上昇し、最も信頼できる政府として本指標で取り上げられた28カ国の中で最上位に位置している。

これまでのところ、「サウジ・ビジョン2030」は成功を収めており、今後も継続していくことが期待される。

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