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なぜG7が中国に照準を合わせるのか

2021年5月5日にロンドンで開催されたG7外相会議で、ボリス・ジョンソン英首相(中央)とドミニク・ラーブ英外相(左から2番目)が、他の代表者たちと共に全員写真のためのポーズをとっている。(AFP)
2021年5月5日にロンドンで開催されたG7外相会議で、ボリス・ジョンソン英首相(中央)とドミニク・ラーブ英外相(左から2番目)が、他の代表者たちと共に全員写真のためのポーズをとっている。(AFP)
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10 May 2021 02:05:25 GMT9
10 May 2021 02:05:25 GMT9

アンドリュー・ハモンド

G7は、元々は世界経済の成り行きを監視する目的で1970年代に結成されたのだが、英国開催による今年の会議は、国際安全保障上の要としての同グループの軽視されがちな重要性を浮き彫りにしている。

これはロンドンのG7外相会議で際立ち、そこでは国際安全保障問題が議題の枠組みを成した。G7は、ウクライナ国境におけるロシア軍の大幅な増強を非難し、ミャンマーの軍が方針転換を拒んだ場合にはさらなる厳しい措置をとることに同意し、和平プロセスの進展を条件としてアフガニスタン政府へのさらなる支援を約束し、新疆ウイグル自治区における人権侵害を改めて非難すると共に、収容所での強制労働問題にも取り組むことを約束した。

中国とロシアの問題が会議の中心となり、各国の外相は、両国の破壊的活動と立ち向かうために、いかにして民主主義諸国がより広範な同盟関係を築くことができるかを議論した。ロシアは大きな懸念である一方で、中国は突出した課題として捉えられており、G7共同声明では、中国の「恣意的で威圧的な政策と行為」に対する弾力性を高める必要性について合意した。

唯一最大の取り組みは、中国の大規模な「一対一路」構想に対抗し、欧米諸国が代替インフラ計画の調整を図るという米国主導の計画だ。この経済構想がこれほど地政学上の懸念となる理由は、それが主要諸国の間で中国の影響力を増大させているからだ。

中国の公式データによれば、5大陸の約140ヵ国が、中国との「一帯一路」協力協定に調印している。2013年から中国は、100ヵ国以上のプロジェクトの海外投資や建設契約に約6900億ドルを費やしてきた。

現在議論されているG7の対抗策は、世界中の港湾や鉄道などのプロジェクトに資金提供するという同様な国家主導のやり方になるとは考えにくい。経済的に成り立たない事業に関わることで泥沼に陥る懸念があるからだ。代わりに、適切に運営される民間企業のプロジェクトを奨励することで、経済成長や通商を促進させながらも中国マネーに取って代わるものがあると発展途上国に示すことを目的にしている。

具体的な内容については、様々な青写真がすでに公開されてきた。例えば、米外交問題評議会のシンクタンクは3月に、米国が同盟国と共に高品質で環境的に持続可能なインフラ開発を奨励し、様々な国の企業が資金調達や建設に公平に参加できるようにすべきだと提言する報告書を発表した。

唯一最大の取り組みは、中国の大規模な「一対一路」構想に対抗し、欧米諸国が代替インフラ計画の調整を図るという米国主導の計画だ。この経済構想がこれほど地政学上の懸念となる理由は、それが主要諸国の間で中国の影響力を増大させているからだ。

アンドリュー・ハモンド

今年のG7は、地政学に大きな重点を置いているが、これは決して異例なことではない。例えば2017年のG7首脳会議では、マンチェスターの爆発テロの余波と新たなテロ対策行動計画の策定、そして朝鮮半島の核を巡る緊張関係に重点が置かれた。

G7がこうした多くの地政学的議論に関与していることについては、マクロ経済を議論するという本来の使命を考えれば、論争を呼ばないわけにはいかない。例えば中国は、外相らの共同声明に対して強い反発を示し、新疆ウイグル自治区を含む内政問題への「あからさまな干渉」だと非難している。

中国はまた、G7が、台湾の世界保健機関への「有意義な参加」を求め、台湾が新型コロナウイルス対策に「素晴らしい貢献」をしたとの評価を呼び掛けたことに対しても反発した。中国の王毅外相はこれに対し、我が国は台湾を自国領土の重要な一部と考えており、台湾による国際機関への参加は、「一つの中国という原則」に則った扱いがなされるべきだと反論した。 

こうした論争を前提として、特に発展途上国からは、G7がこのような国際安全保障問題に関わるのは国連やG20会議のような正当性を欠いているとか、また、中国のような新たな大国の台頭を考えればG7は時代遅れの構造概念であるなどの主張が上がることもある。しかし実際には、G7の国際安全保障上の役割は今に始まったことでもないのだ。

例えば冷戦時代には、ソ連に対する西側諸国の戦略を調整する働きをしていた。さらに2001年の同時多発テロ以降は、米国主導の対テロリズム作戦における重要な役割を担った。

地政学や国際安全保障が、過去数年間、G7の議題にそれほど上らなくなった理由の一端は、そうすることで別の問題の亀裂を埋めるのに役立ったからだ。これは特に、トランプ大統領の時代に言える。例えば、国際貿易問題でドナルド・トランプ氏は、その保護貿易主義的な立ち位置で6対1に孤立することがあった。別の例としては気候変動問題で、トランプ氏がパリ協定を離脱した後、米国はここでもG7の他の加盟国から孤立した。

トランプ大統領の時代が終わり、西側諸国の分断は現在それほど顕著ではないが、地政学への重視はそのまま残っている。従って、このような国際安全保障問題が、6月の首脳会談では主要な議題となるだろう。ジョー・バイデン氏が、大統領就任後初の海外訪問で自身の存在感を示そうと張り切っているのであるし。

  • アンドルー・ハモンド氏は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのシンクタンク「LSE IDEAS」の準会員である
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