
毎年、そして何十年もの間、国連総会の9月の会合では、アラブ諸国とイスラエル紛争、そしてパレスチナ問題が、関係する世界の指導者らの演説で取り上げられてきた。
つい最近まで、その境界線は明確であった。大多数の国は、いわゆる二国間解決の基盤となる国連安保理決議に基づく交渉による解決を支持していた。その二国間解決策の古典的定義は、イスラエルが1967年の国連停戦決議に基づく国境線まで撤退し、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の建設を認めることである。言うまでもなく、イスラエルはその前提を一度も受け入れたことはない。
ドナルド・トランプ前大統領の4年間は、イスラエルの立場に大きく傾いたとはいえ、この長年の枠組みを変えようと試みるものだった。トランプ前大統領の中東和平計画は成功せず、パレスチナ人にも拒否された。しかし、アラブ諸国が数十年取ってきたイスラエル国家の存在を認めないという立場の壁を破った。アブラハム合意では、国家承認の見返りにイスラエルの撤退という条件を回避し、平和の見返りに平和という原則を打ち出した。当然、同合意ではパレスチナ人は蚊帳の外である。
しかし、ジョー・バイデン大統領は、大統領就任以来初めてとなる国連総会での演説で、イスラエルとパレスチナの紛争に関する米国の政策修正をしようと試みたものの、実際には、東エルサレムを含む「統一エルサレム」をイスラエルの首都と認め、米国大使館をテルアビブから移転させるという、トランプ前大統領による最も重要で一方的な動きを覆すことはしなかった。
現実には、どの当事者もイスラエルに圧力をかけて新しい政治プロセスを立ち上げようとしない世界にイスラエルは置かれている。
オサマ・アル・シャリフ
その代わりに、バイデン氏はアメリカが二国家間解決策を支持していることを繰り返し述べ、イスラエルとパレスチナにとってそれが「長い道のり」であることを認めた。バイデン氏は、「二国家解決案こそ、ユダヤ人民主主義国家としてのイスラエルの未来を保証する最良の方法であると信じ続けている。主権を有する自立可能な民主主義国家パレスチナとの平和的な共存という解決策だ」との信念を強調した。
そしてバイデン氏はこう付け加えた。「現時点では、そのゴールまでの道のりは遠いが、前進の可能性を決して諦めてはならない。」
バイデン氏の演説は、専門家らが以前から結論づけていたことと、一致しているように見えた。それは、バイデン政権は新たな和平プロセスに関与せず、ヨルダン川西岸地区及びガザ地区のパレスチナ人の生活を向上させ、パレスチナ自治政府の崩壊を防ぎ、東エルサレムの米国領事館を再開し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を支援するために、紛争を管理するだけであるという、ということだ。
パレスチナのマフムード・アッバース大統領は、これまで何度も国連総会に出席してきたが、今回はラマッラーから遠隔で演説を行った。アッバース大統領の側近が「歴史的な演説」と評したアッバース氏の演説は、嘆き、非難、脅しが入り混じったものだった。同氏は、イスラエルが二国家間解決策を破壊していると非難し、パレスチナ人がイスラエル、ヨルダン川西岸、ガザ地区からなる二民族一国家内で平等な権利を求めることになるだろうと警告した。
パレスチナ人の間で支持率が過去最低となっているアッバース大統領は、イスラエルが1年以内にヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレム地区から撤退しなければ、パレスチナ人によるイスラエルの承認を取り消すと警告した。85歳のアッバース大統領がイスラエルに対してこのような最後通告をしたのは初めてではなく、これまで実際に実行したことはない。今回の演説でアッバース大統領は他の選択肢を取ることについても言及した。
アッバース大統領の演説は、イスラエル人や一部のパレスチナ人からも嘲笑された。アッバース大統領の立場は危うくなっている。アッバース氏のファタハ運動は分裂し、パレスチナ自治政府はほとんど破産している。ハマスはパレスチナの分裂を終わらせようとする試みを避け、欧州連合(EU)は彼の人権侵害を非難している。アッバース大統領はまだホワイトハウスに招待されるのを待っているが、それはあり得ないことだ。ヨルダンとエジプトは、アッバース氏に後継者を選び、改革を行うよう圧力をかけている。
続いて、イスラエルのナフタリ・ベネット首相が国連総会で演説を行った。ベネット首相がイスラエルを出発する前から、ベネット氏の側近らは、ベネット首相の演説の焦点は世界におけるイスラエルの独自の役割、いわゆるイスラエルの物語を主張するだろうと述べていた。また側近らは、ベネット首相がイランに対して行動を起こす必要性や、アブラハム合意を発展させる機会について強調するだろうとも述べた。ベネット首相の演説にパレスチナ人についての言及はなく、まるでイスラエルが54年間にわたって500万人以上の人々を占領してきたことが存在しないか、それが問題にさえなっていないかのようであった。
ベネット氏は、イスラエルが地域的にも世界的にも成功していることを強調するとともに、イランに対して行動を起こすよう世界に呼びかけた。ベネット氏は平和について語るとき、彼はアブラハム合意を平和に向け前進するための方法として賞賛した。またベネット氏は、彼の前任者と同様にパレスチナ人に対し何もしてこなかった。
現実は、イスラエルに違法な入植活動をやめさせることはもちろん、どの当事者もイスラエルに圧力をかけて新しい政治プロセスを立ち上げようとしない世界に、イスラエルは置かれているのだ。イスラエルがパレスチナ人に対し行うことは、せいぜい日常生活のわずかな改善くらいだ。現代史で最も長い占領の法的・政治的矛盾は、当分の間続くだろう。問題は、「イスラエルはいつまでも占領を無視できるのか」ということだ。