
イスラム教の祝祭「イード(犠牲祭)」が行われる最中、イエメンの分離独立派組織「南部暫定評議会」(STC)が取った感情的な行動が契機となり、今後何年も悲劇が続くことになるであろうと思われる。評議会はイエメンで近年得られた政治的成果を危うく台無しにしかけ、将来的にサヌアを首都とするイエメンから独立するという政治目的を台無しにしたも同然だ。反乱を起こし、憎しみに火を注ぎ、混乱を引き起こしても独立という目的は達成できない。
8月8日に起きた2度のテロ攻撃が発端となり、戦闘が開始されイードの初日夜まで続いた。警察署に対し、アルカイダの車爆弾による自爆攻撃が行われ13名が死亡。さらには訓練所に対し、フーシ派が弾道ミサイルないしドローンを利用した攻撃を仕掛け32名が死亡した。この中には南部出身の第1旅団司令官も含まれる。南部の主要都市アデンではあちこちで葬式が行われ復讐を求める声が上がった。しかし怒りの矛先はサウジアラビア主導の有志連合に向けられた。アデンを臨時首都及び政府所在地として選んだのは有志連合側だったからだ。報復を主導した南部暫定評議会は、冷戦時に設立され1990年のソ連崩壊と共に解散した政治運動で、南イエメンに独立国家を樹立することを目的としている。
南イエメンに独立国家の樹立を目指す権利はある。しかし南部暫定評議会による今回の行動は反政府武装組織「フーシ」の勢力とイランの影響力を強め、内戦を長引かせ、カタールとトルコ政府の支援を受けた新たな戦線がイエメン内に出現する危険をはらむものだ。さらに、主としてサウジアラビアなど近隣諸国の安全をも脅かす危険な動きである。
南部暫定評議会はひょっとするとサウジ主導有志連合の弱みに付け込み、有志連合加盟国を動揺させ、2度のテロ攻撃を受けたアデン市民の怒りを利用して、支配権を握る大義名分にしたかったのかもしれない。さらには新しい国家の分離独立を宣言できると考えたのだろう。しかし恐らく、それ以上にいかなる複雑で危険な結果を招くかどうかには頭が回らなかったようだ。
分離独立を望む声のある地域は世界中に存在するが、実現に至ることはめったにない。イエメンの隣国でアデン湾の西にあるソマリランドで起きた出来事から、南部暫定評議会は教訓を得るべきだ。ソマリランド州は、ソマリア崩壊後の1991年に独立を宣言して共和国を名乗るようになった。憲法・二院制・通貨・国旗を備え、選挙を実施する統合された政治体制を確立した。今日まで、ソマリランドは安定した模範的「国家」の状態が続いているが、国際社会からの承認は厳密には得られていない。
ソマリランドの歴史は南イエメンに似ている。ソマリアランドは、20世紀初頭にはソマリアの一部でなかったが、同意の上で自発的に統一するに至った。内戦が勃発した時に、ソマリランドは分離独立したが、国連の承認を得られなかった。国際法に基づき合意により分離独立しない限り、モガディシオに首都を置くソマリア政府の支配下に戻る必要がある。これはイエメン分離主義者にとって生きた手本であるし、他にも似たような例は数多く存在するものの、最も顕著なのはイラクのクルディスタン地域だ。クルド人は独自の言語を持つ独特な民族だが、かつてイギリス統治時代に強制的にバグダッドを中心としたイラクに組み込まれた。こういった諸事情と50年にもおよぶ独立運動にも関わらず、国際社会は独立へ向けた動きを阻止している。クルディスタンが独立するには、イラク政府と周辺国の承認が必要だ。
私の意見をいえば、南イエメンが独立するのは可能だが、南イエメン側のやり方は言語の面でも行動の面でも誤っていたと思う。解放されて政府が復活した後に、北部サナアの中央政府を説得する必要がある。イエメン政府の承認がなければ、南イエメンは国連や周辺の大国から国家承認を得ることはできない。"北"イエメン側が状況を客観的にわきまえた上で、両者にとってふさわしいとみられる政治的妥協に応じる可能性はある。
同じイスラム教徒である南イエメンの政治家たちを責めたくはないが、思い返してもらいたいのは、南イエメンが権力を求める人々の狭間で長らく紛争に苦しめられているという事実だ。イギリスは南イエメンを支配するために12名のサルタン(君主)と王子を指名しなければならなかった。ソ連も同様に、EUトロイカの支援を得て、アデンを支配する共産主義者を3名指名した。
南北イエメンの統一時に、当時のアリ・サーリム・アル=バイド大統領がサナアに出向き、首都アデンの支配権を引き渡した。その理由はイエメン統一に賛成だったからではなく、政敵に南イエメンの支配権を奪われたくなかったというものだった。だからこそ、平和的な権力の移譲・政治的コンセンサス・国際社会の承認がないと、今後南イエメンでは内部で争いが続き、小さな複数の国家に分割される恐れがあるのだ。そうなると、イランのような邪悪な国家が侵入して新たに自国領土に組み込むだろう。
事実上、南部暫定評議会の行動は自殺行為であり、近隣地域に対し疑念を抱かせ関係を悪化させるものだ。今回の動きを称賛した勢力はフーシ派、イラン、カタールのみだった。南部暫定評議会のいかなる弁明も今回の軍事行動を正当化できない。正当化するには、フーシ派によるクーデターを認め、イエメンの支配権を求める反乱勢力などとの合意を取り付けていなければならなかった。
アブドゥルラーマン・アル=ラッシュドはベテランのコラムニスト。アラビア語国際ニュース衛星放送局「アル=アラビーヤ」の元本部長であり、ロンドンに本部を置くアラビア語日刊高級紙「アッシャルクル・アウサト」の編集長を務めた経験もある。Twitter:@aalrashed