Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

イランのアラビア湾の侵攻は食い止めなくてはならない

Short Url:
13 Nov 2021 11:11:42 GMT9
13 Nov 2021 11:11:42 GMT9

この1年、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の海軍部門は忙しくしてきた。1月以降にアラビア湾で発生したうち、少なくとも11件の重大な海難事故はIRGCによるものと考えられている。これらの中には、商業用タンカーがハイジャックされて乗組員が人質にとられた事件や、IRGCのスピードボートが米海軍の艦船に対し嫌がらせをした事件も含まれる。

イランは何年もの間、アラビア湾に米海軍がいる必要はないと主張してきた。イラン政府はまた、繰り返し「海峡の閉鎖」を脅しとしてちらつかせてもきた。海峡とは戦略的に重要なホルムズ海峡を指す。この数ヶ月は、イランの商業船舶への攻撃が続いた。「18世紀の海賊のよう」という表現がぴったりのやり方でだ。

ちょうど先月に、イランはオマーン湾でベトナム船籍の石油輸送船「MV Southys」を拿捕した。1979年の在テヘラン米国大使館占拠事件から42年目の記念日に、イランはこの船の映像を国営テレビで放送し、拿捕を祝った。

8月上旬には、武装したイラン人たちが、オマーン湾の国際水域を航行中のパナマ船籍の民間船「アスファルト・プリンセス」に乗り込んだ。また、「アスファルト・プリンセス」襲撃の数日前には、イランのものと思われるドローンがイスラエル人大富豪が所有する商業用石油輸送船を攻撃した。

同じく国際水域で起きたこの事件では、2人が死亡した。同時期に起こったアフガニスタンの崩壊がなければ、この2つの事件はおそらく国際的にもっと注目を集めていただろう。

最後に国際社会がアラビア湾の海洋安全保障について真剣に取り組もうとしたのは、2019年の夏、イランによる商業船舶への攻撃が相次いだ時のことだった。当時、イランの攻撃を抑止するための新たな国際連合を求める声は、トランプ政権のイランに対する「最大限の圧力」政策を支持していると思われることを望まない欧州諸国の反発にあった。

あれから2年が経った今、国際社会は、ホルムズ海峡の安全を確保し各国間の海運を守ることは国際的な義務であるという事実に気づく必要がある。国際規範や法治に関わる問題だけでなく、アラビア湾からの石油やガスの自由な流れが制限、または完全に停止した場合の経済的な影響は非常に大きい。世界では一部の地域がすでにエネルギー危機、または、少なくともエネルギー価格の高騰に直面している今となってはよりいっそうだ。

世界トップの海運国である米国は、アラビア湾における新たな抑止力と安全保障に率先して取り組んでいかなくてはならない。米国の政治家の中には、米国のこの地域からの石油・ガスの輸入量は非常に少ないため、ホルムズ海峡の海運の順調な継続のために特に尽力する必要はないと考える人々がいるのも事実だ。これは、短絡的な考え方だ。米国は中東からの石油や液化天然ガスには依存していないかもしれないが、供給が大幅に途絶えた場合、経済的な影響は世界中に波及するだろう。

国際社会は、ホルムズ海峡の安全を確保し各国間の海運を守ることは国際的な義務であるという事実に気づく必要がある。

ルーク・コフィー

たとえば、世界最大のLNG輸入国である日本は、ガスの30%をホルムズ海峡経由で輸入している。また、石油の80%もアラビア湾岸から調達しているのだ。もし、これらの資源が利用できなくなった場合、日本経済にどんな影響があるか想像してみてほしい。その経済的なショックは、世界中に何らかの影響を与えるだろう。

バイデン政権がアラビア湾の安全保障を強化するためにできることの一つは、トランプ政権によって最初に提案された中東戦略同盟(MESA)の構想に新たな息を吹き込むことだ。MESAは、安全保障における米国とアラビア湾岸諸国の負担の分担を改善することを目的としている。

MESAの軍事力が増強されれば、地域の安全と安定性の向上につながるというのが当初の考えだった。

もちろん、ジョー・バイデン大統領は、トランプ政権から生まれた案を復活させることには非常に抵抗があるだろう。だが、バイデン政権は最初はアブラハム合意に消極的だったが、現在ではトランプ時代のイニシアチブを支持している。ドナルド・トランプ前大統領政権下ではMESAが軌道に乗ることはなかったが、バイデン大統領がその後を引き継いでいくべきだ。

MESAを始動させるために海洋安全保障が最適である理由の一つは、これが、米国とアラビア湾岸諸国の協力関係において成功実績がある分野だからだ。MESAは、湾岸地域ですでに活動している統合海上部隊(CMF)を基盤とすることができる。CMFは34カ国の有志連合でバーレーンに本部を置いており、2004年以来、アラビア湾とその周辺地域で、様々な安全保障、テロ対策、海賊対策の活動を行っている。重要な点は、CMFにはすでにサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、バーレーンなどの地域諸国が参加していることだ。MESAによって、この協力関係を正式な形にすることができる可能性がある。

だが、アラビア湾でのイランの侵攻は着実に進行しているとはいえ、バイデン政権がすぐにイラン政府に対して事を起こすとは考えにくい。バイデン政権が掲げる外交政策の最重要課題の一つは、イランとの新たな合意の実現だ。ホワイトハウスがいかに交渉再開に必死になっているかは、ありありと伝わってくる。イランが今月中にも交渉再開の可能性を示唆していることからも、バイデン政権はイラン政府の気に障るような動きは控えるだろう。

ホルムズ海峡に抑止力と安全保障を確立するためには、米国のリーダーシップが欠かせない。だが、米国だけではそれは実現できない。ホルムズ海峡の自由な航行は、米国の戦略的優先事項というだけでなく、国際社会の優先事項でもある。

イランで強硬派のイブラヒム・ライシ新大統領が就任した今、IRGCの挑発的な行為は増えることが予想される。アラビア湾におけるイランの攻撃を打ち負かすよりは、その侵攻を阻止する方がずっと簡単だろう。警告ランプはすでに点滅している。行動を起こすべき時が来たのだ。

  • ルーク・コフィー氏はヘリテージ財団ダグラス&サラ・アリソン外交政策センターの所長。Twitter: @LukeDCoffey
topics
特に人気
オススメ

return to top