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イランはイラクを戦火の海に追いやる

18 Aug 2019 02:08:49 GMT9

サダム・フセインが密かに開発を進めていた原子炉が破壊された1981年の空爆以来初めて、イラクはイスラエルの攻撃を受けることになった。イランの支援を受けたイラク非正規軍のシーア派民兵組織「人民動員隊」(PMF)の基地では、謎の爆発が連続発生している。最新の爆発は先週、バグダッドの武器庫で発生した。イスラエルのメディアと軍事筋は疑いの余地があるかのような態度を見せながら、この爆発が実際にイスラエルの攻撃だったという意見で一致している。

ゼルザールやファテフ110など最大射程距離700キロメートルのミサイルを含むかなり強力なロケット兵器が、イラク全体に散らばる人民動員隊の基地に密輸された。人民動員隊は、サウジ石油施設に向けてミサイルを発射さえした。

イラン政府は、すべてお見通しのイスラエルがキノコ雲を発生させるほどのミサイル備蓄に気付かず、対抗措置を起こさないと本気で信じていたのだろうか?イスラエルは、ドナルド・トランプ米国大統領が「イスラエルに年間45億ドルを提供している。そして、イスラエルは自国を本当に良く防衛している」と発言したときに、暗黙のゴーサインを出したと主張している。マイク・ポンペオ国務長官はイラクの首都バグダッドを緊急訪問し、イラクのアデル・アブドルマハディ首相に目と鼻の先に蓄積されたロケット兵器の画像を見せ、イスラエルの報復が差し迫っていることを警告したようだ。アブドルマハディ首相は、イスラエルから最初に攻撃を受けた直後の7月22日にテヘランに急行した。パニック状態に陥った中で攻撃の激化を未然に防ぐための試みだったかもしれない。

制裁で困窮化するイラン政権は、シリアでの民兵組織態勢の維持に苦労している。ヒズボラでさえ、大幅に資金が削減された。さらに、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、親イラン派を抑制するというイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相への約束を守ることを誇示した。戦略をイラクへ移したのはイランの対抗手段だった。イスラエルは、イスラエル国境のすぐ北に配置されたイランの軍事資産に砲撃を浴びせかけることも可能だが、イラクの広範囲への攻撃は兵站上、事情が異なる。特に、イスラエルのF-35戦闘機は空中給油なしではイラクに到達できない(シリアにある米軍資産が最近の攻撃を助けた可能性がある)。一方、人民動員隊はイラク国家に雇用されているため、イランは経済的に困窮しているが、費用のかからない常備軍を保有するうらやましい立場にある。

イラクを動かしているのは誰か?米国がイラク政府に対してイランとの貿易関係を断つように求めたことに反応して、人民動員隊のある司令官は、「アメリカ人は、イラク政府がイラン対抗政策に踏み出せば、数週間で転覆することを理解している」と反論した。とはいえ、イラク領土へのミサイル攻撃を非難することを拒否したアブドルマハディ政権に議会は当惑した。イスラエルのハアレツ紙が疑問を呈したように、「イラクはイランの脅威に対する戦争におけるイスラエルの新たな前線か?...... またはイラクは隠れ同盟国で、イランとの戦争に参加しないとしても、イラク領土内でイランと戦うイスラエル、アメリカまたはサウジアラビアなどの諸外国の活動に干渉することもないのか?」

イラクの駐米大使は、「イスラエルとの関係正常化を求める客観的な理由がある」と発言し、議論を呼んだ。イラクとイスラエルが継続して連絡を取っていることは公然の秘密だ。とはいえ、イラクとイスラエルはイランの干渉を中和することを熱望しているのか?それとも、アラブ世界全体に勢力範囲を切り開く手段としてイランの恩恵を享受しているのか?

2011年の時点では、イスラエルとヒズボラの新たな紛争は、レバノンとイスラエルの細長い国境線沿いで発生していた。ヒズボラとその同盟国がシリアのゴラン高原へ進出したことでイスラエルを北東からも取り囲み、紛争範囲が広がった。特に湾岸での船舶に対するイランの攻撃と、波紋を呼ぶ米国主導の護衛へのイスラエルの関与を考えると、イラク戦線は現在、地域全体に広がった可能性がある。イエメンでの最近の後退は、サウジアラビアの奥深くの民間の標的に対するロケット攻撃の達人となったイランが支援するイエメンの反体制武装組織フーシ派への圧力を軽減する追加要因となっている。

一方、イスラム国(ISIS/ISIL)が再び台頭している。シリアのバッシャール・アサド大統領とハメネイ師が2012年に、拘束された過激派をまとめて解放し、占拠した油田からの収入で彼らを豊かにし、イスラム国のシリア支部の誕生に一役買ったときのように、イスラム国の現在の勢力回復が自然の成り行きか否かを問うべきだ。イスラム国の復活は、イラクとシリア東部の人民動員隊の支配地域で起きている。イスラム国がアサドに過激主義に対抗する防波堤となる口実を提供したように、イスラム国の存続は人民動員隊への武装解除と動員解除の圧力を取り除く。

アブドルマハディ首相の最近の法令で、人民動員隊は7月末までに正規軍の統制下に組み込まれる必要があった。しかし、民兵隊の司令官は、数か月余分に必要だと主張する。アブドルマハディ首相が評判の悪い人民動員隊第30旅団にニネベ州からの撤退を命じたとき、民兵組織はこの撤退を妨げるデモを行った。専門家の多くはこの法令が実際の効力を失い、人民動員隊が法令の目的を無視しながら、その地位を強化する機会として活用していると見なしている。

差し当たって米国は、多数の親イラン勢力に対する制裁など、アヤトッラー(イスラム教シーア派の指導者)に圧力をかける称賛に値する仕事をしてきた。しかし、その結果、イラン政府は地域での好戦的な姿勢を積極的に強化せざるを得なくなっている。これに関連して、欧州の懐柔策の試みは浅はかだ。ジョン・ボルトン米国家安全保障担当大統領補佐官は、シリアに石油を密輸した疑いで英国当局が拿捕したイランのタンカーの解放を阻止するための最後の試みに取り組んでいる。このような譲歩は、攻撃姿勢を高めても代償を払う必要はないとアヤトッラーに思い込ませるさせるだけだ。

イランは、英国、日本、および他の国家に対しては自国の影響力を誇示する卑劣な手段を使って逆らってきた一方、壊滅的な対応を引き起こす可能性のある米関係者に対する攻撃には至っていない。トランプとボルトンも同じように、自分たちは手を下してなく、戦争を望んでいないと主張できるように、イスラエルに攻撃させている可能性がある。

イスラム革命防衛隊(IRCG)のホセイン・サラミ総司令官は、ヒズボラが保有する破壊能力だけでも「地図からシオニスト政権イスラエルを一掃」できると豪語している。トランプは以前、イランとの戦争が「これまで見たことのないような破壊」を引き起こすと威嚇した。好戦的で予測不可能な双方の指導者の間で、イラクの意思決定者は、イランのロケットに対して、そしてイラクを戦火の海に追いやる無謀な反逆者に対して、断固とした態度で行動してほしい。

バリア・アラムディン(Baria Alamuddin)は、中東および英国で受賞歴のあるジャーナリスト兼ブロードキャスター。メディアサービスシンジケート(Media Services Syndicate)の編集者で、多数の国家元首にインタビューした経験をもつ。

https://www.arabnews.com/node/1541696

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