イラン核合意の再建に向けた協議がウィーンで再開される中、交渉はすでにこれ以上は続けられないところまで来ており、希望が見え始めるか、最終的に崩壊するかのどちらかだろうという空気が高まっている。
それでも、双方がこれまで以上に合意に近づいている可能性はある。もっとも最近の数週間前の協議の最後に米国と欧州の当事国が失望を表明した際、イランは前向きなメッセージでそれに応えた。
イランは、カラジの核施設に新しいカメラを設置することで、核の監視機関である国際原子力機関(IAEA)と重要な合意に達した。監視カメラは、イスラエルによるものとされる妨害攻撃で今年6月に破損または破壊された機器に代わるものとなる。
今週の協議再開の数日前、イランの核機関の代表であるムハンマド・エスラミ氏は、イランは産業利用に必要だと主張するウラン濃縮度60%を超えることはないだろうと発言し、イランの核活動はIAEAと自国の国際公約の枠内である、と述べた。
これらは小さな意思表示ではあるが、今年に入ってから協議に進展がないことを考えると、重要な意味を持つ可能性がある。イランにとっては、2018年に米国が核合意から離脱して以来、主要な2つの議題は変わっていない。すなわち、すべての制裁の即時かつ無条件の解除、そして、米国が今後この協定から離脱することはないという確固たる保証だ。
二つ目の条件が大きなハードルとなっている。米国のジョー・バイデン大統領は核合意から離脱しないと誓約することはできず、彼の後継者が特にトランプ大統領と同様の立場をとる場合、議会で批准されない限りはこの協定から手を引く可能性もある。両極化が進む米国議会では、批准は考えづらい。新たな合意を結んだとしても、この解決困難な状況がそれを短命に終わらせる可能性がある。
技術的な面に関しては、協議はかなり進展している。2015年に定められた協定の条項はしっかりと文書化されており、イランは「平和的」な核活動の境界線と限界を理解している。実際、イラン政府は―そして、その主張を保証する専門家もいるかもしれない―ウラン濃縮のレベルを上げ、遠心分離機の数は増やしているが、当初定められた条件の範囲内にはとどまっていると主張している。イランは、協定の主要署名国である米国こそが一方的に条件を破っており、合意に再び参加する必要があるという見解だ。
政治的な面では、状況はより複雑だ。まず、イラン政府に対して課せられた制裁の中には、人権の侵害や、弾道ミサイル計画、ドローン攻撃など、核とは関係のない事項に対するものが含まれる。イランはすべての制裁の解除を望むが、米国と欧州や湾岸諸国の参加国は、こうした核に関連しない活動に関してイラン政府が譲歩することを望んでいる。イランがイエメンのフーシ派組織に供給してきた弾道ミサイルやドローンは、サウジアラビアの民間人を標的とした攻撃に使用されている。
イランの経済問題はより深刻であり、時間はもうなくなってきている。イランが望むのは、自由市場への石油の輸出を妨げている制裁の即時解除だ。
オサマ・アル・シャリフ
実際、イランの弾道ミサイルとドローン技術は、ますますこの地域における流れを大きく変え得る脅威となり始めている。イランの傀儡ともいえるイラク、シリア、レバノンは、現在これらの兵器が使用可能な状況と考えられており、イスラエルを含む地域に関わる多くの国にとっては大きな懸念材料となっている。
イランの過激派指導者たちにとって、ここは譲れないところだ。これらの兵器は、特にイスラエルによるイランの核施設への爆撃の脅威に対する主要な抑止力として考えられているのだ。現状では、米国がすべての制裁を直ちに解除するようにという圧力に屈することもないだろう。
だが、ウィーンでの協議再開の前夜、イランのホセイン・アミラブドラヒアン外相は、交渉におけるイランの最大の焦点は、イラン政府が自由に石油を輸出できることを保証する確かなプロセスにおいて米国のすべての制裁を解除することだと述べた。
「我々にとって最も重要な問題は、まず、イランの石油が容易に、妨害されずに輸出できるという状態を実現することだ」と、アミラビドラヒアン外相は語り、「石油の輸出で得られた利潤は外貨としてイランの銀行に預けられ、我々は包括的共同行動計画に規定された経済的利益をすべて享受できるようになる」
イランの経済問題はより深刻であり、時間はもうなくなってきている。イランが望むのは、自由市場への石油の輸出を妨げている制裁の即時解除だ。これは、イラン政府が第一段階として石油輸出に直接関係する制裁のみの解除を受け入れる意思があることを表しているかもしれない。
米国のバイデン大統領は現在、来年の重要な中間選挙で自党の勝利の見込みを下げる可能性のある国内での問題に直面している。この状況で戦争に引きずりこまれたいとは思っていないだろう。イランの問題を早急に片付けてしまえば、バイデン政権は厄介な議会選挙やその他の選挙への準備に集中できるようになる。
これはイスラエルにとってはよいニュースとはいえない。イランとイスラエルはここ数週間、明らかな警告を発し合い、ともに相手を威嚇することを目的とした軍事演習を行なってきた。イスラエルはほぼ戦闘態勢に入っているが、一方的な先制攻撃はリスクも大きく、結果も予測できない。
米国国家安全保障顧問ジャック・サリバン氏は、先週、核協議について話し合うためにイスラエルを訪れたが、軍事攻撃の選択肢には言及しなかった。「我々をあてにしないでほしい」というのが彼の暗黙のメッセージだったのかもしれない。そして、イスラエルはそれをよく理解したようだ。今週、イスラエルのナフタリ・ベネット首相とヤイール・ラピード外相が、イスラエルはイランの核兵器開発能力を恒久的に制限する強力な核合意を問題なく受け入れるという発言をしたのは、そのためかもしれない。