イラン軍のアリレザ・ファード准将は今月、次のように発言した。「我が軍の抑止力と秘密兵器が、320キロ離れたホルムズ海峡にいる忌々しい敵を阻止した」
ハサン・ロウハーニー大統領はこう発言している。「ホワイトハウスが取った行動は、知的障害の現れである」
イスラム革命防衛隊(IRGC)のアミラリ・ハジザデ航空宇宙部隊司令官の主張はこうだ。「40から50機の航空機を搭載し、6000人の兵士を乗せた航空母艦は、かつて我が軍にとって深刻な脅威であったが、今では単なる的に過ぎない。脅威だったものが、機会に変わったのだ。彼らに何か動きがあれば、頭に打撃を加えるつもりだ」
同イスラム革命防衛隊のアリ・ファダヴィ副司令官は、木曜日にこう付け加えている。「我が国に対して一発の銃弾すら撃てる勇気を持つ者はいないだろう」
同イスラム革命防衛隊のガーセム・ソレイマーニー司令官はこう発言している。「我が軍は敵のすぐ近くに居るが、その場所は想像すらできないだろう。準備は整った。いつでも向かって来なさい。戦争を始めるのが敵なら、それを終わらせるのが我が軍だ」
これ以外にも「外国勢力は地域から出て行くべきだ」とする外務大臣の発言など、このところイラン当局者は好戦的な脅迫を繰り返している。イランの各指導者は現実世界から乖離し過ぎて、自国が全世界を股に掛ける征服者であるとの空想的なプロパガンダを、自ら信じ込んでいるのだ。
貧弱な自国軍隊に遥かに勝る連合部隊を保有するNATO加盟国に対して脅迫と挑発を重ねるイランの指導者らは、自国の立場をどう捉えているのだろうか。これはリスクを冒す勇気などではない。ヒズボラのハサン・ナスルッラーフが2006年のレバノン侵攻でそうしたように、イランの指導者も我慢強いイラン国民を戦火に曝したまま地下シェルターに避難するだろう。ナスルッラーフも最近、同様の好戦的で過激な発言を繰り返している。「イスラエルと戦争が起きれば、2006年のときより大規模な戦いとなり、イスラエルは絶滅の瀬戸際に立たされるだろう」。だが、破滅的で狂乱に満ちたナスルッラーフの空想に巻き込まれる市民についてはどうなのだろうか。
先週、英当局が国際的制裁に基づき、アサド政権に石油を密輸しようとしていたイランの石油タンカーをジブラルタルで拿捕したことで、緊張が高まりを見せた。イラン政府は意外にも、英国の船舶を拿捕して報復すると脅しを掛けた。数時間以内に、ホルムズ海峡を通過中であった英国の石油タンカーに対し、ハイジャック犯気取りのイスラム革命防衛隊が拿捕を試みたが、英海軍のフリゲートによって追い払われている。イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相は高圧的な口調で、事件の発生を否定した。アラビア湾でプレゼンスの強化を進める英政府だが、シリアへの密輸を繰り返さないという条件で、イランの石油タンカーを解放する構えを見せている。これはまるで、今後の善行を約束するという条件で、連続殺人犯にナイフを返すようなものだ。
イラン政府の侵略的指導者らは、危機に見舞われた国の弱みに付け込むことにかけては40年の経験を持つ。EUとの関係で政治的危機に瀕する英国が流した血の臭いを、イランは海中で嗅ぎつけたのだ。しかし、ボリス・ジョンソンが首相に選出されるほど政治情勢が無秩序な茶番状態に陥っている英国だが、シリアやイエメンの状態にはまだ程遠い。
米政権が国際舞台で影響力を発揮するのに四苦八苦する中、西洋諸国はこれまでになく分裂し無力さをさらけ出している。ヨーロッパ諸国は2015年のイラン核合意を全力で維持することで、米国の立場の弱体化を図っている。ドナルド・トランプ米大統領が取る外交方針も一貫性がなく揺れ動いており、プラスには働いていない。核問題が唯一の争点であるとのツイートがトランプからあったが、これは、イランが準軍事勢力を通じて進める地域的な侵略に反対する、同政権の取り組みと相反する内容だ。経済制裁を追加し続けたところで、収穫逓減の法則に従うだけだ。イランの主要輸出市場であるイラクはその都度、制裁の免除を認められている。国際的合意が得られていないため、中国やインドなど各国は、石油制裁を自由に無視することができるのだ。
アラビア湾の船舶を守るための国際的な海軍戦略が、大詰めを迎えている。米国のある軍事専門家によると、イスラム革命防衛隊の活動に対する監視能力が急速に拡充されると言う。「近付くことすらできないような対応が取られます」。米軍の指揮統制能力は作戦の役に立つかもしれないが、船舶のほとんどはアジア市場が行き先であることから、幅広い連携が必要である。
英大使がトランプを批判する機密公電が最近リークされ、米英間でいさかいが生じたが、これはトランプ政権の外交関係がいかに不安定であるかを如実に表している。英国は、テロリズムとイランの脅威から自国船舶や国外資産を守りたければ、伝統的な同盟関係に立ち返らざるを得ない。自滅的な英国は一家の厄介者に立ち戻ろうとしているが、ヨーロッパ諸国は脅威を受けるたびに団結して立ち向かってきたのだ。
この危機により、イランが攻撃の策源地や攻撃兵器の貯蔵庫として依存している係争中の島々や水路が注目を集めている。国際社会が報復として、イランが海洋に設置した発射台を没収し、正当な権利を持つアラブ人所有者らに土地を返したらどうなるだろうか。海辺の一流物件を失うリスクは、イランの指導者に再考を促すだろう。
「最大限の圧力」政策で孤立を深める米国や、強硬手段に出たことでしっぺ返しを食らった英国をはじめとする国々など、イラン指導者は、国際社会に対するハイリスクな分割統治ゲームに熱を上げている。だが、原油価格の急騰を招いたり、船舶へのリスクを増大させたり、世界のエネルギー安全保障に対する脅威を拡大するイランは、飼い主の手に噛み付いているようなものだ。中国をはじめとするエネルギー需要国が船舶の妨害に賛同するなどと、イラン政府は本気で信じているのだろうか。
誰も戦争など欲していない。特にイラン国民がそうだ。ツイートではライオンのように吠え散らかしながらも、イラン政府への責任追及では声を潜めるトランプも当然同じだ。しかし、現在の挑発行為のパターンが続けば、何らかの衝突(限定攻撃や長期戦争)が不可避な状況に陥るだろう。中国、日本、ロシア、ドイツ、フランスの各国にとって、情勢の進展を見極めるために曖昧な態度を取ることは、賢明な選択ではない。単純に経済的な必要性から、これらの大国は遅かれ早かれ、イランの威嚇行為を無力化するための多国間活動に参加することを強いられるだろう。
イランは国際舞台において、ちっぽけながらも熱を持った火種のようなものだ。しかし、ペストを広めた黒いネズミのように、あるいはマラリアを媒介する小さな蚊のように、もし世界の意思決定者が適切な予防措置を取ることを怠れば、寄生虫の些細な脅威であっても、世界を屈服させることが可能になる。
バリア・アラムディンは、受賞歴のあるジャーナリスト兼アナウンサーとして、中東および英国で活動しています。Media Services Syndicateで編集者を務めており、国家元首を取材訪問した経験も豊富です。