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トルコには、ロシア・NATOの間で果たせる重要な役割がある

ロシアの支援を受ける分離独立派と対峙する前線で、塹壕を掘るウクライナ軍傘下の軍事組織「ウクライナ国家親衛隊」、ウクライナ南東部ドネツク州アウディーイウカ市近郊、2022年1月8日。(AFP)
ロシアの支援を受ける分離独立派と対峙する前線で、塹壕を掘るウクライナ軍傘下の軍事組織「ウクライナ国家親衛隊」、ウクライナ南東部ドネツク州アウディーイウカ市近郊、2022年1月8日。(AFP)
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10 Jan 2022 03:01:59 GMT9
10 Jan 2022 03:01:59 GMT9

ロシアとNATOの関係は、ここ数年揺らいできている。ロシアによる2014年のクリミア併合と現在進行中のウクライナ危機により、状況はさらに悪化した。しかし、これら2つの危機を別にしても、両者の緊張は高まり続けている。

昨年末、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)本部における同国代表部の外交活動を近く停止すると発表した。この関係断絶へ向けた動きの後に、さらに具体的な動きが続いた。ロシアのセルゲイ・リャブコフ副外相は3週間前、2つの文書を公開した。1つはアメリカ、もう1つはNATO加盟のヨーロッパ各国に宛てたものだ。2つの文書に書かれていた内容は、ロシア政府高官たちがここ近年様々な折に触れて出した個別の発言をより体系的にまとめたものだった。両文書により、ロシア政府はNATO加盟各国との関係を第二次世界大戦終結時の状況に戻したいとの野望をむき出しにした。

ロシアの文書で中心的に扱われたのはウクライナだが、要求はそこにとどまらなかった。NATOの旧ソ連構成諸国への拡大に反対し、とりわけウクライナとジョージアは加盟させないよう要求した。この要求は、国際法の基本原則に反する内容だ。独立国家が自らの希望する国際同盟組織に参加することを阻む内容だからだ。

NATOは直ちに要求を拒否し一切受け入れられないと表明したが、加盟各国の政府内部では、ロシアの要求を様々な側面から分析する動きが出ている可能性もあるという想像はつく。

ロシア政府がこうした戦略を取るに至った理由は複数あると思われる。

第二次世界大戦の終結以降、世界は様変わりしている。ソビエト連邦は解体されたが、今やロシアはその傷から回復している。ロシアは自信を取り戻し、クリミアを併合してウクライナに軍事的圧力をかけている。ウクライナとジョージアのNATO加盟は是が非でも避けたい事態だ。シリアでは強い軍事的プレゼンスを確立し、リビアでは「民間軍事会社」ワグナー・グループを隠れ蓑に傭兵を派遣して、強い影響力を行使している。

ロシア政府の最終的な狙いは、旧ソ連圏における政治的影響力を可能な限り取り戻すことだ。旧ソ連圏には、NATOに加盟して日が浅いバルト三国、南コーカサス、中央アジアのチュルク系諸国が含まれる。各地域にはそれぞれ、一定数のロシア系住民が暮らしている。ロシアの政治家の中には、遠回しに各国を脅しロシア系住民に特権を与えるよう要求するものもいる。しかしバルト三国の国民がロシア再編入を希望する可能性はゼロとみられる。

ロシアが国家的に、旧ソ連領土を取り戻したいという強い野心を抱き続けているのは明らかだ。クリミアではそれが実現し、現在はウクライナのドネツク州とルハンシク州に介入している。さらに撤退から16年が過ぎても機を逃さず、アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ自治州にロシア軍部隊を派遣した。さらに先週、燃料価格の上昇に反対するデモ隊の暴走により起きた混乱に乗じ、カザフスタンにも部隊を派遣した。派遣されたロシア兵たちは、旧ソ連諸国からなる独立国家共同体(CIS)の軍事機構「集団安全保障条約機構(CSTO)」に所属してはいるが、ロシア軍であることには変わりない。

ただし、これは両刃の剣となることに注意する必要がある。ロシア連邦には、ロシア人以外の多種多様な少数民族が暮らしている。したがって、ガラス細工の家に住んでいるようなもので、そこに石を投げるような行為は得策と言えない。

ロシアは文書の中で、1997年以降構築されたNATOの軍事インフラの解体も要求している。NATOは民主主義国家で構成される軍事同盟であるため、加盟国間の同意がなければそういった決定は不可能だ。したがって、加盟国の国益が損なわれるような決定が採択されることはあり得ない。

この点に関して、トルコは特例的な位置づけにあると見なせる。トルコ政府は、全面的とは言わずとも基本的にはロシア政府との良好な関係を維持している。トルコとロシアは、リビアでは敵対関係にある。シリアのイドリブ州では、利害が対立している。ナゴルノ・カラバフ自治州では危ういながらも協力関係を維持している。

アメリカのトルコ政府に対する姿勢は、全く別ものだ。アメリカ議会では、トルコ政府によるロシア製S-400防空システム導入をはじめとした様々な理由により、トルコ政府の姿勢に対しては党派を超えて批判的な見方が多い。上下両院で、トルコはNATOの重要加盟国ではなくお荷物だと見なす向きが多い。ロシアはトルコが独自の役割を果たすよう仕向け、あらゆる手を使ってNATOを分裂させようとしている。

トルコが脱退してもNATOが存続する可能性はあるが、その影響力低下は避けられないだろう。NATOを脱退したらトルコはロシアにさらに接近し、東西両陣営のバランスが大きく変化することになるだろう。

NATOに加盟するヨーロッパ諸国は、トルコのNATO残留は望んでいるがEUへの加盟には賛成していない。トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、NATOから脱退する気など一切ない。こうした背景を鑑みると、トルコにとってのより好ましい政策とは、NATO加盟国の地位を維持しつつ、他の加盟国とロシアとの関係を取り持つ新たなパイプ役を果たしていくことだと思われる。

ヤサール・ヤキス氏はトルコの元外相で、与党・公正発展党(AKP)設立メンバーの1人。

 Twitter: @yakis_yasar

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