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イランの危険な大博打

23 Jun 2019 02:06:26 GMT9

2013年にシリアで約1400人の民間人が化学兵器によって残忍に殺害された後、バラク・オバマ前米大統領が自ら規定したレッドライン(越えてはならない一線)の監視に失敗したことは、シリア内戦の流れが取り返しのつかない方向へ変化した瞬間として広く認識されている。欧米の妥当性と信頼性が衰退・消滅するにつれ、ロシアが強力な仲介者としての地位を確立した。ロシアの圧倒的な空軍力の助けを借りて、弱体化したシリア政府軍とシリア政府軍を支援するイランはシリア中心地の奪還を実現した。同時に、大量の民間人犠牲者が出た。

振り返ってみると、ドナルド・トランプ米大統領が一方的な米軍ドローンの撃墜などのイランによる複数の挑発への対応を躊躇したことで、米国の信頼性が致命的に損なわれてしまったかもしれない。そして、明らかな処罰を受けることなく外国の標的を攻撃できるとわかって安心したアヤトッラー(イスラム教シーア派の指導者)は、地域の支配強化へ向けてさらに勢いづいた可能性がある。

報道された米国によるイランのミサイル発射システムに対するサイバー攻撃が大きな効果を発揮したかどうかはまだ明らかではない。しかし、2010年にイランの核施設がワーム「スタックスネット(Stuxnet)」に攻撃を受けたことがきっかけとなり、イランはサイバー攻撃に本格的に取り組むようになった。そして、イラン政府は現在、世界中の国家の重要なデジタルインフラを攻撃する能力を誇っている。したがって、米国によるイランのミサイル発射システムに対するサイバー攻撃は最終的に、米国とイランの対立を超えたはるかに広範囲の標的に対する無差別攻撃に移行するという不幸な結果を導くかもしれない。

米軍ドローン撃墜が孤立した事件だったのであれば、「管理の行き届いていない愚かな」下士官の行為だというトランプの支離滅裂な思い込みも何とか納得できるものだったかもしれない。しかし、イランの最高指導者直属の精鋭部隊であるイスラム革命防衛隊(IRCG)のホセイン・サラミ総司令官が、「米軍ドローンの撃墜は率直で明確なメッセージだ...... このような手段でイランは敵に対処する」と表明したとき、トランプの理論は徹底的に否定された。

イスラム革命防衛隊とイラン国外のイラン支援勢力は、様々な局面で米国の決意を試そうと自由に活動してきた。ここ数週間、ホルムズ海峡近くで6隻の石油タンカーが攻撃された。バグダッドの米国大使館に近いイラク南部バスラの石油施設がミサイル攻撃を受けた。その他にも、バグダッド北方のタージ基地やイラク北部モスル近くの施設など、イラクにある米軍基地に対してミサイルが発射された。イラン支援のフーシ派は、サウジアラビア領土の奥深くへの一連の攻撃の犯行声明を出しており、石油パイプラインへの数回の攻撃に加え、民間空港の到着ロビーも攻撃した。フーシ派の部隊は現在、イランから手に入れた巡航ミサイルを使用していると主張する。米軍を標的としたアフガニスタンの首都カブールでの自動車爆弾による攻撃では、イラン政府の関与が指摘されている。イラン政府はこのすべてを実行した上で、イランへ「弾丸を1発でも発射」すればイランは中東地域を火の海にすると高飛車に言い放っている。

イスラム共和国イランは暴力で自己表現するのが常で、そのマフィア的なメッセージから、イラン政権が大胆にも米国の報復を誘っているのは明らかだ。イラン政府の戦争挑発者とアヤトッラーは、自分たちよりも先に自由世界のリーダーである米国が動じさせることができれば歓喜するだろう。

イランはいちかばちかの大博打を行っている。制裁措置でイラン経済は急激に悪化している。アヤトッラー・アリー・ハーメネイー(ハメネイ師)は、イラン政府が2024年まで続く可能性があるトランプ政権に持ちこたえることはできないと認識している。イランの報復能力は日ごとに衰退する。

そこでハメネイ師は、トランプが国際社会で嫌われており、国際社会がイラン政権の苦境に同情を寄せていることを把握した上で、トランプ大統領に行動を起こさせようと決めたようだ。イランの指導者は、トランプが北朝鮮、そしてベネズエラに対する圧力を強め、結局その脅しを完全に実行できなかったのを目にしてきた。トランプが中東紛争で行き詰まるのを恐れているのは明白だ。そこでイランの権力者たちは、トランプができれば反応したくない厚かましい挑発を徐々にエスカレートさせてきた。これはリスクの高いチキンゲームかロシアンルーレットの大博打ではないか?

イランの指導者たちは、西側諸国を強力だが臆病だと見なしている。バスラの米国領事館の近くでイラン支援勢力がミサイルを発射したとき、米国人は領事館から退避した。米国はイラク中部のバラド基地から撤退し、安全上の懸念から米国の請負業者を退避させていると伝えられている。同様に、2011年以前は、イラン支援勢力による攻撃を受けて、連合軍はできるだけ早く撤退せざるを得なかった。トランプはシリアからの撤退をますます急いでいる。一方、欧州諸国にはイラン核交渉の崩壊に対して合理的な救済策がないため、甘い言葉でイランに状況に大きな変化がないふりをさせようとあたふたと画策している。

イランが新たに挑発するたびに、敵国の弱点と戦略的な混乱がさらに明らかになる。粗野な発言にもかかわらず、トランプは封じ込めや政権交代のビジョンを欠いている。湾岸船舶への攻撃とホルムズ海峡でのイランの脅威により原油価格は急上昇しており、世界経済があまりに弱体化すれば、トランプがこの争いでの戦意を完全に失う可能性がある。イラク政府とエクソンモービルの間の530億ドルの契約は安全上の懸念を理由に凍結され、タンカーの保険料は10倍にはね上がり、航空会社は湾岸地域の空域を避けている。

しかし、イランのミスは、トランプを合理的で予測可能な政治家として扱っていることだ。トランプは違う。トランプは自分が弱く見えることを恐れており、イラン政府が彼のエゴを故意に攻撃してきたと受け止めた場合、トランプは抑制のきかない不相応な非難を行う。この好戦的な関係者たちがうかつに状況を悪循環に向かわせた場合、結果は双方にとって破滅的なものになるだろう。私は多くの人と同様に、あらゆる形態の戦争を忌み嫌う。最悪のシナリオは実際、何らかの形で現政権を残す長引く紛争か、あるいは恐らくもっとひどいものになるだろう。

世界の列強相手に虚勢をはり、レッドラインが明確ではないことが判明すると、ならず者国家が積極的に自己主張し、自由に境界を拡大し始める。過去10年間の語られることのなかった大きな事実の1つは、国際秩序を強化するための紛争解決と司法機関が静かに消滅したことだ。その結果、ごろつき国家は18世紀の拡張政策の帝国主義のように、18世紀よりも強大な武器を使って手に入るものは何でも手に入れようとする。

イランの場合で考えると、商業船、在外公館、民間空港、石油パイプラインへの攻撃が、目的を達成するためのほぼ通常の手段であり見逃しても問題ないと世界が見なしているのはなぜか?他のならず者国家は、国際社会に楯突き、国際社会を脅迫し、分裂させる方法として大喜びで学び取るだろう。

1980年代のイラン・イラク戦争中にイランの指導者は、数十万人の自国民を無分別に犠牲にした。イランの指導者はすぐにでも同じことをする準備があるが、戦場をイラク、レバノン、イエメン、サウジアラビアに移し、安価な外国の支援勢力と使い捨ての人間の盾を使いたいと考えるだろう。

さらに、イランのウラン濃縮の再開は、象徴的なジェスチャーではない。イランは核武装すれば、敵は報復を敢えてせず、処罰を心配する必要なく挑発を果てしなく拡大できると認識している。将来的にイランの核の脅威に支配されないようにするために、戦術的およびイデオロギー的な違いを越えて協力する必要がある。これは米国だけの問題だけではない。イランの支持勢力はすでに東地中海にヨーロッパへの足がかりを持っており、中央アジアではロシア、中国、イランの利益が対立を深めている。

私たちは皆、敵に囲まれたお粗末な政権が隣人を気まぐれに脅かすことはできないルールに基づいた世界から利益を享受している。紛争をアラブ世界と湾岸水域にそらそうとするイラン政府の試みを阻止する必要がある。同時に、イランの民兵組織、テロリスト、および核の野望が世界秩序を破壊しようとする限り、イランの指導者に安らぎを感じさせてはならない。

バリア・アラムディン(Baria Alamuddin)は、中東および英国で受賞歴のあるジャーナリスト兼ブロードキャスター。メディアサービスシンジケート(Media Services Syndicate)の編集者で、多数の国家元首にインタビューした経験をもつ。

https://www.arabnews.com/node/1514956

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