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急激なインフレと金利高騰の中、湾岸諸国は比較的安泰

サウジアラムコの石油施設で働く労働者、サウジアラビア・アブカイク。(ロイター)
サウジアラムコの石油施設で働く労働者、サウジアラビア・アブカイク。(ロイター)
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11 Feb 2022 01:02:30 GMT9
11 Feb 2022 01:02:30 GMT9

インフレ懸念が再び世界経済を覆っている。モノやサービスの価格が急騰する可能性があり、各国中央銀行が綿密に練った金融政策が意味をなさなくなり、コロナ不況からの回復がさらに危うくなると懸念されている。

しかし経済学者や中央銀行にとり、インフレとは単なる難題ではない。世界には少なくとも1930年代に起きたインフレによる壊滅的な被害に関する苦いトラウマがあるようだ。ヨーロッパの労働者たちが手押し車に給料を載せて持ち帰ったというイメージは、今でも人々の心に深く焼き付いている。

21世紀初頭の現在、状況が当時と同じレベルまで悪化すると考える人はいない。経済学者はインフレという現象を当時よりはるかに詳しく理解しており、多くの対策を備えている。主に政策金利を自由に調整して、インフレ対策を実施している。しかし、インフレに対する恐怖心が比較的強く残る国もある。

アメリカでは、生活費指数が過去40年間で最大の伸びを見せている。ヨーロッパの複数の経済大国でも、同様の急激なインフレが起きている。

中東では、金利上昇は比較的穏やかだが、物価はかなり上昇している。サウジアラビア金融当局によると、昨年は物価が3%上昇したという。もっとも、今年2022年は上昇率が下がると予測してはいるが。

こういった現象が起きているのは、2008年~2009年に起きた世界金融危機(リーマン・ショック)の影響が長期にわたり及んでいるからだ。金融危機発生当時は、株価指数や不動産価格などあらゆる基準で測定される「資産価値」が一時期大暴落し、世界全体が貧困化する恐れがあった。

アメリカ連邦準備制度(FRB)が主導し各国金融当局も後に続いた対応策とは、金利をゼロ近くまで引き下げ、同時に財政出動という形で世界経済に通貨をばら撒くというものだった。

金融危機からは意外と迅速に回復できたが、その後中央銀行が通貨供給量を絞ることはなかった。世界中が、低利で安易な借り入れに慣れてしまった。

新型コロナ感染症が世界に広がり、金融当局は通貨供給量を増やさざるを得なくなった。世界中が約100年ぶりの大不況に突入し、多くの家庭が失業や貧困の危機に見舞われていたため、補助金や景気刺激策をやめる機会を逃してしまった。

さらに、ロックダウン(都市封鎖)により消費が落ち込み、貯蓄残高は大幅に伸びた。この傾向は豊かな欧米諸国で顕著だったが、比較的慎重志向の中国でも見られた。世界がコロナ禍から脱出しようとする今、急に財布のヒモが緩んだ人々がため込んだ現金の多くを支出に回している。逸話を1つだけご紹介する。高級車メーカー「ロールス・ロイス」は、社長の言葉によれば「人生は短いかも」ということに気づいた裕福な顧客により、昨年の売上が50%も伸びたという。

同時に、コロナ禍により世界的にサプライチェーンの寸断が起きたため、半導体から建設木材に至るまで資材が不足し、世界中でモノ不足が発生した。アメリカの大手投資銀行「ゴールドマン・サックス」の資源価格調査責任者、ジェフ・カリー氏は今週こう述べた。「現在、未曽有の危機に見舞われています。あらゆる物が不足しています。石油に天然ガス、石炭、銅、アルミなどすべて同じです。何から何まで、資源が不足しています」

サウジアラビアをはじめとした産油国など、資源輸出国の経済は比較するとはるかに安定している。

フランク・ケイン

現在の主なリスクとは、昨年はインフレが「一時的な」現象だと主張していた各国金融当局が、現在は真逆の方向を向いているため、急激に金利を引き上げて再び世界的な金融危機が起こる可能性があることだ。金利引き上げに対する警戒感から、Facebookの親会社「メタ」など世界有数の企業の一部では、すでに数千億ドル単位の株価暴落が起きている。

この状況では、中東を含めた世界の金融市場全体で深刻な先行き不安が生じている。

サウジアラビアをはじめとした産油国など、資源輸出国の経済は比較するとはるかに安定している。もちろんアメリカの金利が上昇すれば、自国通貨とドルを連動(ペッグ)しているサウジアラビア金融当局が、右に倣わざるを得ないのは間違いない。しかし、世界的に資源価格が上昇すると湾岸諸国の経済は大きな恩恵を得ることになる。主な理由は石油収入の上昇により、国富が大幅に増加するからだ。

世界経済・金融市場の見通しが不透明な中、湾岸諸国は比較的安泰と思われる。

  • フランク・ケイン氏は、ドバイを拠点に活動するビジネスジャーナリスト、受賞歴あり。Twitter:@frankkanedubai
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