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「反神聖同盟」――イラン・ロシア・中国は結ぶのか?

ロシアのヴラジーミル・プーチン大統領、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、イランのハッサン・ロウハニ大統領(左から)。2019年9月16日にアンカラで開かれたシリアに関する三カ国協議で。(AFP)
ロシアのヴラジーミル・プーチン大統領、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、イランのハッサン・ロウハニ大統領(左から)。2019年9月16日にアンカラで開かれたシリアに関する三カ国協議で。(AFP)
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16 Dec 2019 10:12:57 GMT9
16 Dec 2019 10:12:57 GMT9

ドナルド・トランプ氏が他国を膺懲するような政策を繰り返した結果、ロシア・中国・イランが戦術上の政略結婚をするという思いがけぬ結果を呼んでいる。伝統的にライバル関係にある露中両国は先に、550億ドルの共同ガスパイプライン計画をスタートさせ、またロシア・中国・イランの三国はインド洋での合同軍事演習にすぐにも着手する運びだ。

習近平国家主席はこの夏モスクワを訪問するとプーチン氏を「無二の親友」と持ち上げ、両国間の貿易規模を2024年には2,000億ドルに到達させるという目標を定めた。

「イラン、ロシア、トルコ、中国には共通項がある。アメリカからの圧力に向き合っているという点だ。ドナルド・トランプ氏の一方的な手法はイランにとって危機的だが、ロシアや中国、その他諸国にとっても危機的であることに変わりない」。あるイラン人専門家はこう述べる。

ロシアと中国は、国際的な制裁の影響をほごにするうえでイランを実験場とみている。イランの石油産業に対して多額の投資をおこなっている自国企業へ中国政府がひそかにイラン市場から撤退せぬよう勧告している一方で、アメリカはさきほど中国企業に制裁を加えている。イラン産原油の違法な輸送を助長した、という嫌疑による。

アメリカがイランの金融部門へ制裁を加えたことに対し、ロシアはこれを無視すると明言している。イラン中央銀行総裁は、ロシアとイランは銀行システムを提携させ、国際的な精査対象となるSWIFTネットワークを回避する、と宣言した。先にロシアは、イラン政府に対し制裁と国内不安を緩和する目的から50億ドルの追加融資をほどこすことに合意している。

9月にイランがGCC(アラビア湾岸諸国協力会議)の石油施設を攻撃すると、ハッサン・ロウハニ大統領はアンカラで開かれた会議に向かった。その場でロウハニ師とレジェップ・タイイップ・エルドアン氏とプーチン氏はアメリカの防衛システムを嘲弄する挑発に出、プーチン氏はロシアの軍備を購入するメリットを吹聴するのに余念がなかった。

時を同じくして、イラン国軍のムハンマド・バゲリ司令官が中国の軍事施設を巡察し、また、中国政府が熱望する一帯一路構想にイランを組み込む貿易協定について話し合うため代表団が派遣されている。

さらにいえば、この三国はサイバー戦争の実行にもっとも精力的な国々でもある。他方で自国民を国外のネット・コンテンツにアクセスさせない壁を設けている国々でもある。中国政府は西側の技術を取り除くよう官庁に命じているが、これはファーウェイなどの中国企業に対しアメリカが取っている懲罰的な措置を模したものだ。もはや技術の上では「冷戦」に世界が向かいつつあるということだ。

プーチン氏は人権を無慈悲に抑圧する。中国は百万人以上のウイグル人を投獄し、香港の民主主義の毀損を図っている。イランはまたも、数百人の自国民を弾圧し死に至らしめている。

片やトルコも、シリア国内のクルド人の民族浄化という邪悪な計画に着手している。中国とロシアは国連安保理の常任理事国であるため、中露などならず者国家に国際的な正義をつきつけることはできない。

トランプ氏がシリア北部をトルコへ引き渡したい意向を発表すると、シリア国土の主要部分をどう分割するかエルドアン氏とアサド氏の間で合意を形成する際に調整に乗り出したのはロシア政府だった。この結果、プーチン氏は中東の紛争では好個の仲介者としての地歩を確立させている。新たな軍事基地や天然資源利権の独占といった形でプーチン氏には取り分が渡る。

ロシアは、シリアおよびイラクを含むとみられる中東の未確認の数か国との間で、高性能レーダーシステムの売却にかかわる契約に署名している。イスラエルがこうした国々の準軍備基地に空爆をしかけたがために、シリアおよびイラクがロシアとイランの防衛圏にさらに緊密に組み込まれるのだとするなら、なんとも皮肉というよりない。

中国はアフリカへインフラ整備の巨大プロジェクトを開始している。またロシアはアフリカ最大の武器供与国だ。プーチン氏は10月にアフリカの国家元首43人をソチに招いている。中央アフリカ共和国やマダガスカル、モザンビーク、スーダンなどといった国々では、巨額の富を生む鉱石や石油の利権と引き換えに、ロシア人傭兵らが軍事活動を展開している。

トルコ政府は先月、リビアのトリポリ政府との間で領海および軍事協定を締結、部隊の派遣についてもその用意があることを示唆しているが、裏ではロシア政府がハリファ・ハフタル氏の指揮する対抗勢力への傭兵派遣・軍備供与をおこなっている。プーチン氏とエルドアン氏という「ストロングマン」二人が影響力の拡張争いをするなかで立ち現われるねじれた関係がここにも見て取れる。

ロシアによる干渉はイギリスでも依然として大きな懸案である。保守党政権は、先週の国政選挙が終わるまではロシアによるイギリスの民主主義への横やりについてまとめた報告書を公開することを拒否した。ロシア企業は保守党にとって重大な資金提供元であり(過去10年間で約350万ポンドが供与されている)、イギリスはロシアの犯罪組織が数十億ドルの資金洗浄をおこなう場でもある。

議会による調査では、ロシアがイギリス国内で親露派外交官、弁護士、国会議員らを育て囲い込んでいる事例について警告が発されている。ロシアによるヨーロッパ全域の極右政党への支援問題については、イタリアとオーストリアの極右政治家らがロシアの不正な金銭に目がくらんだことが露呈している。

2024年、プーチン氏は憲法の定めるところでは退任せざるをえないが、引き続き権力にしがみつけるものだろうか。抜け道としては、ベラルーシとロシアが20年間だれも顧みない政治的な統合国家を組んでいるものを非現実的に復活させ、プーチン氏を「ロシア-ベラルーシ連合国家」の最高指導者に据えるというものがある。ベラルーシでは先週、両国指導者がこうした同盟の強化について話し合ったことと歩調を合わせ、反プーチンの抗議運動がもたれている。ロシアのウクライナ侵攻への対応をめぐりフランスで先週おこなわれた協議では、両者の間に確たる歩み寄りは見られなかった。

ロシアは中東のほかアフリカ、アジア、ラテンアメリカの幾多の国々に干渉しているが、プーチン氏のやり口は明らかに分不相応で、政治的にも財政的にも保ちはしない。ロシアの国土はヨーロッパの2倍あるが、GDPは10分の1に満たない。しかしながら、三国が戦術的に同盟を組めば、人口16億、支配地域は2,700㎞²を上回り、プーチン氏と最高指導者ハメネイ師はやすやすと西側諸国を圧倒できる。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領はNATOは「脳死状態」だと警告したが、不愉快ながら正鵠を射ている。NATO加盟国の指導者らに愚弄されたとしてトランプ氏が席を蹴ったことから、それは明らかだ。国連安保理のような国際的な組織の今後についても、快方に向かうなどとはとても言えそうにない。国際社会では先を見通せる眼力と精力のある新世代の指導者を求めてやまない。目下の諸問題に呼応して国際的な制度の立て直しに共同で従事できる、そうした指導者が望まれるのだ。

西側諸国は目も当てられぬほどの分断ぶりだが、もしも、民主主義の真価や法の支配を守り抜くうえで一致点をふたたび見いだす任に耐えられなければ、勃興しつつあるグローバルな対抗圏とその抑圧的な支配形態に組み敷かれる危険にさらされることになるのだ。

Baria Alamuddin氏は、中東およびイギリスで活動する実績あるジャーナリストで放送媒体にも出演。また、Media Services Syndicate編集者として多くの国々の指導者と面談している。

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