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イランの変革に全世界的な努力が必要な理由

2019年5月8日に首都テヘランで演説を行うハサン・ロウハーニー大統領。(AFP/ HO/イラン大統領府)
2019年5月8日に首都テヘランで演説を行うハサン・ロウハーニー大統領。(AFP/ HO/イラン大統領府)
12 May 2019 03:05:23 GMT9

イラン政府とアメリカ政府の間の緊張は、新たな局面に陥った。最近の動向として、イスラム革命防衛隊のテロ組織指定、石油関連の制裁解除の取り消し、ハサン・ロウハーニー大統領による核合意の一部放棄の示唆、アラビア湾に展開するアメリカ軍に対抗するミサイル配備や威嚇の報道、そしてアメリカのジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官による軍用機及び軍艦の派遣の発表などが挙げられる。マイク・ポンペオ国務長官は、予定外のイラク訪問中に、アメリカの利益に対するあらゆる攻撃には「アメリカは迅速で決定的な対抗措置で応じる」と威嚇し、ここからも緊張の高まりが窺える。

ボルトン氏は超強硬派として知られている。アメリカのドナルド・トランプ大統領は衝突を避けようとしているように見受けられるが、ボルトン氏や同様の強硬派らは衝突を引き起こしかねない動きに出るのではないかと見られている。トランプ大統領は先週、その場の思いつきとも見られるコメントで、核問題のみに焦点を当てた対話と引き換えに制裁を解除する準備があることを匂わせたが、これまでの経緯ではアヤトラたちはトランプ大統領との対話の申し出を繰り返し拒絶してきた。この状況からも、トランプ大統領の態度がはっきりしていないことが露呈した形だ。

反トランプのリベラル系メディアは、トランプ政権に関することには即座に語調を荒げて反応するため、対イラン政策に関して分別のある議論を行うことが困難である。しかし今、衝突の結果何がもたらされるのかを問わなければならない段階になっているのである。私たちは、ブッシュ政権に関しては、同地域について稚拙な理解しか持ち合わせていないこと、そして2003年のイラク戦争においても不器用なアプローチしか取れなかったことを嘲笑ったものだ。現政権が成功裏にイランの体制変革を実行できる可能性は、それに比べても1%しかないだろう。

イラン政府よりも退陣させるべき政府は世界で他にないだろう。同政府はテロリストであり、悪意があり、領土拡張論を展開している—しかし、イラン政府を最も声高に批判する立場の人であっても、イランが無政府状態に突入し、長期間にわたり周辺地域に予測不能の影響をもたらすことを望む人はいない。悲惨なイラク戦争から15年経った今、イラク戦争という大失敗の凄惨たる影響は一向に収束する気配を見せない。イラン政府に同地域で身勝手を許すことになったのも、イラク戦争の影響である。サダム・フセイン政権が米軍による侵攻に対して為す術がなかったように、アヤトラたちも米軍に侵攻されれば為す術がないだろう。しかし、恐れるべきは侵攻そのものではなくそれが残す禍根なのだと、再度強調したい。

取り巻きの要人たちに言われるがままトランプ大統領が向こう見ずにイラン侵攻に突入したとしても、わずか2,000人のアメリカ兵をシリア東部にほんの数ヶ月残すことさえトランプ大統領は受け入れられなかったことを忘れてはならない。トランプ政権には、10年はかかるであろう安定化と国家再建に取り組むビジョンや忍耐力はないのだ。トランプ大統領は、イラクの石油全てを横取りしてイラク戦争に費やした2.4兆ドルを埋め合わせれば良い、とさえ言った人物である。そのトランプ大統領が中東で大規模な軍事作戦を主導するなど、悪夢でしかない。

より限定的な軍事作戦が展開される見通しもある。イスラエル、ヒズボラ、およびその他の武装勢力間の衝突で、アメリカが軍事作戦に巻き込まれる可能性があるのだ。昨年イラクの武装勢力がアメリカの外交施設に向けて迫撃砲を発射した際、ボルトン氏はイランへの軍事攻撃というオプションを用意するよう要求した。ロウハーニー大統領が、高濃縮ウラン(高濃縮ウランには平和目的の用途はない)の生産などの禁止された活動を再開することを発表したことを受けて、イランの核施設を標的にした攻撃が今後行われる可能性が大きく高まった。

理想的には、体制変革はイラン国民主導で行われるべきだ。内紛状態が継続的に高まっていることに鑑みれば、体制変革を求める意見も高まっているはずであり、もし制裁が強化されて日々の生活が困難になれば、そうした声はなおさら高まるだろう。最近アルジェリアとスーダンで起きた体制変革に鑑みれば、イラン国内でも忌み嫌われているイラン政府には賞味期限切れ状態だという注意書きが付いているようなものだ。しかし、アヤトラたちを失脚させても、ガーセム・ソレイマーニー氏やホセイン・サラミ氏のような権力に飢えたペルシャ至上主義者主導で、革命防衛隊が権力を掌握する可能性がある。つまり体制変革を成功裏に実行するには、このテロ組織のインフラを根本から枝葉まで一挙に取り除く必要があるのだ。

ポンペオ氏やボルトン氏の好戦的態度に他の大国が困惑しているのなら、そうした大国は、地域の不和と世界的なテロリズムをもたらさないようなイランを実現するための代替的なビジョンを明確に示さなければならない。ヨーロッパ各国は、制裁逃れに終わると分かりきっている施策を放棄し、イラン政府に方向転換を迫る圧力をかけるべきである。1930年代のヨーロッパの指導者たちがヒトラーによる中央ヨーロッパの侵攻に毅然とした姿勢を示さずに大目に見たことが戦争につながったのと同じように、今日同じヨーロッパの国々は、イランが領土拡張主義的な動きを見せていても許容範囲内であり、ひょっとするとアヤトラたちは4つのアラブ諸国を侵攻すれば満足するのではないかと考えている。これは間違った考え方だ。

中国政府とロシア政府は、イランをうまく利用して欧米に威嚇しているが、中国とロシアこそ、イランが中央アジアやレバント地域に拡大することで真っ先に不便を被ることになる大国である。イラク、レバノン、アフガニスタン、シリア、イエメン、およびバーレーンを不安定化させようとするイランの動きは止めなければならない。イラン政府は、周囲への干渉をやめるか存在することをやめるか、どちらかを選ばなければならない、とのメッセージを、毅然とした態度で突きつける必要がある。

イラン政府のようなならず者政権は、軍事力の言葉しか理解できない。オバマ前大統領は軍事力を選択肢から外したが、アヤトラたちはそれを人を殺めても逃げ果せる機会と捉えたのだ。2015年の核合意と時を同じくして、イラン支援の武装勢力による活動が前述の国々で大幅に活発化した。同時に、麻薬取引、マネーロンダリング、及び暗殺の試みが、挑発するかのようにアメリカ本土でもなされた。軍事力に頼りたい国はないが、抑止力がなければ本当に抑止できなくなるのだ。

今日となっては、トランプ大統領がTwitterでひたすらベネズエラ、イラン、キューバ、及びNATOに対して批判を繰り広げていることを、私たちは気に留めることすらなくなっている。その代わりに、超えてはいけない一線がどこにあるのか、そして外国で悪意のある活動を行うとどのような結果が待ち受けているのか、国際社会が責任を持って声を一つにして警告している状況に、イラン政府は耳を傾けなければならない。目標は、イラン政府とアメリカ政府が互いにエスカレートさせ合う危険な挑発を繰り返して戦争に向かっていくのを避けることである。

サウジアラビアの知識人で外交官のガジ・アル=ゴサイビ氏は2010年、イランはアラブ諸国で武装勢力に武器供与を行い大砲を浴びる役を押し付けて自国を守ることで直接的な軍事的脅威を回避してきた「臆病者国家」であると、死去する直前に筆者に語った。しかし、イランが好戦的なレトリックや行動を続ければ、最終的にイランは戦争を余儀なくされる。理性のあるイラン国民はこれに気付いており、自国の指導者の無謀さの代償として、イラクが味わったのと同じ壊滅的状況に苦しむことになるのではないかと恐れている。私たちは、イラン国民が戦争に巻き込まれることを望んではいない。しかし、国際社会の一員としての責務を果たし、イラン国民が成功裏に民主化を実行できるよう支援するにあたっては、毅然とした態度で臨むべきである。

今では職を離れてしまっているが、トランプ政権を内部から制止する役目を果たしていた人物たちを、かつて「大統領執務室の大人役」と呼んだものだ。今日の世界が必要としているのは、イランを制止し変革をもたらすための現実的な政策をはっきりと示せるような、外交分野の大人役である。それが、トランプ政権の強硬派たちがテヘランに火の雨を降らせるという歪んだ欲望を実行に移してしまうのを防ぐ唯一の方法なのである。

イランと中東に嵐が訪れるのを回避したいのであれば、嵐の到来を受動的に待つことはよさなければならない。イランには変革が到来するだろう。それが良い変革になるのか悪い変革になるのかは、責任ある世界の国々が影響力を行使して積極的に決めることなのだ。

バリア・アラムディンは、受賞歴のあるジャーナリスト兼ニュースキャスターとして、中東及びイギリスで活動中。Media Services Syndicateの編集者であり、これまで多くの首脳をインタビュー。

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