Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

「文明国」の戦争に対する反応に見る、人種差別と偽善

Short Url:
05 Mar 2022 10:03:14 GMT9
05 Mar 2022 10:03:14 GMT9

日を追うごとにウクライナ人たちへの国際的な支援は高まっている。世界各地のランドマークはウクライナ国旗の黄色と青にライトアップされ、数の上で劣っていながらも抵抗を続けるウクライナ人たちの勇敢さを、当然のことながら多くの人々が称賛している。

こうした動きは、武力による侵略や占領に対する反応としては心温まるものだが、そんな国際的な連帯のごくわずか一部を向けてもらうことすら夢物語でしかないような抑圧された人々(特に中東)が、世界には数多く存在する。

今回のロシアによる侵略への国際的な反応と、世界全体の秩序の基礎を形作る根拠となっているのが、「戦争行為による領土の奪取は認めない」という重要な国際法理だ。単純に言えば、他国の土地を占領してはいけないということである。

だからこそ、1990年にイラクがクウェートに侵攻した際に、多国籍軍が編成されたのである。そしてこちらも全く正しいことだが、他国を脅かすこともなく平和を保っていた隣国に対し、明らかに違法な正当性を欠く戦争を仕掛けたロシアに強い反発が向けられているのである。

パレスチナ人たちは、ロシアがウクライナに仕掛けた戦争への西側の反応から、偽善、二重基準、さらには人種差別の匂いをはっきりと嗅ぎ取っている。

突如として、国際法は守られるべきものとなったのである。ウクライナの土地を奪うことが認められないのは明白で、重大な結果を招くことになる。だが54年間に渡ってパレスチナとシリアの土地を占領してきたイスラエルには、何も重大なことは起こっていない。さらにひどいことに、この占領の責任はパレスチナ側にあるとされることが圧倒的に多く、見事なまでの被害者叩きである。先週、英国議会では、大胆にもパレスチナの占領とウクライナの占領を比較すべきではないと述べた政治家がいた。まるで、他国の占領には容認できるものとそうでないものがあるとでも言うかのように。

突如として、違法な侵略や占領を行った国には制裁が行われることになった。ウクライナ政府は、ロシア軍に抵抗するために市民に武器を持たせている。もしパレスチナ政府がイスラエル軍に抵抗するために同じことをすれば、国際社会やイスラエルは「テロリズム」だと叫ぶだろう。あるテレビニュースの特派員は、武器を取って侵略者と戦う決断をしたウクライナ人の女性に対し、「理解できる」とまで述べている。イスラエルの占領軍と戦うために武装したパレスチナの市民に対して、そのような言葉が掛けられる場面が想像できるだろうか。2003年に侵略を受けたイラクの人々に対して、そのような共感を示す西側のジャーナリストはいなかったと私は記憶している。

シリアの人々も、ロシアの戦闘機が同国の民間施設を爆撃し、病院を標的にした際になぜ今回のような怒りの声が上がらなかったのかと疑問を抱いているのではないだろうか。事実、シリアは今ロシアがウクライナに対して使用している兵器システムの実験場だったのである。ロシアの爆撃がシリアの人々を脅かす中で、ワールドカップ、パラリンピック、ユーロビジョン・ソング・コンテストからロシアを排除せよという声はどこからも聞こえてこなかった。

パレスチナ人たちは、ロシアがウクライナに仕掛けた戦争への西側の反応から、偽善、二重基準、さらには人種差別の匂いをはっきりと嗅ぎ取っている

クリス・ドイル

難民たちへの態度にも本音が表れている。ブルガリアの首相は、「彼らは我々がこれまでよく目にしてきた難民たちとは違います。過去の経歴が曖昧だとか、場合によってはテロリストかもしれないというような人々は違います。彼らは知的で、しっかりと教育を受けてきた人々です」

英国貴族員議員で、与党保守党の中心人物であるダニエル・ハンナン氏は、次のように書いている。「彼らは我々に非常によく似ています。そのことがあまりにも衝撃的です。もはや戦争は貧しい国やどこか遠くの国の話ではありません。誰の身にも起きうることなのです」

米国のニュースチャンネルで記者を務めるチャーリー・ダガータ氏は、「ここは何十年にも渡って紛争が続いてきたイラクやアフガニスタンのような場所ではありません。より文明が進んでいて、欧州的な街です」と述べている。少なくとも彼は、後に謝罪するだけの良識は持ち合わせていた。

別の記者は次のように断言した。「考えられないことが彼らに起きました。ここは発展途上の第三世界ではなく、欧州の国なのです」。ウクライナの元次席検事であるダヴィト・サクヴァレリゼ氏はニュースチャンネルに対し、「碧眼、金髪の欧州人たちが殺されている」光景に強く心を揺さぶられたと語っている。ある米国のコメンテーターは、「私のこれまでの人生において、文明国同士の大規模な戦争は今回が初めてです」と甲高い声で語った。

こうしたことの根底にあるのは、戦争が欧州で起きうるということ、ある国が別の国を侵略するということに対する強い驚きだ。多くの人々がこれは第二次世界大戦以来の事態だと語り、バルカン半島で起きたことを都合よく忘れている。それでもやはり、戦争は「非文明的な」場所で起こるものであり、欧州や北米で快適な暮らしを送っている人々は、そうした事態やその中での自分たちの役割に関する現実をあまり気にする必要がないというのが圧倒的な印象である。

ロシアの行動に対する反応、ロシア政府に責任を負わせ、ウクライナの侵攻を止めさせたいという思いは称賛に値する。だがそれは、もっと迅速に、決定的かつ、一体感を持って実現できていたことかもしれない。つまり、2014年にロシアがクリミアを併合した際に、今回のような強い反応を示すべきだったのである。

だがそうした高貴な感情や、突如として芽生えた国際法や責任を大切にする意識が、別の場所にも向けられていたならどんなに良かっただろうか。裕福で特権的な世界の国々は、他の地域で起きているあらゆる戦争に、そして自分たちが生み出している恐怖に目を向けてもいいのではないだろうか。

これは対処すべき人種差別だ。欧米は大きな問題を抱えており、そのことが危機によって再び強調されることになった。そしてそれは、この戦争が終わった後も世界の国々との関係に影響を与えることになるだろう。

  • クリス・ドイル氏はロンドンを拠点とするCouncil for Arab-British Understandingの理事長を務めている。ツイッター:@Doylech
特に人気
オススメ

return to top