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NATO、欧州、ロシアのはざまに立つトルコ

ロシアの中長距離地対空ミサイルシステムS-400。モスクワ・赤の広場での戦勝記念日パレードで。(ロイター)
ロシアの中長距離地対空ミサイルシステムS-400。モスクワ・赤の広場での戦勝記念日パレードで。(ロイター)
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18 Dec 2019 08:12:10 GMT9
18 Dec 2019 08:12:10 GMT9

今週初め、トルコのメブリュト・チャブシオール外相は会議の席上で、トルコは結果のいかんを問わずロシア製S-400防空システムの購入を中止するつもりはないと発言した。アメリカは、トルコ政府の翻意がない場合には制裁を加えると威嚇している。

経済的な観点からは、トルコはすでにロシア製武器の購入を決めたことで多大な代償を支払っている。トルコはNATO加盟国としてF-35計画に取り込まれていた。この結果、NATOの戦闘機を購入できるだけでなく、F-35製造計画国にも入っていた。トルコは今後、戦闘機の900以上の部品製造とそれにともなう将来の技術移転はお預けということになる。

15日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は怪気炎をあげた。米国の制裁の可能性、1915年のアルメニア人大量殺害を「大虐殺」とする上院決議に応じる形で、同国南部のインジルリク米空軍基地の閉鎖の可能性を突き付けたのだ。

米国とトルコはすでに緊迫した関係にあるが、両国ともにこれをさらに悪化させた。インジルリクは中東最大の米軍基地のひとつだ。核弾頭が収納され、米空軍がISIS掃討のためシリアへ向かった出撃の多くで拠点となった基地だ。

トルコは東西の岐路に位置するため、おのずと地政学的な摩擦にさらされることになる。そのうえトルコは、隣国ギリシャと歴史的にいがみあい1974年にはキプロスに侵攻もしているが、1952年以来NATOの重要な加盟国でありつづけている。NATOでは最東端を占めるため中東での緊張や軍事紛争に対峙する砦役となっているのがトルコだ。

S-400購入は一方でNATOにとっては大きなジレンマだ。F-35の目玉のひとつはステルス能力だ。NATOの最新軍備をロシアの防衛システムの至近距離に置くなどということは、要らざる火種に等しい。

他方でトルコは12月初めにロンドンで開かれた第70回NATO首脳会議の共同声明に署名している。ここではロシアはNATOの主要な脅威としている。NATOはシリア国内のクルド人によるクルド人民防衛隊(YPG)を、エルドアン大統領の提案を拒否してテロ集団とは呼ばないことを決議したにもかかわらず、同氏は署名したのだ。

YPGはNATO軍と共同でISISとの戦いに参加している。一方トルコ政府はYPGについて、トルコ国内の非合法政党クルド労働者党(PKK)とつながっているとしている。共同声明では、妥協案としてあらゆるテロの形態への非難を盛り込んだ。

トルコはNATOにとって重要なだけではない。欧州にとっても重大な意味をもつ。一例としてトルコは石油と天然ガスの貿易相手国であるとともに通過国でもある。これは、アゼルバイジャンからの「バクー-トビリシ-ジェイハン」パイプライン、ロシアからのTurkStreamパイプライン、先に供用開始となったアゼルバイジャンからのトランスアナトリア・パイプラインといったものだ。トランスアナトリアはTurkStreamの半分の供給能力をもち、バルカン諸国がウクライナ経由のロシアのパイプラインに頼りきるも全幅の信頼を置けない状況のなかで新たな選択肢となっている。

また、EUは、難民危機の高まりを受け、60億ユーロ(66億7,000万ドル)の給付を見返りとして、トルコに対し、同国が国境を閉鎖して東バルカン難民ルートを経由して欧州へシリア人難民が流入することを阻止する取り決めを結んでいる。

トルコ政府は列強との和睦を模索している。生か死かの問題であるにせよ、領土の保全であるにせよ。

コーネリア・マイヤー

とはいえトルコは約束の資金を全額は受け取っていない。これは、ジャーナリストの扱いや人権状況の問題で欧州がトルコに対し批判的であるためだ。トルコは現在でも360万人のシリア人難民を迎え入れているが、低迷する経済にとっては大きな負担となっている。

トルコ政府は、10年以上前のEUへの加盟交渉の行き詰まりに際し、EU加盟国側からの拒絶感が身に染みている。両者とも今は、EUがトルコを受け入れるなどということは長期的に現実的な問題になりそうにないと考えているもようだ。しかし、なお欧州はトルコを必要としているし、トルコもまた欧州を必要としている。

トルコがNATO加盟国であることは、トルコが世界で占める位置や威信に有利に働いている。東側で軍事的な不安が起きる懸念、ロシアに対峙する最終防衛線といったことを鑑みればトルコは重要な同盟国と考えられるからだ。NATO側から見れば、S-400購入をトルコが決めたことは、対露防衛の点で疑念を招く。

しかしトルコ側から見ればまた違ったふうに映る。ロシアはシリア紛争において重要なプレーヤーとなっている。トルコとロシアはアサド政権に対しては正反対の立ち位置ではあるものの、南部で勃興する強力な外国勢力と折り合いを付けることはトルコにとっては利益となる。というのも、YPGとNATOのいくつかの国に結託されることをトルコは長年苦々しく思ってきたからだ。トルコとしてはクルド人の民族主義は国土の保全を脅かすものだ。

トルコのアフメト・ダウトオール前首相はシリア紛争勃発の前に語っている。トルコは周辺諸国すべてと良好な関係を保ちたい、一触即発の中東であるだけに生き残り戦術としては優れているものだから。が、シリア情勢の進展にともないそうした考え方は終わった。アラブの春以降、むしろより一触即発となっているからだ。

同盟関係は絶えず変化し、トルコは列強との和睦を模索している。生か死かの問題であるにせよ、領土の保全であるにせよ。エルドアン氏は声高な論調だが、西側の指導者にとって必ずしも好ましい論調なのでもない。

とはいえ公正は期しておく。2015年11月、ロシアの戦闘機がトルコ空域を侵犯して撃墜された際、立ちはだかるヴラジーミル・プーチン大統領に対してもエルドアン氏は一歩も退かなかった。このふるまいは深刻な経済的影響としてはねかえった。ロシア人観光客が結果的に引き上げたからだ。2018年、ロシア人はトルコ国内の最大の観光客となっている。

東西の岐路で生きて行くにはそれなりの代償というものがある。ロシアは北へ退かせねばならないし、紛争は南方へ追いやる必要がある。同盟関係が絶えず変わるような地域では、サバイバルスキルが肝要だ。トルコ政府がなぜS-400購入を決断したのかを理解するにあたって、このことは大きなヒントとなるかもしれない。また同時に、トルコはNATO加盟国として持続可能なのかという問題についても疑問は投げかける。これは、安易に答えが見つかるような簡単な問題なのではない。

  • コーネリア・マイヤー氏は、経営コンサルタント、マクロエコノミスト、エネルギー問題専門家。Twitter: @MeyerResources
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