
オサマ・アル・シャリフ
冷静に考え、賢い決定をする時がきた。ロシアによるウクライナ侵攻は、地球上のほぼすべての国の安全を脅かしている。この危機が長引くほど、よりその危険度は増す。実際のところ、最終的には戦術核兵器やその他大量破壊兵器の使用を伴う可能性があるほど危険である。冷静な考えを求める呼びかけは、ロシアの指導者であるウラジーミル・プーチンと西側陣営の指導者であるジョー・バイデンの双方に対するものだ。21世紀の世界規模の争いは、20世紀における冷戦世界の深く二極化したイデオロギーの原則に基づいて戦ってはならない。中央ヨーロッパにかかる新たな鉄のカーテンは、パンデミックや気候変動の影響と戦っている世界の他の地域にとっても、暗い先行きを示すであろう。
バイデン大統領は今週ブリュッセルを訪れ、NATO、欧州理事会、G7会議に参加する。これらはすべて、ロシアに対する経済制裁を強化するとともに、ウクライナへの軍事支援を増強することを目的としている。ヨーロッパの指導者たちは、米国と英国にけしかけられ、ウクライナに対するプーチンの戦争の代償を耐え難いものにしようとしている。しかし、この戦争には多面的な見方があり、それは世界のほぼすべての国にとって課題となっている。
国際的な人道団体は、ウクライナ危機によって1,000万人以上の避難民がEUに流入する可能性があると警告している。これは、前回の世界大戦以来見られなかった数字である。この避難民の流入は、受け入れる側の社会に長期的な経済的および社会的悪影響を及ぼす。
さらに、世界的な食料安全保障の問題がある。現在この問題は、特に中東と北アフリカをはじめとする多くの国の指導者たちを悩ませている。この戦争が続く限り、食料サプライチェーンが遮断されることは間違いない。すでにこの危機は、レバノン、イラク、アルジェリア、チュニジア、スーダンなどの国々に難題を突き付けている。食料供給の重大な断絶による社会経済的反響は、多くの国の安定に対する新たな一連の課題を提示するであろう。
これに加えて、現在、世界のエネルギー供給と価格に変動が起きている。現在または近い将来にさえ、ロシアの石油とガスの供給を断ち切るわけにはいかないほとんどのヨーロッパ諸国にとって、これは存続に関わる脅威である。ロシア財政にとって1日5億ドルの価値があると推定される、ヨーロッパに対するロシアのエネルギー供給を遮断することは、両刃の剣となるであろう。ヨーロッパはすぐにその代わりとなるものを見つけることはない。そして、現時点では可能性は低いものの、プーチンを追い詰めることで、彼の一方的な行動を助長し、エネルギーの供給が遮断されることになるかもしれない。
ロシア軍はこれまでのところ、最も差し迫った戦略目標を達成することができておらず、ほぼ民間施設を標的に甚大な被害をもたらしただけである。モスクワは現在、主に民間地域に対する燃料気化爆弾および極超音速ミサイルの使用で非難されている。より多くの民間人が命を落とすほど、ロシアは戦犯容疑がかけられ、経済的賠償の責任が問われる可能性が高くなる。
これが、ヨーロッパがロシアを政治的に孤立させてはならない理由である。先週、フランス、ドイツ、サウジ、UAE、トルコ、中国、イスラエルの指導者たちはクレムリンとのコミュニケーションを維持してきた。ロシアは、ヨーロッパの指導者が好むと好まざるとにかかわらず、地理的にヨーロッパの隣国である。
ヨーロッパの人々は、ロシアによる現在の難局からの名誉ある撤退を可能にする、政治的解決策に合意できるという希望を決して捨てるべきではない。
ヨーロッパの人々は、ロシアによる名誉ある撤退を可能にする、政治的解決策に合意できるという希望を決して捨てるべきではない。
オサマ・アル・シャリフ
さらに、この戦争が終結したら、ある段階でロシアの安全保障上の懸念に対処しなければならない。ウクライナの中立は、取り組まなければならない問題である。何十年も前にさかのぼるイデオロギーの対立のために、ウクライナが破壊されてはならない。
サウジアラビア、エジプト、イスラエル、UAE、インド、中国などがプーチンと接触を保つことを選択したという事実は、悪いことと見なされるべきではない。ロシアは核保有国であり、エネルギーと穀物の主要な供給国である。この危機の結末が悪い方に傾けば、その影響は世界中のほとんどの国で感じられるであろう。
いま優先されるべきことは、米国と英国が掲げる当面の目標と、ロシアの隣国としてのヨーロッパにおける長期的な国家安全保障上の利益との間の線引きである。モスクワがウクライナを併合したり、屈辱的な降伏を強要したりすることを許してはならない一方で、他の国々が追い詰められたクレムリンの思考に示さなければならない別の道筋がある。
他方、ロシアは、ウクライナにおいて国家の存亡をかけた戦争を行うことは回避しなければならない。そうなると、超大国の終焉を招いたソビエトのアフガニスタン侵攻のイメージが蘇る。モスクワもまた、別の政治的道筋を受け入れなければならない。ヨーロッパがロシアの隣人であり経済的パートナーであるように、クレムリンはヨーロッパ社会が常にモスクワの隣人であることを受け入れなければならない。そうしないとなるとロシアは長くて代償の大きい消耗戦に直面する。これによって、新しい地政学的現実を強制するロシアの能力を超えていることが証明されるかもしれない。