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イラン、闇経済に支えられ核協議で優位に

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30 Mar 2022 01:03:22 GMT9

今月、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、イランが米国からの制裁措置で禁止されている年間数百億ドル相当の取引を行うための秘密の銀行・金融システムをすでに構築していると報じた。同紙はまた、数十の親イラン企業が中国、香港、シンガポール、トルコなど28カ国の銀行の61の口座を通じて行った金融取引に関連する文書を公開した。取引の総額は数億ドルにのぼるという。

今回の暴露は、何も新しいことではない。イランは、何十年にもわたって制裁の重圧を受ける中で、世界との金融・貿易関係を維持するために、制裁を回避する様々な手段を追求してきた。マフムード・アフマディネジャド大統領の2期目には、特に石油と金融部門に関連する制裁に対抗するための組織的な取り組みが行われた。

イランが金融、銀行、商業関連のネットワークを秘密裏に構築・管理する上で重要なノウハウをすでに獲得していることは間違いない。こうしたノウハウの持つ力は、米国のトランプ政権が圧力を最大限に強化した際に、明確に表れた。秘密のネットワークは、イランの「戦略的忍耐」として知られるようになった戦略の中で、制裁による打撃を確実に和らげることを可能にしたのだ。イラン政府関係者は、石油輸出に対するものを含む制裁を回避し、他国との貿易による収入を確保する手段について繰り返し語ってきた。米国に対抗してイランと重要な同盟関係を構築した中国など一部の国は、イランがそうしたネットワークを作り出すのを支援した。また、そのような秘密の活動を利用したいと考える起業家たちからの助力もあった。

トランプ政権のイラン政権に対する組織的な圧力と、イランの対抗手段を無力化するための懸命な努力の結果、米国はいくつかの金融・銀行ネットワークおよびイラン政府の制裁回避を支援しようとした企業を突き止めることに成功したのである。

トランプ前大統領の在任期間に、イラン政権は革命以来最も深刻な内部危機に見舞われ、通貨安やその他の経済的苦境により社会不安が増大した。トランプ政権時だけでも、イランは国中での絶え間ない派閥ベースの抗議活動の発生に加え、過去最大級の民衆による抗議デモに3度にわたり揺さぶられた。さらに、米国の制裁は、イランが海外の民兵組織に資源や武器を提供することを阻止し、その地域的影響力の拡大にブレーキをかける効果を上げた。

バイデン政権は、発足後直ちに前政権の政策、特にイラン核合意関連の政策に対する反感に突き動かされて行動を開始した。その対イラン政策の第一歩は、による圧力を最大限に強化するトランプ前政権の方針を問題視することであった。バイデン政権は、この方針が、イランをかつてないほど核兵器保有に近づけてしまったと主張した。この主張に基づき、米国は直ちに圧力を最大限にかける政策の急速かつ広範な撤回を開始したのである。

米国は、核合意復活への道筋をつけるために、イラン指導部をなだめ始めたのだ。米国はイラン政権に無償の贈り物をし、現在行われている制裁を解除し、見返りは何も期待しないとまで言い出したのである。バイデン政権のイラン寄りの政策の結果、イランの金融・銀行ネットワークは、対外貿易を妨げられることなく行うことで経済的利益を拡大しはじめた。制裁が続いている間にイランが得ることに成功する利益の一つひとつが、核合意への交渉に際して同国の立場をより強める意味を持つ。イランは、核協議と国内の問題を切り離す戦略さえとるようになっている。指導部が、米国の制裁に実効性がなくなったと感じているためだ。

イランが金融、銀行、商業関連のネットワークを秘密裏に構築・管理する上で重要なノウハウをすでに獲得していることは間違いない

モハメド・アル・スラミ

米国のこうした自己満足的な政策こそが、イランに政権が運営する過去最大の秘密のネットワークの構築を許し、国外との取引を容易にさせ、米国の制裁を全く効果のないものにしているのだ。このことは、ロシアなど米国の制裁に直面している他の国々にも、制裁はリスクもなく簡単に回避できることを示す確かな証拠となってしまっている。実際、イランは現在、米国と西側の制裁を回避するノウハウをロシアに提供している。ロシア、および中国などのイランの同盟国には明らかに、米国による制裁の影響を弱めたいという強い動機があるのだ。ロシア、中国、イランの3カ国が、修正主義的なアプローチを取ることで現在米国が支配している世界秩序を作り変えようとしている中、イランにおける制裁弱体化の成功は、同国国内では最高指導者の地位を強化し、強硬派の政策に、特に米国に対する敵意を煽る点において弾みをつける意味も持っている。

秘密のネットワークを通じて経済と対外貿易を強化することに成功したイランはすでに、核合意とは無関係に自らの経済問題を解決できるところまで、おそらくあと一歩のところまで来ている。したがって、現在同国はより有利な、より持続可能な核合意の実現に向けた条件を自ら設定しようとしているのだ。米国務省が、イランとの核合意への復帰はすぐに実現するものでも確実なものでもなく、核合意への相互復帰の実現、または合意条件の完全遵守への復帰なしというどちらのシナリオにも米国政府が備えていると発表したのも自然な成り行きであろう。

こうした状況が、バイデン大統領の立場を非常に難しいものにしていることは間違いないだろう。イランに対する圧力を最大限に強化する政策を、それがイランの金融・貿易ルートを枯渇させ、同国が武装勢力に提供する物資を遮断し、政権が支援する違法行為を減少させることに成功し、大きな抑止力となっているにもかかわらず、中断したのはバイデン大統領自身だからだ。

バイデン政権が前任者の遺産を無駄にし、イランとのより良い取引を実現するための圧力や制裁を用いることも、それらを足場として利用することもできなかったことに疑いの余地はない。ここでは、イランが日量150万バレル近い原油を今輸出していることを指摘するだけで十分だろう。トランプ前政権末期の最低値である日量30万バレルに比べると、その差は歴然である。

イランは、アメリカの核合意離脱後、核のブレイクアウトタイムを1年未満に短縮することを可能にした核知識の構築に加え、国内外の秘密ネットワークによる闇経済(parallel economy)を構築することに成功した。このことは、核協議であれその他の争点であれ、譲歩する考えをイランが真っ向から否定することを可能にしている。

さらに重要なのは、イランがこの秘密の金融インフラを、武器の密輸、民兵組織への資金提供、マネーロンダリングなどの違法行為の継続のための主軸として活用しようとしていることだ。こうしたことから、イランには金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)に加入したり、従ったりする必要性も動機もなく、自身の活動が国際的な監視・監督の対象となることを保証する必要もないのだ。

では、核合意が復活した場合にも、イランはその破壊的な目的と活動のために、秘密のネットワークの少なくとも一部を維持していくのだろうか?その答えは誰にもわからない。

  • モハメド・アル・スラミ博士は、国際イラン研究所(Rasanah)の所長を務めている。ツイッター:@mohalsulami
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