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イラクとレバノンで民意を阻むもの

2017年、エルビルの米国領事館前で行われた、イラクのクルド人が参加するデモの現場で、ハシュド・アル・シャアビを非難するプラカードの横に立つ警備隊員。(AFP/ファイル)
2017年、エルビルの米国領事館前で行われた、イラクのクルド人が参加するデモの現場で、ハシュド・アル・シャアビを非難するプラカードの横に立つ警備隊員。(AFP/ファイル)
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05 Apr 2022 02:04:18 GMT9
05 Apr 2022 02:04:18 GMT9

バリア・アラマディン

選挙は、国民と統治者の間の契約である。国民は自分の意見を述べ、自分たちが選んだ者に統治を委任する。しかし、いくつかの国では、この基本的な社会契約が修復不可能なほど破られている。

2021年10月の選挙で、イラク国民は、自分たちの代表に“なってほしくない”のは誰かということを、驚くほど明確に表明した。イランの支援を受けた「​ハシュド・アル・シャアビ」系の準軍事連合は、329議席中、すでに48議席だったのが、わずか17議席に激減してしまったのだ。

他の議会制度であれば、彼らは消滅寸前まで拒絶されたということを意味する。しかし、イラクでは、これらのハシュド派は――憲法上、準軍事組織であるため政治活動を禁止されているはずだが――代わりに政治システム全体を脅して圧力をかけ、権力の座を彼らに明け渡すまで、イラクを人質として拘束しているのである。

その結果、議会は選挙から丸6カ月が経過しても、3度目の大統領選出に失敗した。これは、既得権益者が多くの派閥と独立議員に圧力をかけ、議会をボイコットさせてすべてを行き詰まらせたことが主な理由である。ハシュドを支援するイランは裏で政治家を脅し、賄賂を贈り、脅迫している。イラクのソーシャルメディアユーザーは、政治プロセスを故意に妨害するために、病気を装って国会を欠席する卑怯な議員を嘲笑した。

おそらくイラクで最も嫌われている人物、ヌーリー・アル・マリキ前首相は、この行き詰まりを利用して、将来の「合意」政府には自分の派閥も加わるべきだと主張している。最大派閥のリーダー、ムクタダ・アル・サドル師は、マリキ氏がイランと宗派過激派の言いなりになってイラクに与えた数々の惨事から、彼を排除すべきだと主張しているのにもかかわらず、である。サドル師はマリキ氏とハシュド派の指導者たちにこう言った。「私はあなた方と合意形成するつもりはない。合意は、この国に終止符を打つことを意味する……あなた方が政治的行き詰まりと表現するものは、あなた方と合意してケーキを分けるよりましだ」と述べた。とはいえ、結果は無期限の行き詰まりになりそうだ。

ハッシュド派とヒズボラは、イスラエルによるパレスチナの土地の占領に対する「抵抗」を延々と自慢しているが、彼ら自身は、イラク、レバノン、シリア、イエメンにおける、悪質で破壊的なイランの占領を助長しているのである。イラクと同様、レバノンでも、ヒズボラとその同盟者がまさに自分たちの望むものを引き出すまで、政治機能は繰り返し停止させられている。

選挙まであと1カ月となったが、政府内でヒズボラは依然として最高に統率の取れた組織であり、最近の政治的混乱に乗じて勝者候補を自分たちの陣営に引き込んでいる、と言うのは辛いことだ。構造上、ヒズボラが獲得できる議席は少数に限られるため、内閣の議席の3分の1を確保する「ブロッキング・サード」や怪しげな裏取引を通じて、いかにして政治力を発揮して民意をくじくかが問われることになる。ヒズボラはまた、その莫大な資金をもとに、食料、金銭、福祉支援、さらにはイランからの安価な電力や燃料の提供という曖昧な約束で有権者を買収している。これらがもし実現すれば、レバノンは金よりもはるかに多くの犠牲を払うことになりそうだ。

サアド・ハリーリ氏の政界引退表明後、スンニ派地域では状況が非常に流動的であるが、キリスト教区全体でも、「ヒズブ・アル・シャイタン」との同盟を理由にミシェル・アウン大統領とゲブラン・バシル氏の自由愛国運動への支持が崩れ、他の派閥や人物に機会が巡ってきている。また、女性の候補者が大幅に増加したことも評価できる。

ハッシュド派とヒズボラは、イスラエルによるパレスチナの土地の占領に対する「抵抗」を延々と自慢しているが、彼ら自身は、イラク、レバノン、シリア、イエメンにおける、悪質で破壊的なイランの占領を助長しているのである。

バリア・アラマディン

アウン氏は有権者に対し、腐敗した官僚を一掃するまで大統領に留まると宣言し、笑いを誘っている。素晴らしい! しかし、彼の「腐敗した」政治家のリストは非常に長いはずだ。おそらく彼は親しい親戚や同盟者を最後まで取っておくのだろう。

私たちが知っているレバノンは、飢え、貧困、失業から逃れ、優秀な人材が大量に流出し、その足元が崩れつつある。変化を求める声が上がっており、選挙をそのための重要な手段として使わなければならない。

レバノンやイラクでは、イランの同盟国が何度も勝利を収めている。それは、腐敗した個人的利益のために、国や同胞を売り渡すことをいとわない国会議員が、臨界点を超えるほどいるからだ。そして、そのような裏切り者に、素朴に、あるいは不注意に投票する国民が多いからこそ、このようなことが可能になるのである。

現状では、これらの政治システムは完全に腐敗しており、根本的な行動を起こさない限り、救いようがない。市民は、自分たちが他の占領国の植民地であることに満足しているのか、それとも自由で独立した主権者でありたいと願っているのか、自問自答しなければならない。ジャーナリスト、アリ・ハマデ氏が最近主張したように、「主権なき改革はなく、改革なき主権もない」のだ。

2005年から2006年にかけてバグダッドに駐在した英国大使、ウィリアム・ペティ卿は先週、イラクは――特にマリキ氏が「イラク軍の内臓を取り除く」ことを許した後は――「民兵に対処しない限り、内戦に向かっている」と英国政府に警告したことを語った。彼は、イラクの準軍事派に関する私の新著『民兵国家(Militia State)』の出版記念イベントで講演し、こうした組織の存在は、いかなる種類の民主主義や代表制の存在にとっても不都合であると主張したのである。残念ながら、ウィリアム卿の忠告は聞き入れられず、これらの民兵は国家よりも強くなるまでその地位を強固にすることを許されてきた。

レバノンでは、名目上は対立する派閥が、シリアとイランの支配に立ち向かうために「3月14日同盟」として結集した。このように、政治的には大きく異なるかもしれない組織であっても、政治体制におけるイランの支配を絶対的に拒否することを目的に団結した、幅広い基盤を持つ新しい同盟が必要なのである。

拙著で論じたように、敵対する外国の利益のために行動する、歓迎されざる少数派が繰り返し政府を支配することが許されるなら、それは民主主義とはいえない。準軍事組織が暴力を使って政府をコントロールし、ライバルや活動家、ジャーナリストを暗殺する場合、これは民主主義ではない。また、不信任者がトップの座につくまで、統治システムが何カ月も人質に取られることもある。この茶番は、まったくもって民主主義とはかけ離れている。

イランを含むこれらの国々では、市民が自らの手で民主的権利を行使し、犯罪者を権力の中枢から一掃するために一斉に行動を起こさないかぎり、人々の願望は妨げられ続けるだろう。

・バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。新著『民兵国家:ハシュド・アル・シャアビの台頭とイラク国民国家の崩壊(Militia State – The Rise of Al-Hashd Al-Shaabi and the Eclipse of the Iraqi Nation State)』はノマド・パブリッシングから出版されている。

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