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ワシントン、テロ組織リストからIRGCの削除を検討

2019年5月31日、テヘランで、悪名高き故ガーセム・ソレイマニ司令官の写真を掲げてパレードするイランの革命防衛隊。(シャッターストック)
2019年5月31日、テヘランで、悪名高き故ガーセム・ソレイマニ司令官の写真を掲げてパレードするイランの革命防衛隊。(シャッターストック)
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20 Apr 2022 06:04:30 GMT9

イランとの核合意の復活に向けた協議は最近、1年の節目を迎えた。報道では、当事者間の合意が近づいていることが示唆されている。突破口が開かれる可能性のある、しかし同時に交渉が決裂する可能性もある、重要な時期を迎えている。この肝要な時期に、イランは、イスラム革命防衛隊(IRGC)を外国テロ組織(FTO)リストから削除することを米国政府に要求した。この要求は、ワシントンの外交政策コミュニティで議論を巻き起こした。

ドナルド・トランプ前米大統領は2019年にIRGCをFTOに指定したが、非国家アクター向けに設計されたリストに国家が運営する組織が追加されたのは初めてのことだった。現在、この指定は、トランプ氏が抹殺しようとした合意への復帰に向けた潜在的なてこの支点、そして同時に潜在的な障害になっている。

IRGCのFTOリストからの削除を巡るワシントンの議論は、包括的共同行動計画(JCPOA)を支持するか反対するかという立場の違いに応じておおむね分かれている。JCPOAの支持者は、イランの核開発計画に制約を加えるためには合意がきわめて重要であるとみなしており、多くの者が、FTOリストはイランが核武装する危険を顧みずに行うほどの価値はないと考えている。JCPOAの反対者は、合意の救済には、IRGCをFTOリストから削除するだけの価値はないと考えている。党派性も議論に影響するが、事情に通じた専門家の間では、党派的な分断線を越えてより微妙な論争がなされている。

主に民主党員と中道派であるが、JCPOAの支持者の多くは、バイデン氏は合意に達するためにIRGCをFTOリストから削除することを真剣に考慮すべきであると主張している。彼らの出発点は、JCPOAは価値のある合意であり、多少の妥協に値するというものである。主要なポイントの2つ目は、IRGCのFTO指定には限定的な価値しかないか、または実際的な価値がないというものである。彼らは、IRGCの悪質な行動は2019年以来増加しており、FTOに指定してもいっさい行動変容につながらないことが示唆されると指摘している。また、FTOは主として、または完全に、象徴的なものであるとみなしている。さらに、FTOリストは既に、信頼できるテロ組織リストという自らの役割を損なう政治的経歴を有している。

IRGCの指定解除に賛成する主張の重要な部分は、米国はIRGCに対して他にも多くの制裁を課しているという事実を中心に展開されている。米国の制裁法を理解するためには独特の専門知識が必要であり、FTO問題の両陣営の論客は、制裁を誤解したり、過度に単純化したりすることが多い。ただし、論争の両陣営の制裁専門家とも、IRGCはその他の多くの米国の制裁リストに掲載されており、同組織に大きな制約を課したり罰を与えたりする上でFTO指定はほとんど何の役割も果たさなかったと指摘している。

IRGCをFTOリストから削除することに反対の立場をとる外交政策の論客には、中道派、共和党員、前トランプ政権の高官などがおり、全員ではないがそのほとんどがJCPOAにも反対している。彼らの主張の一部は、バイデン政権にほとんど影響を与えないだろう。

IRGCをリストから削除した場合、主にイスラエルやアラビア湾岸諸国であるが、この地域のパートナーと米国の関係が損なわれる恐れがある。

ケリー・ボイド・アンダーソン

JCPOAの反対者は、イランとのいっさいの妥協に反対する傾向がある。反対派の一部は、IRGCをFTOリストから削除すると制裁圧力が弱まるという懸念を表明しているが、その証拠についてはほとんど持っていない。この論客グループは多くの文章を執筆して、IRGCがテロを行っている証拠の目録をこしらえてきたが、もう一方の陣営はこれに異論を唱えていない。

IRGCの指定解除に反対する者の一部は、バイデンチームに影響を与える可能性のある、より説得力のある主張を行っている。FTO指定はIRGCに重大な影響をほとんど及ぼしていないが、だからといって、その象徴的な価値が無意味なわけではない。IRGCのFTOリストからの削除がイランにとって重要なのであれば、なんらかの意義があるはずだ。リストから削除する前に、IRGCの行動が削除に値するかどうかを議論するのは合理的なことだ。IRGCをリストから削除した場合、主にイスラエルやアラビア湾岸諸国であるが、この地域のパートナーと米国の関係が損なわれる恐れがある。2021年にバイデン政権がフーシ派をリストから削除した後の状況においては特にそうである。さらに、イランは交渉の焦点を核問題に絞ることを主張しているが、FTO指定に関する要求は範囲が広がることを意味している。

バイデン氏は公式には立場を明確にしていないが、米国当局者の声明に手がかりがある。4月18日、国務省のネッド・プライス報道官は、イランが交渉範囲を核問題以外にも拡げたいのであれば、「JCPOAの範囲外」の米国の懸念にイランが対処することを米国政府は期待する、という示唆的な発言を行った。マーク・ミリー統合参謀本部議長は最近、IRGCのコドス部隊をリストから外すべきではないと発言している。アル・モニターによると、国務省の報道官は、大統領はコドス部隊がテロ組織であることに同意している、と発言した。アントニー・ブリンケン国務長官は4月6日、合意に至るかどうか「過度に楽観視していない」と発言した。バイデン氏はJCPOAの復活を望んでいるが、IRGCをFTOリストから削除した場合、共和党からイランとテロリストに屈したという非難を浴びるだろう。

幸いなことに、米国政府には選択肢がある。何人かの専門家が、イランの要求を交渉のてことして利用する方法を提案している。バイデンチームがIRGCをFTOリストから削除する一方で、その一部であるコドス部隊をFTOに指定する可能性があるという報道が見られるが、イランはこのアイデアを拒否したと伝えられている。別の報道では、イランが地域の緊張を緩和し、アメリカ人への攻撃を停止することを公式に約束するのと引き換えに、米国政府がIRGCの指定を解除しようとする可能性があると示唆されている。イランで人質になった経験を持つ、ワシントン・ポスト紙の記者ジェイソン・レザイアン氏も、人権侵害に携わったIRGC関係者に制裁を課し、またイランによる人質事件やテロの犠牲者に対して米国の裁判所が認めた賠償金の支払いをイランに要求するという施策を提案した。

FTOリストはIRGCに重大な影響をほとんど及ぼしていないが、象徴的な価値がある。米国政府は、イランから見返りを得ることなく、この点で譲歩すべきではない。バイデンチームはJCPOAの復活を望んでいるが、何を譲歩できるかについては限界がある。

 ケリー・ボイド・アンダーソン氏は、著述家であり、国際安全保障問題や中東の政治的・ビジネス的リスクのプロフェッショナル・アナリストとして18年以上の経験のある、政治リスクコンサルタントである。オックスフォード・アナリティカの元アドバイザリー担当副ディレクター。Twitter@KBAresearch

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