ウクライナ戦争と欧米の対ロシア制裁による世界的なエネルギー危機で、サウジアラビアが世界の脚光を浴びるようになった。それは、単に原油価格の上昇によってサウジアラビアが利益を得ているからだろうか。それとも近年、同国の指導者たちが「ビジョン2030」に粘り強く取り組んでいることと関係があるだろうか。
ブレント原油の価格は、わずか2年前の1バレル=20ドル台から1バレル=120ドル台に急騰している。サウジアラビアは世界最大の産油国であり、それゆえ石油ブームの恩恵に最も浴している。2022年の石油収入は2500億ドルに達すると言われている。また、国際通貨基金(IMF)は、サウジアラビアの国内総生産が今年8%近く成長すると予測している。
サウジアラビアは、その歴史的なスイング・プロデューサー(価格の安定を図るために調整役を担う産油国)としての役割から、エネルギー危機の際の世界の最後の駆け込み寺ともいえる存在である。世界のエネルギー市場を安定させるために、原油の生産量を減らしたり増やしたりすることで、何度も米国に恩を売ってきた。サウジアラビアはロシアとともにOPEC+を主導しているため、米国は原油相場の上昇で緊急支援を求めている。
先日開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、サウジアラビアは最も需要が高い国であった。ある欧米メディアが報じたように、それは「不安定な世界経済の中で、数少ない明るい話題」である。そのため、欧米の金融機関は「ビジョン2030」の巨大インフラや観光プロジェクトへの投資に熱心で、世界中の政府代表団が、現在6200億ドルと評価されているサウジアラビアの政府資産である公的投資基金(PIF)の公正な取り分を求めているのである。
混乱にあえぐヨーロッパと、経済的に活気のあるアジアからの石油需要の増加に伴い、サウジアラビアのペトロダラーの力は増すばかりだ。これは「ビジョン2030」の主要な推進力であるPIFがさらに拡大する可能性があることを意味している。そしてそれは、5000億ドル規模の未来型都市NEOMや、紅海の100億ドル規模の観光リゾートなど、野心的な開発プロジェクトの進行を加速させるだけである。
また、PIFは時間をかけて、北米、ヨーロッパ、アジアを中心とした様々な大陸の戦略的な部門に投資することで、国際的なポートフォリオの多様化を図ってきた。PIFは2025年までに資産規模を1兆1,000億ドルまで拡大したいと考えているが、これは石油の利益と投資収益が蓄積され続ければ可能である。この基金の信用力は、すでに格付け大手のムーディーズとフィッチによって認定されている。世界の資本は最も儲かる見込みのあるところに流れる。「ビジョン2030」の規模と範囲は、今後10年間サウジアラビアが最も魅力的な投資先であり続けることを物語っている。
経済を石油依存から脱却させると同時に、サウジアラビアの若者社会に力や権利を与えるこの素晴らしい戦略的計画は、2016年にムハンマド・ビン・サルマン皇太子によって発表された。その翌年には「未来投資イニシアティブ(FII)」が開始された。「砂漠のダボス会議」とも呼ばれるこの毎年の特徴的なイベントは、2021年の外国直接投資の純流入額を257%増加させることに貢献した。
欧米の金融機関による「ビジョン2030」プロジェクトへの投資ラッシュが予想されることや、中国が「一帯一路」構想の下で投資を拡大すること、多国籍企業が2023年末までに地域本部をリヤドに移転することが義務づけられたことなどから、2030年までに海外直接投資をGDP比5.7%にするという目標を達成する見込みも明るい。
また、サウジアラビア経済を2年近く停滞させた新型コロナウイルス感染症の大流行など、「ビジョン2030」の実施を制限する困難な状況下でも、その実績には目覚ましいものがあった。そのため、「国家改造プログラム2020」はさまざまな目標を達成することができなかった。例えば、非石油輸出がGDPに占める割合は2030年までに50%という計画に対して、2020年時点ではまだ18%という低さだった。良い知らせとしては、非石油輸出が昨年から29%以上伸びたということである。
実際に、労働人口に占める女性の割合を33パーセントにすることなど、2030年に設定された目標のいくつかは前倒しで達成されている。社会的領域における女性のエンパワーメントの進展は目覚ましいものである。若者の雇用も優先事項のひとつで、これは中小企業のGDPへの貢献度を現在の22%から2030年までに35%に引き上げることで、大きく達成されることになっている。GDPに占める民間企業の割合は65%が目標だが、すでに51%に達している。
2030年までに100万人の雇用と国内外からの1億人の観光客を創出するために、1兆5千億ドルを超える資金が観光部門に投入されている。サウジアラビアはすでに、観光とエンターテインメントを取りそろえた旅行先となっており、そのため、先月発表された世界経済フォーラムの旅行・観光開発指数で世界33位となり、2019年から10ランクアップした。
イエメンのフーシ派やイランのような過激派勢力がサウジアラビアにもたらす前例のない脅威など、「ビジョン2030」に向けた進展を妨害する意図的な試みを背景として、これらの事実と数字を考えてみよう。バイデン政権もまた、攻撃者を宥め、伝統的な同盟国を孤立させることで、この危険性を際立たせている。
「ビジョン2030」の規模と範囲は、今後10年間サウジアラビアが最も魅力的な投資先であり続けることを物語っている。
イシュティアック・アフマド
サウジアラビアの指導者は、7月と8月に石油を50%増産するようOPEC+を説得し、米国と欧州に対して親善を図った。ロシアの石油輸出が制裁により減少しているため、サウジアラビアはこの原油の大部分を汲み上げなければならない。
サウジアラビアの指導者は、相互の尊敬と尊厳に基づく、米国およびより広い範囲の西側諸国とのパートナーシップの歴史的価値を深く信頼している。それが進むべき道である。妥協できないことは、「ビジョン2030」、すなわちサウジアラビアが再び心に描いた未来への旅路である。どんな理由であれ、米国の指導者もその旅に加わるのであれば、それに越したことはない。もしそうでないとしても、一向に構わないことだ。