ムハンマド・ビン・サルマン皇太子殿下が今週行ったヨルダン訪問は、1933年までさかのぼるサウジ・ヨルダン両国の戦略的関係において、画期的な重要性を持つものだった。長い歴史を持つ関係の中で、隣り合う両国の指導者は政策や立場を調整し、それぞれの国の安全保障に影響を与えかねない波及効果もあったものの、協力して地域の安定を守ってきた。
皇太子がヨルダンを訪問するのは、2016年以来これが2回目である。前回の訪問時は、ヨルダンのアブドッラー国王は安全保障、経済発展、地政学的難題の分野での地域協力の拡大という自身のビジョンを、自国と地域に関する野心的な計画を抱く若き皇太子と確実に共有した。
サウジアラビアのサルマン国王主導のもと、両国の関係は発展し続けている。ヨルダンの人々は、2018年6月にサルマン国王が経済的苦境に陥ったヨルダンを援助するためにメッカでのサミット開催を呼びかけたことを決して忘れないだろう。このサミットには当時のクエートのシェイク・サバーハ・アル・アフマド・アル・ジャービル・アッ・サバーハ首長とUAE副大統領兼首相でありドバイ首長のシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下も参加し、25億ドル規模のヨルダンへの援助計画が取りまとめられた。
その前年、2017年3月には、サルマン国王が死海でのアラブ首脳会談の前日にヨルダンを公式訪問している。この訪問の結果、サウジアラビアのヨルダン向け投資を拡大するという新たな決意が示された。サウジアラビアからの投資により、ヨルダンでは雇用の創出、インフラの整備、多くの有望な新興企業のサポートが実現している。
今週の皇太子の訪問は、中東歴訪の一環だったが、タイミングとしては地域全体が多くの問題を抱えている中で行われ、アブドッラー国王との対話は地域の安全保障からイエメン危機、シリア問題、イラン核合意、ウクライナ戦争を踏まえた食糧問題、パレスチナ問題など多岐にわたった。ヨルダン政府高官によると、両国はこれらの問題に加えて、それ以外の点でも合意した。
サウジアラビアは地域の主要国としての地位を強化しつつあり、その中東の安定と繁栄に果たす役割は傑出している
オサマ・アル・シャリフ
サウジアラビアは昨年の内紛騒ぎを受けて、アブドッラー国王とともに立つ姿勢を明確にし、東エルサレムのアル・アクサー・モスクの管理権がヨルダン国王に属することも再三支持している。
今回の訪問はまた、2017年に設立された資本30億ドルのサウジアラビア・ヨルダン・インベストメント・ファンドにも弾みをつけることになった。このファンドはここ数か月で、ヨルダンの中小企業、戦略企業、ベンチャー企業への投資に合意している。3月には、メッカ商工業評議会とアンマンの同様の組織が、二都市の間の経済的関係の強化を眼目とした、10億ドル以上の規模の合意を結んだ。
ヨルダン側の資料によれば、サウジアラビアは同国にとって最大の投資元の一つであり、運輸、インフラ、エネルギー、金融、不動産など、様々な分野で総額100億ドル以上にのぼる投資を行ってきた。さらに、サウジアラビアはヨルダンの最大の貿易相手国でもあり、両国間の産業内貿易額は2020年には41億ドルに達した。それに加えて、サウジアラビアにはおよそ25万人のヨルダン人が居住しており、その送金額はヨルダンのGDPの約6%を占めている。
今回の皇太子の訪問に先立つこと2週間、ヨルダンでは野心的な経済近代化ビジョンが旗揚げされた。これは10年にわたる、その大半が民間企業や海外投資家からと見込まれる570億ドル以上の規模の経済発展のロードマップである。疑いなく、ヨルダンのビジネスマンや政府高官は皇太子の発案による2016年のサウジビジョン2030についてさらに知ろうと興味津々であろう。サウジビジョン2030は、サウジアラビアの収入の多角化と世界に向けた門戸の開放の計画において、絶大な成果を収めてきた。
経済的な側面以外にも、両国の会談では来月サウジアラビアで開催される歴史的な会合も話題となった。この会合ではアラビア湾岸協力理事会(GCC)加盟国のリーダー、ヨルダン、エジプト、イラクの代表とともに、アメリカのジョー・バイデン大統領も参加する。アメリカがこの地域で果たす役割、イランが地域にもたらす課題、アラブ諸国間の安全保障ネットワークについての議論だけでなく、アブドッラー国王とサルマン皇太子は再生可能エネルギー、電力取引、食糧安保、ハイテク産業への投資といった分野の、とりわけヨルダン、エジプト、イラク、サウジアラビア間で拡大する地域協力についても話し合った。
アブドッラー国王は、パレスチナ問題の解決を地域的および国際的な優先課題としたいというヨルダンの従来の立場を繰り返した。アブドッラー国王は、数十年にわたるイスラエルによるパレスチナの土地の占領状態に関して、国際的合法性とアラブ和平イニシアチブにもとづいた正当な解決がなされない限り、中東が平和と安定を見ることは決してないだろうと公式に述べている。
サウジアラビアは地域の主要国としての地位を強化しつつあり、その中東の安定と繁栄に果たす役割は傑出している。サウジアラビア政府は、ヨルダンの安定が自国にとっても重要であると理解している。長い国境を共有する両国は、過激派や、明らかな脅威となりつつある国境を越えたドラッグの密輸の問題に関して、協力関係を強めている。