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レバノンはヒズボラから主権を取り戻すべきだ

レバノンのイスラエルとの国境に立てられたヒズボラ支持派のプラカードと旗。2022年7月2日。(AFP)
レバノンのイスラエルとの国境に立てられたヒズボラ支持派のプラカードと旗。2022年7月2日。(AFP)
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07 Jul 2022 10:07:25 GMT9
07 Jul 2022 10:07:25 GMT9

イスラエル軍は土曜日、イスラエルが最近ガス施設がを設置した地中海のエリアに向けてヒズボラが発射した3機の無人航空機を撃墜したと発表した。このガス施設は、レバノンとイスラエル間の法的対立の中心となっている地域にある。この対立は、海の境界線の画定、ひいては海洋ガス資源に対するそれぞれの国の取り分をめぐる争いだ。

レバノンのナジーブ・ミカティ首相と同国の外相は、ヒズボラの行動は逆効果だと慎重に批判したが、非難するところまではいかなかった。レバノン領内から発せられたこの軍事行動について、ほとんどの政治勢力は沈黙を守り、そしておそらく、そもそも知らされてもいなかった。

これもイランの代理人ヒズボラが国境を越えて軍事偵察に乗り出し、国土全体を危険にさらした典型的な例である。また、実際はヒズボラが主導権を握っているのに、なぜイスラエルはレバノンと交渉を続けなければならないのかという疑問も浮かび上がる。

この軍事作戦はレバノン政府高官による順調な進展を宣言していたにもかかわらず実施された。どうしてこうなるのか。このように国家主権が打ち砕かれることを、どうして受け入れ続けられるだろうか。

私はヒズボラによるこの行動を非難する。何よりも、レバノンの主権の背中にもう一本ナイフを突き刺す行動だから非難するのだ。先週同団体の指導者ハッサン・ナスラッラーが主張した「当面の目的は、敵がカリシュ・ガス田から石油とガスを採掘するのを阻止することだ」というのはヒズボラが我々に信じさせたい嘘である。実際には、すべてはイランの地域活動と連動しており、圧力をかけることで米国と地域勢力にメッセージを送っているのである。 2週間前のイスラム革命防衛隊のスピードボートによる米海軍艦船への嫌がらせもそのひとつだ。彼らのメッセージは、いつもと同じで、自分たちは地域に混乱をもたらす能力があると知らしめることである。

ヒズボラは、2006年と同様、政治家が見て見ぬふりをしている間にレバノン国家全体を危険にさらしている。レバノンがイスラエルとの国境交渉を望まないのであれば、それを決めて前進するのはレバノン国家であり、ヒズボラではない。再び、イランとヒズボラはこの口実を利用して自分たちの計画を進め、おまけに皆を恥ずかしさで沈黙させてしまった。 最悪なのは、主権を守るために戦うと主張する声が、この行動をあえて非難しなかったことだ。なぜか?親イスラエルで敵の味方だと非難されてしまうからだ。これはすべて嘘であり、誤った非難である。

ヒズボラは、イスラエルがガス採掘活動を止めないことも、交渉をかく乱することも知っている。ヒズボラはまた、ヤイール・ラピード新首相のパリ訪問で明らかになったように、イスラエルがそうした行動をレバノンに対して利用できるようになることも知っている。要するに、それはイスラエルとの間接交渉におけるレバノン側の提案内容を妨害するものである。

レバノンの政治システム全体が完全な崩壊に向かっている。

カレド・アブー・ザール

ヒズボラによるこうした活動は、イランが包括的共同行動計画(JCPOA)核合意に関する交渉チームと対峙するイランの意図に沿ったものだ。米当局が合意の可能性が低下したと述べたドーハ会談の直後にこのようなことが起きたのは驚くにはあたらない。意外なことではないが、これに反して、イランは今回の協議がうまくいったと考えている。これはすべて、イラン政権が用いるいつもの戦術の一環である。

レバノンの政治システム全体が完全な崩壊に向かっているため、ヒズボラがこのような行動を平然と取ることが極めて容易になっている。レバノンはまた、経済的にも社会的にも完全に混迷状態にある。レバノンは新政府の樹立をめぐる協議の最中であり、またしても暫定首相が置かれている。レバノンでは、実際の首相よりも臨時首相がいる期間の方が長いような気がする。これはヒズボラによる、すべての公的機関を侮辱し国家全体を崩壊させるゲームでもある。

レバノンでは、10月に大統領の任期が終了しても、おそらくまだ暫定首相が残っているだろう。そして、どうなるのだろうか。ミシェル・アウン氏が新たな任期につく一方で、暫定首相はまだ合意に基づく政府を作ろうと走り回っているのだろうか?それとも政治勢力がこれを阻止するのだろうか。ヒズボラに反対するグループが十分な議席を持ちながら、政府を設置することに合意できないという事実が、その続きを物語っている。そうして、あらゆる憶測に関係なく、彼らが主導権を握らない以上、何も変わらないだろう。彼らは皆、お世話役の政治勢力となり、ヒズボラが政治、社会、軍事政策のすべてを取り仕切っているのだ。どうしてこんなことが続けられるだろうか。

ヒズボラの覇権と絶え間ない屈辱に立ち向かう政治的意志と能力がないのである。その能力のある者は排除されるか、あるいは沈黙させられている。国全体を危険にさらすこうした軍事行動が行われる中、政治家はどうして黙っていられるのだろうか。新しい国会議員の声はどこで聞けるのだろうか。このことは、違いを脇に置き、強力な野党政府を形成する十分な理由にならないだろうか。それとも、過去の政治家の歩みを踏襲するのだろうか。ヒズボラがシリア人を殺すために軍隊を送ったとき、彼らは黙っていた。イラクの民兵を訓練して戦闘に参加するために軍隊を送ったときも、彼らは黙っていた。

ヒズボラの行動の責任を追及し、国の主権を回復させるべき時が来ている。それは、戦争と平和の決定に関するレバノン国家の権力を回復させることから始まる。

 カレド・アブー・ザール氏は、 メディア・テクノロジー企業であるユーラビア社のCEO。アル=ワタン・アル=アラビの編集者でもある。

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