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イランは欧州エネルギー危機の打開策とはならない

2022年8月1日に撮影された、ドイツにある原子力発電所の冷却塔の上に見える雲。(ロイター)
2022年8月1日に撮影された、ドイツにある原子力発電所の冷却塔の上に見える雲。(ロイター)
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03 Sep 2022 08:09:30 GMT9
03 Sep 2022 08:09:30 GMT9

冬を数ヵ月後に控えた欧州では今、政策立案者たちが迫り来るエネルギー危機の影響を軽減するために奔走している。今年2月のロシアによるウクライナ侵攻以前から、欧州はエネルギー価格の高騰に直面していた。そのエネルギー価格が、さらに高騰しているのだ。

ドイツとフランスでは先週、メガワットあたりの電力コストが昨年同時期に比べて10倍となった。世界の状況をみると、原油価格はここ数年で最も高い水準にある。欧州の天然ガス価格も前年比で上昇している。

ヨーロッパのロシア産エネルギーへの依存度を下げる計画は、いくつかある。EUは今年末にロシア産石油の禁輸を実施する予定。また、ロシア産天然ガスへの依存から脱却し、調達先を多様化する計画もある。最近、EUはアゼルバイジャンと協定を結び、カスピ海地域からより多くの天然ガスを輸入することにした。イタリアとフランスは、北アフリカからさらに多くの天然ガスを輸入する選択肢を検討している。しかし、こうしたロシア産天然ガスへの依存から転換する動きは、非常に遅くなっている。それと同時に、欧州はロシア産天然ガスに対し、毎週数十億ユーロの代金を支払っている。その規模は、EUがウクライナに提供した軍事・人道支援の総額を凌駕しており、EUは皮肉にも、クレムリンの進める戦争に対し、実際に資金を提供してしまっているのだ。

欧州の政策担当者は、ロシア産エネルギーに代わるものを懸命に探し回る中で、イランに目を向けつつある。新たな石油と天然ガスの供給源にまつわる切迫感を背景に、一部の欧州諸国とバイデン政権は最近、イランの核開発プログラムをめぐる新たな取引の成立に熱を入れ始めている。イランのジャバド・オウジ石油相は少し前、同国政府が欧州のエネルギー危機を救う用意があると発言しており、多くのヨーロッパ人は、イランが何かを提供してくれるのではないかと素朴に信じている。

ロシアとイラン以外の国から石油や天然ガスを調達することで、欧州大陸はより安全になる

ルーク・コフィー

しかし、イランが欧州の救済に乗り出すという希望は、現実と合致していない。イランは多くの天然ガスを生産しているが、そのほとんどは国内消費用である。EU向けに回せるガスがわずかにあったとしても、欧州地域への輸出に必要なパイプラインなどのインフラが整っていない。石油に関しては、イランはより手助けできる状況にはあるが、なお課題が残っている。国際社会とイランとの間で明日新たな協定が結ばれたとしても、現在行われている大規模な経済制裁を解除するには数ヵ月かかるだろう。その間は、石油を欧州に輸出できないのだ。その上、イランは、長年にわたる慢性的な投資不足により、欧州に大量の石油を輸出するための適切なインフラを欠いている。したがって、イランの石油と天然ガスを欧州に輸出する場合、輸出できたとしても、この冬向けとしては少な過ぎるし、遅きに失してしまうだろう。

さらに、ロシア政府からイラン政府へのエネルギー依存先の移行については、道徳的な疑問もある。欧州向けロシア産天然ガスのパイプラインについて言えば、ノルドストリーム1がロシア政府の言う「メンテナンス」のために頻繁に閉鎖され、ノルドストリーム2も依然として稼働する見込みがない状態であり、そうしたエネルギー供給体制への対処には地政学的リスクが伴うことを思い知らされている。また、イランはウクライナ紛争で使用する武装ドローンをロシアに提供している。ロシアの戦争に加担する国からエネルギーを買うのは、果たして賢い選択なのだろうか。

短期的には、EUの政策立案者は来たる冬に備え、できる限りのことを行っている。米国を中心としたLNG(液化天然ガス)輸入の増加や、ロシア以外からのパイプラインを経由した天然ガスの追加供給により、天然ガスの貯蔵施設は今、平均して80%満たされているという。これは良いニュースだ。この冬の寒さが異常に厳しくなければ、EUは何とかやっていけるかもしれない。

この間、欧州はそもそもなぜこのような危機に陥ったのか、その教訓を学ぶ必要がある。この場合の“不都合な真実”とは、ロシアからの安価なガスへの依存、何としてもグリーン政策を推し進めようとする宗教にも似た決意、そして科学よりも感情に基づく原子力の拒絶が、この危機を作り出したということである。

ロシアとイラン以外の国から石油や天然ガスを調達することで、欧州大陸はより安全になるのだ。欧州はこの冬を乗り切ることが当面の優先課題だが、長期的には新たなエネルギー戦略を構築しなければならないのである。

最近、EUとアゼルバイジャンがカスピ海からの天然ガス輸出を拡大することで合意したことは、素晴らしい第一歩であるが、欧州はもっと多くのことを行うことができる。例えば、EUはトルクメニスタンと協力して、ロシアとイランを迂回しながら、中央アジアから欧州に天然ガスを運ぶカスピ海横断パイプラインの建設を推進することができる。また、地中海東部や北アフリカでのエネルギー調達の可能性を探るために、欧州はもっと努力することができる。

一方、バイデン政権は、米国のエネルギー部門がその潜在能力を十分に発揮するのを妨げている、官僚主義的手続きを取り除く必要がある。米国の石油と天然ガスを欧州に輸出できれば、それに越したことはない。

今手を打てば、欧州はこの数十年で初めてとなるエネルギー部門整備への道を歩むことができる。今こそ行動を起こすべき時だ。

  • ルーク・コフィー氏はハドソン研究所のシニアフェロー。ツイッター:@LukeDCoffey 
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