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国連は地域的な負担を分かち合う仕組みづくりを促す必要がある

2022年8月16日、バングラデシュのウクヒアでロヒンギャ難民キャンプを視察するミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官。(AFP)
2022年8月16日、バングラデシュのウクヒアでロヒンギャ難民キャンプを視察するミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官。(AFP)
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08 Sep 2022 09:09:50 GMT9
08 Sep 2022 09:09:50 GMT9

バングラデシュのシェイク・ハシナ首相は先月、退任するミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官に対してある要求をした。彼女は、100万人以上のロヒンギャ難民が収容されているコックスバザールの難民キャンプを視察した際、現場に居合わせたバチェレ氏に対し、彼らを追放し、彼らに大量虐殺を行った国に帰還しなければならないと述べたのである。

ハシナ首相の報道官、イサヌル・カリム氏はメディアに対し、首相がバチェレ氏に次のように言ったと語った。「ロヒンギャはミャンマーの国民であり、ミャンマーに引き取らなければならない」。これは理にかなっているように聞こえるかもしれないが、実際には難しい要求である。

ロヒンギャは、銃口を突き付けられてミャンマーから追い出された。彼らの村は壊滅させられた。何千人もの人々が殺害された。数え切れないほどの女性がミャンマー軍の兵士にレイプされた。これらはすべて、彼らを国から追い出すためのものであり、そしてそれは成功した。

ミャンマーでは長い間二等市民として扱われ、「ベンガル人」と軽蔑的に呼ばれ、国内に居場所はないと言われてきた少数民族ロヒンギャの人々だ。その多くは、市民権関連の書類を軍によって奪われるか、破棄された。

ロヒンギャをミャンマーに「戻す」試みは、彼らに対して大量虐殺を行ったまさに軍部によって抵抗されることになるだろう。それはさらなる暴力と苦しみをもたらし、問題の解決にはならない。

それだけでない。ミャンマーでは2017年にこのジェノサイドの段階に突入して以来、政府が転覆し、政治指導者が相次いで投獄された。そしてミャンマー軍と、少数民族や個人の民兵などと手を結んだ旧政府の支持者との間で、大規模な内戦が勃発した。とりわけ国内に残るロヒンギャの人々には、軍からの過酷な報復の脅威にさらされ、非常に危険な状態である。

内戦は収束していない。にもかかわらず、ロヒンギャがそこに戻らなければならないと提案するのは、危険なことなのだ。

しかし、バチェレ氏は、ハシナ氏に明確にそう言うのではなく、遠慮がちにそう言ったのだった。「残念ながら、国境を越えた場所の現在の状況は、帰還のための条件が整っていないということを意味する」と、バチェレ氏はダッカで、このように報道陣に語ったのだ。そして彼女の誤りを増幅させたのは、「送還は常に自発的かつ尊厳ある方法で、ミャンマーに安全で持続可能な条件が存在する場合にのみ、実行されなければならない」と述べたことだった。

このレトリックがなぜ危険なのかを理解するためには、ほんの一瞬の間、ハシナ氏の論理に譲歩する必要がある。バングラデシュは貧しい国だ。難民は、現地の労働者の賃金を下げ、失業を引き起こすことを恐れて、働くことができない。100万人の住居と食料を確保するための費用は、決して少なくはない。

そのような理由から、バチェレ氏は過ちを犯した。彼女は最初の質問に答える際に、あまりに多くの条件を提示し過ぎたのだ。彼女は、大量虐殺の犠牲となった人々の送還について、「条件が整った」とき、つまりおそらくは内戦の血生臭さが和らいだときに、検討されるべきであると認めたのである。そして、ロヒンギャの二度目の追放となる行為に対し、「自発的」、「尊厳ある」というような意味のない表現を添えてしまった。

多くのロヒンギャは、自分たちの境遇に嫌悪を抱いている。彼らは5年間、いわば外国の高速道路の低速車線に、つまりは貧困、劣悪な環境、犯罪の中に、閉じ込められている。もし状況が許せば、彼らの多くは自らの意思でミャンマーに戻るだろう。しかし、状況はそれを許さないし、おそらく今後何年も許さない可能性が高い。

大量虐殺を行った政府は分裂したかもしれないが、大量虐殺を行った者たちは、まだすべての武器を持っている。ロヒンギャを滅ぼし、ミャンマーから追い出すという彼らの意図は、他の内部抗争の影響を受けることはない。それが、この内戦期のミャンマーで続いてきたのだ。

軍の高級将校たちが権力を握っている限り、ロヒンギャを送還するといういかなる表現も、不可能なことへの曖昧な言及か、または国際合意を破って、大量虐殺の犠牲者にさらなる苦しみを強いるだけの恐るべき要求にしかならない。

ロヒンギャをミャンマーに「戻す」試みは、彼らに対して大量虐殺を行ったまさに軍部によって抵抗されることになるだろう。

アジーム・イブラヒム博士

バチェレ氏は、これらのことを既にすべて聞いた上で、ハシナ氏にこれらのことを言えなかっただけでなく、その主張に実質的に譲歩してしまったのだから、与えるダメージは大きい。これは、国連のシステムの産物でもある。その形式主義にとらわれ過ぎて、国の指導者に要求が実現不可能であることを伝えるのではなく、国の指導者の不満にただ耳を傾けてしまっているのである。

国連は、バングラデシュがこの重荷を独力で背負う必要がないようにするための国際的な取り組みを主導すべきなのだ。なぜバングラデシュは、自分たちが引き起こしたわけではない問題のために、年間10億ドル以上のコストをかけて、100万人のロヒンギャ難民を収容しなければならないのか。国連は、ロヒンギャが安全に故郷に戻れる状況になるまで、この地域の国々が負担を分かち合うプログラムを構築するための手助けをすべきなのだ。もちろん、ほとんどの国はこれにあまり乗り気ではないだろうが、できればほんの一時的な措置として、すべての受け入れ国が、最終的なロヒンギャの帰国にふさわしい状況を創出するために努力することだ。それこそが、ロヒンギャが誰よりも望んでいることだろう。

  • アジーム・イブラヒム博士は、米ワシントンDCにあるニュースラインズ・インスティテュート・フォー・ストラテジー・アンド・ポリシーの特別イニシアティブ担当ディレクターを務める。著書に「The Rohingyas: Inside Myanmar’s Genocide」(Hurst, 2017)。ツイッター:@AzeemIbrahimDr
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