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イスラエルによる占領を忘れてはならない

ベイト・ダジャンでイスラエル軍の近くでイスラエルの入植地拡大に抗議するパレスチナ人。2022年9月9日(AFP)
ベイト・ダジャンでイスラエル軍の近くでイスラエルの入植地拡大に抗議するパレスチナ人。2022年9月9日(AFP)
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11 Sep 2022 12:09:13 GMT9

エルサレム市都市計画・建築委員会は今週、ギヴァット・ハシャケド地区のユダヤ人入植者に対し、新家屋の建築を承認した。これによって、入植地がグリーン・ラインの向こう側に拡大することになる。この住宅用地は、ベイト・サファファのパレスチナ地区に隣接している。私がこの問題について、またどうすればこの動きを止められるかについて尋ねようとパレスチナ人の友人、ハニを訪問すると、彼はこのように慎重さを要する件を任せるのに「うってつけ」だという弁護士のもとへ急ぐところだった。

ハニはこのアメリカ系イスラエル人の友人、ダニエル・サイドマン氏の話を始めた。ユダヤ人であるサイドマン氏の父親は若いころ、ナチス時代のドイツに暮らしていたが、第二次世界大戦の勃発とともにアメリカへ逃れた。このような経緯から、彼は住処を追われるという経験がどのようなものかよく知っているため、パレスチナ人の苦難も理解できるのだという。

彼の人生が大きく変わったのは、1991年、イスラエル政府がエルサレム旧市街の南側、アル・アクサモスクのすぐそばにあるシロアム地区にユダヤ人の入植を認めた時だ。彼はクネセト(イスラエルの立法府)の議員から、この決定を覆すべく最高裁に訴えを起こすよう要請されたが、その頃には正当な所有者から土地を奪い、それを入植者に与えるという不法な活動が、秘密裏に行われていることに気づいていた。そこでサイドマン氏は、自分と同じイスラエル人が、パレスチナ人に対して行っている不正に対する闘いを始めた。

ハニは言う。「彼は窓の外を見るたびにこう言う。『ここから見える人の内、4割が私の同胞に住む場所を占領されている。そして彼らには、私が持っているような政治的権利はない』。と」

新たに入植地が建設されるたびに、政治的解決は遠ざかる。サイドマン氏の考えでは、占領はパレスチナ人にとってと同じくらい、イスラエル人にとっても有害であり、イスラエルが占領を終わらせるか、占領がイスラエルを終わらせるか、二つに一つだ。彼の活動はパレスチナ人のためだけでなく、自分の同胞や家族のためでもある。彼は自分の子供たちに、まっとうな社会で暮らしてほしいと望んでいる。イスラエルとパレスチナ両民族の和解を実現させる唯一の方法は、国境を定めた上でイスラエルがパレスチナ人の生活を支配するのをやめることである。

しかし、多くのイスラエル人は占領が起きていると考えることさえしない、とハニは嘆く。「占領」という概念は公共の言論から抜け落ちている。これは実に危険なことだ。また、ヤイール・ラピード首相率いる現政権は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権と比べるとパレスチナに敵対的ではないものの、国民を束ねる力も弱い、と彼は説明する。したがって、首相自身が承認しなくとも、多くのことが起こりうるのだ。ネタニヤフ氏には多くの問題があったが、すべてを掌握できていた。現政権にはそれほどの指導力がなく、複数の閣僚のゆるやかな連合といった趣があり、また閣僚の一部にはゼエフ・エルキン建設大臣のような、入植積極派も存在する。

親愛な友人への敬意を込めながら、ハニはサイドマン氏があるシロアムの家族を立ち退きから救おうと奮闘した様子を話してくれた。彼は19年にわたって闘い続けたが、最後にはその家族は強制退去させられた。サイドマン氏はまた、東エルサレムにパレスチナ人のための学校を建てるためにも闘った。この試みは10年前から続いており、部分的な勝利も手にしている。

ハニによると、世俗的ユダヤ人であるサイドマン氏は宗教の武器化に抵抗するべく活動している。彼はまた、世界中のイスラム教徒にとってのアル・アクサモスクの重要性や、ユダヤ過激派とイスラエル国家主義者による現状の浸食やユダヤ至上主義がいかにパレスチナ人やイスラム教徒の間に自分たちの権利が侵害されているという意識を育てるかを理解している。

ハニは続けて、目下サイドマン氏は最大の闘い、すなわちE1入植地の建設を阻止するための活動を準備中であると話してくれた。1990年代初頭にこの計画が提案されて以来、歴代のアメリカ大統領や欧州の指導者たちはこの建設に反対してきた。もし承認されれば、この入植地は東エルサレム深くに食い込んでヨルダン川西岸地区を分断するため、パレスチナ国家の成立は不可能になり、二国家解決は破棄されることになるのだ。だが、現在世界は他の多くの惨事に気を取られて、イスラエルによる占領は優先事項どころか、議題にすらのぼらなくなっている。イスラエルの過激派は、この機に乗じてE1入植地の建設の承認を企図するかもしれない。

サイドマン氏についての話が終わると、私はハニに尋ねた。「我々アラブ人は、ダニエルと仲間を助けるために、何ができるだろうか?」彼は失望した様子で答えた。「何もできない」しかし、なぜ何もできないのだろうか。アラブ世界には、イスラエルと国交のある国があるのではないだろうか。アブラハム合意は、平和への第一歩だと喧伝されたのではなかっただろうか。サイドマン氏のような人々の活動をもっと広めて、彼を支え、励ますことがなぜできないのだろう。正常化のプロセスの中で、占領を終わらせることがなぜできないのか。

アラブ人は、占領を終わらせるよう声を上げることを忘れてはならない。なぜなら、たとえこの問題を忘れたように思えても、それは繰り返し戻ってきて我々に取り憑くからだ。サイドマン氏のようにイスラエル内部で活動する人々についてもっと多くの人に知ってもらうことが、それを防ぐ最善の方法だろう。正常化の過程をチェスのゲームに例えるなら、今こそイスラエルが正しく駒を進めるべき時だ。そしてそのためには、彼らはサイドマン氏のような人々と協力する必要があるのだ。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士米国アラブ関係専門家ロビー活動研究注力している彼女はトラックIIに焦点を当てたレバノンの非営利団体である協力と平和の構築のためのリサーチセンター(Research Center for Cooperation and Peace Building)の共同創設者である。

 

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