原油は東へ向かい、トヨタ車は西へ向かう、という従来の日本・サウジアラビア間の貿易のイメージは単純化し過ぎだが、ありふれた常套句という以上の真実がそこにはある。
原油は今でもサウジの主要輸出品であり、原油依存から脱却して経済の多様化を目指すという「ビジョン2030」計画を進めていくにしても、原油は今後も長く主要輸出品であり続けるだろう。日本は原油の産出国ではなく、莫大な量を生産する製造業を賄うために、大量のエネルギー輸入を必要としている。
いっぽうサウジアラビアは、高度な仕様をもつ自動車、電子製品や、その他の消費者用ハードウェアなど、日本が非常に効率的に生産するそれらの製品を欲している。「原油とランドクルーザーの取引」は、あながち的外れとはいえない。
その常套句を超えたところまで進みたいと考える両国の政策立案者たちにとっての課題は、サウジアラビアは原油以外に日本が欲しがるものをそれほど生産していないという事実だ。
それは、一次産品に依存する経済の特徴であり、サウジアラビアが「ビジョン2030」構想で意図する通りに新たな産業やテクノロジーを発展させたときに、初めて変えられるものだ。
1年前に採択された「国家産業開発と物流計画」が、この産業革命の基本計画となっている。
それは、第四次産業革命のテクノロジーや、国外からの大規模な投資によって、国内に特別経済圏のネットワークを張り巡らし、産業における専門性を培うというものだ。
その「国外」という要素が、日本が参画する部分だ。サウジが欲するのは、日本のイノベーション志向の経済から学ぶことであり、これには必然的にある種の技術移転が伴う。
サウジの政策立案者たちは、自分たちはトヨタ車そのものと同時に、トヨタ車の技術も買いたいのだという事実を率直に認めている。
しかしこういった野心は過去に課題に直面してきた。サウジアラビアがある期間、日本のトップ自動車メーカーであるトヨタに、サウジアラビア内に生産工場を立ち上げてもらえないかと打診していたのは周知の事実である。
それにより、サウジアラビアの国民に職をもたらすことになるし、日本人が完成させたハイテク産業のスキルを学ぶこともでき、サウジや中東市場の車販売の現地拠点もできる。
しかし、現地労働力の能力とコスト、市場が比較的小規模であること、現地で補給品や部品が入手できないことなどに日本側が難色を示したことから、話は行き詰っていた。
サウジ政府からの巨額な助成金もなく、トヨタにとっては経済的に全く意味をなさない話だった。
行き詰まりは打開可能だし、例えば韓国や中国などの他の自動車メーカーが参入するという手はあるものの、これは、日本とサウジ間の貿易と投資を妨げる2つの事実を示している。
ひとつ目は、日本の保守的な企業文化は、海外投資でリスクを冒さず、自分たちの専門性に見合うだけの支払いを期待するというものだ。
例えば、日本企業は、アラブ首長国連邦の原子力発電所建設の事業落札で、韓国に敗れた。日本はこの地域でかつて(ドバイの地下鉄建設を請け負うという)賭けに出て、そこで痛い目にあった。
ふたつ目に、このようなことを決定するこの地域の政策立案者たちは通常、コストや引き渡し条件をもとに決定する。
日本の製品は概して、中国や韓国の製品に比べて高品質であり、そのためより高価で、完成までの時間が長くかかる。
とはいえ、サウジアラビアが日本の専門性を求めるのが理にかなう、注目の分野もいくつかある。
原子力産業がそのひとつだ。サウジと日本は、近年のテクノロジーの進歩を活用し、次世代のより安全な非軍事の原子炉について協力することができる。
高速輸送もある。ネオムや紅海の開発のようなサウジ西岸の大きなプロジェクトは、日本人が完成させた「高速鉄道」路線を敷くのに打ってつけの候補に見える。
おそらく、サウジと日本の貿易関係における大きな成功は、エネルギー技術の分野になるだろう。
サウジアラムコは、未来の燃料として水素の開発に非常に熱心だが、それは日本人も計画を進めてきた分野だ。
ある評論家たちが期待するように、もしサウジアラムコがどこかの時点で株式の第二次売り出しを海外市場で行うとしたら、東京での新株発行には、水素テクノロジーにおける大きなジョイントベンチャー投資がついてくるかも知れない。
今回の日本の安倍晋三首相のサウジアラビアへの訪問は、サウジアラビアとの貿易関係における行き詰まりの打開をもたらすものになるかも知れない。彼は、自国企業の人々に、リスクを嫌がるのではなく、より大胆になるように言うべきだ。
サウジアラビア側としてはおそらく、日本の「品質」に投資をするのだという意識を持って決断を下すべきだろう。