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ロシアの核の脅威と湾岸諸国の核拡散防止の未来

2022年9月26日、オーストリア・ウィーンのIAEA本部で発言するイランのモフセン・ナジリ・アスル大使。(AFP)
2022年9月26日、オーストリア・ウィーンのIAEA本部で発言するイランのモフセン・ナジリ・アスル大使。(AFP)
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29 Sep 2022 05:09:49 GMT9

ロシアのプーチン大統領は先週、ロシア領土の保全が脅かされた場合、「ロシアと国民を守るために、私たちが自由に使えるすべての手段を講じる。これはハッタリではない」と警告した。これは暗黙的に核兵器に言及していると解釈された。プーチンがこの可能性を提起したのは今回が初めてではないが、今となってはより不吉なものに見える。その「領土の保全」が、ロシアが主張する紛争地域にも適用され得るのかどうかは、明らかではない。もし適用される場合、それらの地域に対する脅威も核兵器による報復を誘発する可能性がある。

プーチン氏の警告は、世界各国から首脳や政府高官が集まり、世界の最も差し迫った問題について議論する、最も多忙な週である国連総会の一般討論演説の真っ最中に行われたため、最大の注目を浴びた。湾岸諸国では、こうした脅威が、既に必要に迫られている核不拡散の取り組みにどのような影響を及ぼすかについて疑問の声が上がっている。

この週のびっしりと詰まった議題に核戦争の見通しを加えることは、30年前の冷戦終結以来、国連の屋根裏に追いやられていた怪物を呼び戻すようなものであった。これに対して、欧米列強はすぐに独自の脅しで対抗した。ジョー・バイデン米大統領は同日、ニューヨークで開かれた国連総会で演説し、プーチンが「ヨーロッパに対するあからさまな核の脅し」を行い、核不拡散の責任を果たしていないと非難した。

ジェイク・サリバン米国大統領補佐官(国家安全保障担当)は9月25日日曜日に、ロシアが核兵器を使用した場合、米国政府は「断固として」対応すると述べた。 同氏は、米国がロシアに、そのような対立の「破滅的な結果」を伝え、「それが何を意味するのか、より詳細に」説明したことを明らかにした。

ロシアが核兵器を使用した場合、米国がどのような決定的な対応をとるかは不明だが、事故や誤解を避けるために、この問題についてロシアと米国の安全保障当局者が定期的に直接連絡を取り合っていることは好ましい兆候である。また、ロシアのどのような行動が米国の対応の引き金になるのかも不明である。ロシアによる戦略的な攻撃は同様の反応を引き起こす可能性があるが、例えばウクライナで戦術的に核兵器を使用した場合、米国による反撃も引き起こされるのだろうか?

北朝鮮の妙な行動はともかくとして、世界的な核対立の見通しはしばらくの間、世論から退いていた。ソ連の崩壊とそれに続いて起こった米国主導の世界秩序は、核の脅威がもはや現実的でないという誤った印象を与えた。しかし、ロシアや米国をはじめとするいくつかの国が膨大な核兵器を保有しているため、核兵器の拡散による世界的な脅威は依然として極めて現実的である。核の専門家は、超大国が新しいタイプの核兵器を排除するのではなく、増やし続けているため、核紛争の可能性はますます高まっていると警告を続けている。 少なくとも9,000発の核兵器が存在し、世界中のサイロや掩蔽壕(えんぺいごう)に隠され、使う準備はほぼ完了状態にあると考えられている。

湾岸諸国では、イランとの核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」をめぐる取り組みが続いているものの、核兵器の拡散のリスクは高まっている。過去20年間、イランは保障措置協定や保障措置に関する追加議定書を含む核不拡散条約の基準を遵守することができなかった。 国際原子力機関(IAEA)や国連安全保障理事会による度重なる非難も、イランを説得できてはいない。JCPOAを「P5プラス1」諸国が復活させることができれば、正しい方向への一歩となるが、イランの核開発の平和的な性格を確保するためには、さらなる措置が必要となってくるだろう。

核兵器の使用を全面的に禁止するというアイデアは以前からあったが、これまでのところ、核保有国自体やイランのような核兵器保有を目指す国々を説得することができなかった。

2017年、国連は、化学兵器禁止と同様に、核兵器の完全廃絶に向けた、あるいは少なくともその開発・使用を違法として禁止する法的拘束力のある文書の交渉を行う会議を開催した。この会議の結果、核兵器禁止条約が締結され、あらゆる核兵器活動への参加の禁止が包括的に盛り込まれた。

この条約の締約国は、核兵器の開発、実験、生産、取得、保有、備蓄、使用、または威嚇への使用を行わないことを約定している。またこの条約は、自国の領土に核兵器を配備することや、禁止されている活動を行う国への支援の提供を禁止している。締約国は、人によって行われるか、またはその管轄もしくは支配下にある領域において行われるかにかかわらず、条約で禁止されている活動を防止し、抑止する義務がある。また、この条約は、締約国に対し、核兵器の使用または実験によって影響を受けた個人に対して十分な支援を提供すること、および核兵器の実験または使用に関連する活動の結果汚染された管轄下または管理下の地域において必要かつ適切な環境修復の措置を講じることを義務付けている。

言い換えれば、これが実現すれば、核の脅威に対処するための包括的な手段となる。この条約は、2017年7月7日、湾岸協力会議(GCC)加盟国すべてを含む122カ国の賛成、1カ国の反対、1カ国の棄権により採択された。圧倒的な票数ではあったが、どちらかというと政治的な主張が大きかった。そして、この条約は法的には2021年1月に発効したにもかかわらず、その影響はしばらくの間取るに足りないものになりそうだ。現在のところ、91カ国が署名し、そのうち68カ国が批准しているに過ぎない。核保有国として認知されている国は一つも参加しておらず、核兵器開発の見通しがある主要国も実際には参加していない。

そのため、核拡散防止のための条約としては、NPTだけが世界的に受け入れられている。インド、イスラエル、パキスタン、南スーダンの4カ国を除く世界のすべての国がこの条約に加盟しているが、ここでも課題を抱えている。

ウクライナ戦争と中国と米国の対立の激化は、核保有国自体の見解の相違を意味している。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ

核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議が先月、2年遅れで行われたが、核保有国と非核保有国の間の食い違いを解消することはできなかった。ウクライナ戦争と中米対立の激化は、核保有国自体の見解の相違を意味している。プーチン氏の核の脅威は、条約をめぐる相違をさらに鮮明にした。イランはNPTの創設時からの加盟国だが、IAEAの圧力がかかるたびに脱退の脅しを繰り返している。特に「P5プラス1」が分裂している今、20年にわたるイランとのいたちごっこは続いている。

イランが核兵器能力を獲得すれば、湾岸諸国での核軍拡競争は遠からず起こり、政治的、経済的に悲惨な結果を招くだろう。この見通しから、核不拡散の努力は、このような悲しい事態を防ぐための継続的な努力が不可欠になるであろう。

  • アブデル・アジーズ・アルウェイシグ氏は湾岸協力会議政治問題・交渉担当事務次長で、アラブニュースのコラムニスト。本記事で表明した見解は個人的なものであり、湾岸協力会議の見解を必ずしも代表するものではない。ツイッター: @abuhamad1
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