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壊滅的事態が近づくレバノン 指導部は依然無策

3月24日、ベイルートのレバノン中央銀行ビルで花火を発射するデモ参加者。(AP)
3月24日、ベイルートのレバノン中央銀行ビルで花火を発射するデモ参加者。(AP)
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28 Mar 2023 02:03:09 GMT9
28 Mar 2023 02:03:09 GMT9

国際通貨基金(IMF)から、レバノン経済の立て直しに残された時間は少ないとの厳しい警告を受けたレバノン政府の指導部は、お得意の独創性を発揮し、一方的に時間を変更するという全く的外れな方策に執心している。

事態は実に愚かしい展開を見せている。レバノンは飢餓、ハイパーインフレ、市民生活の混乱に直面しているというのに、支配層は「サマータイム」の導入を延期するための法改正に気を取られているのだ。延期の決定は、旅行の混乱、電子機器の誤作動、全国至る所で様々なトラブルを引き起こすと専門家は警告している。一部の組織はすでに予定通りサマータイムへの移行を進めると表明しており、混乱は避けられない情勢だ。

過去4年間、天から与えられた時間に仮にその地位を得ていたに過ぎない指導部が幾度となく見せてきた言い逃れと無能の象徴として今回の騒動はまさにふさわしく、ナジーブ・ミカティ首相とナビーフ・ビッリー国会議長もその点に限ってはよい仕事をしたと言える。

IMFレバノン事務所のエルネスト・ラミレス・リゴ代表は、壊滅的な経済見通しの責任は、レバノン政府関係者の長期にわたる不作為にあるとし、ハイパーインフレへの突入は、今後何年にもわたって多数のレバノン人の生活の質に壊滅的な影響を与えることになると警告している。

しかし、レバノンのエリート層は、いつもと同じように高級レストランで食事をし、海外に外貨で安全に保管されている巨額の資産で裕福に暮らし、些細なことで互いにいがみ合いながら、大統領の人選、政府形成、危機脱出戦略の問題で呑気な堂々巡りを続けているのだ。なぜIMFが規定した改革を実施がいつまでも進まないのはなぜなのか。それは、改革が、危機的な現状にまったく問題を感じていない上位0.1%の富と不処罰特権を実質的に損なうからだ。

レバノンにもたらした多くの大惨事の原因を作った1人、ジブラン・バシール氏は、奇妙なことに時間変更の問題では、それがキリスト教徒に不利であると主張し、市民を不服従のキャンペーンに駆り立てようとしている。電気も基本的なサービスもないレバノンで、キリスト教徒や他の宗派の人々に、時刻を正確に把握したり気にしたりする余裕があるとでも思っているのだろうか。これではまるで、バシール自身が、レバノンのキリスト教徒の地位を貶めるために、誰よりも多くのことをしてきたということを忘れてしまったかのようではないか。

IMFからレバノン政府への最新の警告は、退役兵士を含む数千人のデモ隊がベイルートの政府本部に通じるフェンスを突破しようと試み、国内の他の場所でも抗議活動が発生した時と重なっている。デモ参加者たちは、当局の無能と腐敗がレバノン・ポンドの価値をさらに急落させ、経済的苦境をさらに悪化させたと激しく非難した。

レバノンを守るためにキャリアのすべてを捧げてきた退役軍人たちは、レバノンの統治体制に最も忠実な層の一部を構成している。しかし、退役軍人や公共部門の労働者の月々の年金は、現在20ドル強(約2600円)に過ぎない。「彼らは、生涯国のために尽くしてきた退役軍人に対して罪の意識は感じないのだろうか?元軍人たちは飢えに苦しみ、医療サービスも受けられないでいるというのに」と、デモ参加者の1人は語った。

一方、ヒズボラの指導者、ハッサン・ナスラッラー師はイスラエルに対して再び攻撃的な姿勢を見せている。ヒズボラがイスラエル北部で小規模な挑発を行った後、ナスラッラー師はイスラエルに対し侵略できるものならしてみるがいい、と言い放った。「もしイスラエルが今回の件でレバノンに対して戦争を始めたら、それは地域全体を巻き込んだ戦争につながるかもしれない」と彼は強調した。1 人でも殺せばヒズボラの大規模な反応を引き起こすだろう、と非常に具体的な言い方で脅しもかけている。

しかし、イスラエルはすでに、ヒズボラやシリア国内のヒズボラの同盟組織に関連する標的をほぼ毎日攻撃しており、ヒズボラ・イラン枢軸の幹部が殺害されていることは言うまでもない。ナスラッラー師にこれに反応して攻勢に出るつもりがないことは、誰もが理解している。一方ここ数日、シリア東部で米軍とヒズボラ系民兵組織との間でここ数年で最悪の敵対行為が発生しており、地域全体で衝突を引き起こす危険がある。

思い切った行動、つまりアラブや欧米諸国による大胆な介入がなければ、レバノンそして地域全体を巻き込んだ新たな紛争が勃発するのは時間の問題だ。

バリア・アラマディン

イランの支援を受けた民兵組織は、数年前からシリアとイラクの国境沿いに大規模な要塞やミサイルを備えた地下深くのトンネルなどを建設している。ジョー・バイデン米大統領は民兵組織対し「国民を守るために力強く行動する用意がある」と警告しており、米国とイランの交渉が決裂して久しい状況では、こうした報復攻撃がエスカレートする可能性もある。

イスラエルでは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相とネオ・ファシズムを報じるその取り巻きが、首相の刑務所行きを防ぐという目的のためだけに、同国を史上最悪の政治危機に陥れている。加えて、ネタニヤフ首相自身がイランとヒズボラに対するレトリックをエスカレートさせているため、地域全体がナイフのように鋭く予測不可能な危機の瀬戸際で震える事態となっている。

もしナスラッラー師が自分の望み通りにイスラエルを煽り、レバノンが直接攻撃を受けることになれば、ナスラッラー師自身はすでに取り巻きや家族とともに地下深くの避難壕に隠れているはずだが、何千人もの無実のレバノン人が殺され、国全体が焼け焦げた廃墟と化すことになるだろう。

国民の多くが想像を絶する悲惨さの中でゆっくりと餓死しているときに、ナスラッラー師は忌まわしくもそうした争いを期待しているのだ。多くの人々が耐え難い痛みに耐えているのは、医療費が払えず、薬もないためであり、閉鎖していない数少ない病院も、スタッフや設備のほとんどを失って機能していないためである。このような状況では精神的な苦痛も大きく、自殺率は急上昇し、航海に耐えられない船で逃げる家族が海で亡くなる事故も日常的に発生している。病院の死体安置所は、機能しない冷蔵庫の中で腐敗した死体であふれかえっている。人々には棺桶を買う余裕もないからだ。

2023年のレバノンは、例えるならば、半崩壊状態の死にかけた体が、生命維持に必要な器官の衰えが加速する中、息を引き取る前にあえいでいる状態である。政治家階級全体が、自分たちの腐敗した富の蓄積を減らすような行動を少しでも取るよりも、レバノンの完全な崩壊を早める方が良いと考えているように見える。このような人々は、ドバイやパリ、コムにある豪華な別荘に引きこもり、レバノンが最終的に完全に崩壊する日のため、燃料を補給したプライベートジェットを滑走路に用意し、完璧な脱出計画を立てているのだろう。

このような状況の中では、ナスラッラーは自らの発言に気をつけ、馬鹿げた戦争挑発を止めなければならない。なぜなら、彼は自分では対処できない、自身の組織・ヒズボラともにレバノン全体をも破壊してしまうような大きな力を解き放とうとしているからだ。

レバノンが1970年代から1980年代にかけて本格的な武力紛争に陥った時、その結果生じた無秩序は、イスラエル、シリア、パレスチナとその解放運動、イラン、欧米といった広範な地域を巻き込むものとなった。2011年のシリア紛争も同様に、急速に地域全体に影響を広げ、ロシアまで巻き込んで、一連の過激派やテロ組織を生み出すことになった。

思い切った行動、つまりアラブや欧米諸国による大胆な介入がなければ、レバノンそして地域全体を巻き込んだ新たな紛争が勃発するのは時間の問題だ。

警報はもうずいぶん前から鳴り続けている。まさか、誰も耳を傾けないなどということがあり得るのだろうか?

  • バリア・アラムディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
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