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イランの政権は瓦解の危機にあるか

乗員乗客176名全員の死亡を招いたウクライナのジェット旅客機撃墜が誤射であることをイランが認め、二夜連続で抗議活動が起きている。2020年1月11日。(AFP)
乗員乗客176名全員の死亡を招いたウクライナのジェット旅客機撃墜が誤射であることをイランが認め、二夜連続で抗議活動が起きている。2020年1月11日。(AFP)
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15 Jan 2020 09:01:40 GMT9

このところ立て続けにイランで起きていることがまとめて問うているのは要は次のことだ。次は何が起きるか。そして、現政権の最終的な行く末はいずこか。

イラク国内のイラン権益への度重なる奇襲、イランきっての軍人トップの一人コッズ部隊のソレイマニ司令官の殺害と続き、イランの政権にとっては、1980年代のイラン-イラク戦争終結から数十年ぶりにその真価を試されることとなっている。

報復を十全には完遂できなかったこと。イラン軍部によるウクライナ旅客機の撃墜。最高指導者ハメネイ師の辞任を求めるデモ隊の首都テヘランへの帰還。これらはいずれも、イラン政府にとってはますます重い重荷となり、次から次へ起きる災難となっている。

こうしたことは、単に年が明けてたまたま不運が重なったわけでも、ただの偶然であるわけでもなく、すでに破綻した傲岸な政権の当然受けるべき報いでしかない。

この政権は世界へは獅子吼するさまをあらわにするが、その実、古くさく、疲弊し、時代遅れで、国内はおろか中東地域や世界で起こる変化に対応する能力もない。今般の危機的状況の起きる以前に私は記している。最高指導者の統治体制にとって真の敵はアメリカでもサウジアラビアでもイスラエルでもない。イラン領内でハメネイ体制みずからがないがしろにしているその国民が真の敵なのだ、と。

目下、何度も問われる大きな問いとはこうだ。内外の巨大かつ増大する圧力に対してイランにはいかなる選択肢があるのか、だ。主な可能性として5つ挙げられる。第一の選択肢は、最も容易だが最高指導者としては採択したくもないものだ。これは、ハメネイ師が内外の政策を即座に変更して生き残りを図る、というものだ。

第二の選択肢は、デモ隊の動き次第だが、体制トップの首のすげ替えということになる。軍トップないし革命防衛隊司令官あたりが権力を掌握して対内対外政策の変更を実行に移すというものだ。

この政権は世界へは獅子吼するさまをあらわにするが、その実、古くさく、疲弊し、時代遅れで、国内はおろか中東地域や世界で起こる変化に対応する能力もない。
アブドルラハマーン・アル=ラシード

第三の可能性は、デモ隊の圧力が極まり政権が崩壊するというもの。運動の指導者のうち軍部の支援を得た者が権力を奪取するという形だが、これだと宗教指導者による体制は終わりを告げることになる。

第四は、運動が収まらず暴力をともなう抑圧が広がり、政権は首の皮一枚で維持されるものの多数人命は失われる。要はシリア型の展開だ。この場合、政権は対外的に大きな譲歩を強いられることになる。が、イランは複雑な問題を抱えた大国であるので、こうした成り行きでは国がもつまい。

第五の可能性は、政権が突如として完全崩壊する。むろん大きな混乱を引き起こす。これを望む者はいない。それによってもたらされかねない危機は単にイラン国内だけにとどまらず地域全体におよぶからだ。

こうやって、イラン政府の生き残り策を推理するのは、何も、ソレイマニ氏の殺害やその結果イランが直面している惨憺たる状況を見ての思いつきというわけではない。この背景には長年の期待がある。米国のオバマ前政権が支持した2015年の核合意は、制裁と国際舞台でのつまはじき状態に苦しんでいたイラン政府に生命線となったのは疑いないものだった。

にもかかわらず、イラン政府は過ちを正すどころかさらに過ちを重ねた。地域を紊乱させる影響力の度を増し、国内での抑圧を強めた。これがもとでトランプ政権は核合意から引き、制裁を元に戻し、イラン政府に強い態度に出ることになった。

この政権の思考は旧態依然としており、政府機関は自壊しつつある。十年一日のごとく、殺人、誘拐、代理勢力、過激な分派イデオロギーといったなさけないやり口で事に当たる。だから政権が統制力を失い、誤って飛行機を撃ち落としたり司令官を失ったりしてもなんら驚きではない。そのうえ、国民の生活の質を担保するのに必要な発展への可能性もこぼたれている。それで自国の石油を国際市場で売ることすらできていない。こんなありさまでも米国などの巨大な大国への挑戦、4つのアラブ国家の掌握には余念がない。

実のところ、イラン政府の無慈悲かつ敵対的な政策の数々は、行政でも経済でもさしたる技量もないひと握りの老人たちの差配・指示によるものだ。昨年サウジアラムコの石油施設におこなったような攻撃のため弾道ミサイルや無人機を彼らが使えたのも、北朝鮮など米国に敵対する友好国から得た支援の賜物にすぎない。

1979年の政権掌握以来、この政権は産業の勃興する近代国家をつくることができなかった。代わりにつくったのは巨大な軍事宣伝組織だ。独立を保ち、戦争を開始し戦うことのできる存在なのだと、自国や他国の人々を欺くのがその目的だ。

とはいえ巨大な軍事システムを保有するのは事実だ。正規軍、民兵組織、予備兵力を備え、イラン政府の莫大な権力の源泉といってしかるべきものだろう。それでありながら、国内はまともに回らない。旧イラン王国から引き継いだ石油精製施設の開発すらおぼつかないのだ。

  • アブドルラハマーン・アル=ラシード氏は手練れのコラムニスト。ニュース局「アルアラビーヤ」元取締役でアラビア語紙「アッシャルク・アルアウサト」元主筆。ツイッターアカウント:@aalrashed

【お断り】当欄の執筆陣による見解は論者個人のものであり、必ずしもアラブニュースの主張を映したものではありません。

 

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