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南コーカサスの平和に向けた暫定的な歩みをイランに阻まれてはならない

アルメニアとアゼルバイジャンの国境沿いで行われた軍事訓練に参加するイラン軍。(SEPAHニュース/AFP)
アルメニアとアゼルバイジャンの国境沿いで行われた軍事訓練に参加するイラン軍。(SEPAHニュース/AFP)
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29 Oct 2022 04:10:23 GMT9
29 Oct 2022 04:10:23 GMT9

2020年12月、バクーで行われた第二次カラバフ戦争におけるアゼルバイジャンの勝利を祝うパレードで、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がアゼルバイジャンの詩を朗読し、イランの注目を集めた。

アラス川がアゼルバイジャン共和国の民族とイランの民族を分断していることに起因する悲しみを詠った『グルスタン』という詩である。

この詩の中で、特にテヘランを憤慨させた一節がある。「アラス川を隔て、石と棒で埋め尽くした。私はあなたから分離されることはない。彼らは私たちを無理やり引き離したのだ」

この一行は、すべてのアゼルバイジャン民族がいつか再統一されることを示唆するものである。

この詩は1959年に書かれたものであるが、1828年にまでさかのぼる問題を扱っている。当時、ロシア・ペルシア戦争(1826-1828)を終結させた帝政ロシアとペルシアの間のトルコマンチャーイ条約によって、アラス川沿いに列強間の国境が設定されたのである。現在、アゼルバイジャン民族はイランで2番目に大きな民族であると考えられている。

近年、アゼルバイジャンとイランの関係は、表面的には友好的であるが、裏では緊迫した状態が続いている。カスピ海での海上国境紛争もあった。アゼルバイジャンはアゼルバイジャンの長年の敵国であるアルメニアとイランの間の友好関係を常に懸念している。一方、イランはアゼルバイジャンとイスラエルの緊密な二国間関係に疑念を抱いている。

しかし、最近2つの問題が、アゼルバイジャンとイランの関係をさらに複雑にしている。

先週、イランはアゼルバイジャンとの北部国境沿いで前例のない大規模な軍事演習を実施した。この軍事演習は、いくつかの理由で、これまでの演習とは異なっていた。

第一に、テヘランからの巧みなメッセージング戦略を伴っていたことである。例えば、イラン国営テレビは、明らかにイラン革命防衛隊が制作したとみられる軍事演習の映像を盛り込んだミュージックビデオを放送した。使用された曲の歌詞は、イスラエルに「道を踏み外さないように、みずから墓穴を掘らないように」と警告する一方、アゼルバイジャンには「イランを邪険にする者は滅ぼさねばならない」と注意を促すものだ。

おそらくより重要なこととして、第二に、今回の訓練ではアラス川を渡る軍事的襲撃のリハーサルが主要な部分を占めていた。民間人にとって、川を渡るということは、徒歩、または車で橋を渡るだけの簡単なことである。しかし、ロシアがウクライナで示したように、銃撃戦の中で軍事作戦を支援するための仮設橋を建設するのは簡単なことではない。実際、ウクライナでのロシアの試みは、しばしば命取りになっている。

アラス川は大部分がアゼルバイジャンとイランの国境をなしているが、イラン国内だけを流れている区間も一部ある。そのような場所で、イラン革命防衛隊が仮設の橋(ポンツーン)を建設し、軍事的な河川横断のリハーサルを行っているところが撮影された。アゼルバイジャンへのメッセージであることは誰の目にも明らかだ。

国際社会は、イランが地域の平和を阻害する存在とならないよう、圧力をかけるべきである。

ルーク・コフィー

アゼルバイジャンとイランの間のもう一つの争点は、いわゆるザンゲズル回廊の設置をめぐるものだ。第二次カラバフ戦争を終結させた2020年11月の停戦合意の一環として、アルメニアはアゼルバイジャン本国と、イラン、アルメニア、トルコに挟まれた飛び地であるナヒチェヴァン自治区との間の「輸送路の安全を保証」すると約束した。

それから約2年、アルメニアのシュニク州を経由してアゼルバイジャンのこの2つの地域を結ぶ輸送回廊は、現実に近づいてはいない。

テヘランは、2つの理由から、ザンゲズル回廊の構想を好まない。第一に、このような輸送網の効果は、イランの利益にならない形で地域を超えて表れる。最終的には、トルコとユーラシア大陸の中心である中央アジアを結ぶことになる。この輸送ルートが、イランが競争相手としなければならないもう一つのルートとなることは、テヘランも重々承知している。

第二に、アゼルバイジャンとナヒチェヴァンの飛び地をザンゲズル回廊で結ぶことは、この地域におけるイランの影響力を低下させる。現在、アゼルバイジャンはナヒチェヴァンの供給をイランの領空と領土へのアクセスに依存している。またこれらの通行権に加え、アゼルバイジャンはナヒチェヴァンに天然ガスを供給する際にもイランに依存している。イランがこれらの目的のために不要になれば、アゼルバイジャンはこの地域でより強い立場でイランに対抗できるようになる。テヘランはこれを好まない。夏には、最高指導者のアヤトラ・アリー・ハメネイ師が、ザンゲズル回廊の設立に懸念を示すツイートをしている。

これを受けて、イランはこの地域への関与を強めている。例えば、テヘランは先週、ザンゲズル回廊の建設予定地に近いアルメニアの小都市カパンに領事館を開設すると発表した。政府高官代表団の訪問は、アルメニアとイランの間で頻繁におこなわれている。

アゼルバイジャンとイランの間の緊張の高まりは、地域の地政学において興味深い時期に起きている。イランでは、マフサ・アミニ氏が警察に拘束中に死亡した件に対する抗議が40日以上続いており、内乱が起きている。

一方、アルメニアとアゼルバイジャンは、ここ最近で最も永続的な和平合意に近づいていると思われる。これはアルメニアとトルコの関係正常化につながり、待望されていたこの地域の経済の後押しとなる可能性がある。

世界の政策立案者がウクライナ情勢を注視し、中国や台湾を注視しているのは理解できるが、南コーカサスで起きていることを無視してはならない。国際社会はイランに圧力をかけ、同地域の平和を損なわないようにすべきである。

ルーク・コフィー氏はハドソン研究所のシニアフェローである。Twitter: @LukeDCoffey

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