Caline Malek, ドバイ発。
アラブニュースのために YouGov が実施した対日認知度調査によれば、アラブ人には日本の権力機構がどんなものか分かっていない人も多いとのことである。
GCC(湾岸協力会議)諸国および地中海東岸諸国、北アフリカ諸国で16歳以上を対象に行われた調査では、有効回答3,033件のうち44%が日本の最高意思決定者を首相と正しく認識していた一方、じつに過半数(56%)が日本の権力機構についてよく知らないと答えている。
「まあそんなものでしょう」。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で博士論文提出資格を得た Khobaib Osailan 氏の所感である。
「日本の政治機構に詳しいアラブ人なんて、少なくて当たり前です」。
Osailan 氏がアラブニュースに語ったところによると、アラブにはアニメや漫画から寿司に至るまで日本文化の大ファンが多いけれども、かれらとて大多数は日本をアラブ世界の政治的キープレイヤーとは見ていないということである。
「だからアラブ人は、日本国内の政治機構を詳しく知りたいなどという気にはまずなりません。民主的な機構だと言われても、そもそもアラブ世界で民主政治といえば西洋のものです」。
「アラブ人にとって日本はもっぱら経済成長のお手本です。民主的に選ばれた首相、儀典的権威のみを持つ天皇、といった本質は彼らにはピンと来ないのです」。
日本政治の本質といえばもうひとつ有りますね、と氏は続ける。
「日本は4年ごとには総選挙を実施している民主国家ですが、その結果どうなっているかというと、60年以上にわたって自民党が政権与党の座にとどまっています」。
「目に見える白熱した政権闘争が、日本の政治には欠けているのです。だからアラブ人の目を引くこともなおさら少なかったのかも知れません」。
ワシントンDCの湾岸諸国研究所で上級顧問を務める Theodore Karasik 氏は、Osailan 氏のこうした分析を妥当と認めつつ「首相の役割に関するかぎり、アラブには日本と大差ない国々もあるのですけれども」とアラブニュースに語っている。
「こと権力機構となると、構造においても機能においても、あるいは国際経済への作用においても、日本の機構は独特のものです」。
前掲の調査では、GCC諸国民は概して日本国内の政治権力機構に疎いとの結果が出た。具体的にどれほど疎いかといえば、法制上の最終決定権者を天皇だと勘違いしている者が、首相だと正しく認識しているものと同じぐらいいるという具合である。
Karasik 氏はこれについて「ステレオタイプ的な勘違いと言ってしまえばそれまでですが」と前置きしつつ次のように述べている。「GCC諸国民は物語や映画、そのほかファンタジーありドキュメンタリーありの様々なイメージ体験から、日本では天皇が最終決定を下すのだと根本的に思い込んでいるのかも知れません」。
「天皇の君臨する日本、というイメージはアラブ人に受けます。これで先ほど述べた思い込みにも説明がつくかも知れません。何がアラブ人をこんな勘違いに駆り立てているのか解明できれば、それはアラブ人に日本の政治機構を、また日本政府の政策決定をめぐるコンセプトを、正しく教えていくことに繋がります」。
いっぽう Osailan 氏は、GCC諸国民が日本の政治制度を正確に知らないという件に関し、自国の政治制度をそのまま日本に投影しているせいではないかとアラブニュースに答えている。
「GCC諸国民の感覚ではえてして、君主というものは統治において何らかの特権を有しているのが当たり前なのです」。
「もっとも、それ以外のアラブ諸国では感覚が違い、ヨルダンやモロッコといった王国においてすら市民は首相を最高権力者とする制度に馴染んでいるのですけれども」。
首相の権力を低く見る傾向はアラブ首長国連邦(UAE)とサウジアラビアにおいて顕著で、両国の住民に法の決定者は誰かと問うたところ、首相という回答は35%に過ぎなかった。
この結果を Karasik 氏は、アラビア半島で形成された統治スタイルがその他大部分の中東諸国とは違う、という事実に起因するのかも知れないと論評したが、 Osailan 氏は、日本にとってサウジとUAEがアラブ世界で最大の貿易相手国であることに鑑みれば驚くべき結果だとしている。
「これほど強い経済的な結びつきがなぜ日本政治への知識に繋がらないのでしょう」。 Osailan 氏の問いである。
「ひとつ考えられるのは、アメリカとヨーロッパ諸国との経済的な結びつきが関係各国内の政治状況に影響されてきたのとは違い、サウジ・UAE両国と日本との経済的な結びつきは国内政治の力学とほぼ無縁であったということです」。
「そうは言っても、現にこれほど強い経済的な結びつきがあり、ましてやビジョン2030によってサウジと日本との結びつきがさらに強化されるというのですから、湾岸諸国の国民の間に日本国内政治への興味が広がっていくことを期待してよいかも知れません」。