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ドーハから愛をこめて。ワールドカップは人々や国々をつなぐかけはしに

開幕戦のカタール対エクアドル戦を前にピッチ上に置かれたFIFAワールドカップ優勝トロフィーの巨大レプリカ(ファイル/AFP=時事)
開幕戦のカタール対エクアドル戦を前にピッチ上に置かれたFIFAワールドカップ優勝トロフィーの巨大レプリカ(ファイル/AFP=時事)
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26 Nov 2022 04:11:20 GMT9
26 Nov 2022 04:11:20 GMT9

2022年のFIFAワールドカップは、先週日曜日の夕方のアル・バイト・スタジアムでイタリア人レフェリーのダニエレ・オルサトによる開催国カタール対エクアドルの試合開始の笛で正式にキックオフとなった。そのホイッスルを境にカタールは別世界となった。

ワールドカップのカタール開催は、その92年の歴史を通じて初めてのことが多くあり歴史に刻まれることになるだろう。アラビア湾の小さな半島の国カタールは、アラブ、イスラム、中東の国として史上初めて、この世界最大のスポーツイベントの開催国となった。また、カタールの暑い気候のため、従来ワールドカップは夏に日程が組まれていたが今回初めて冬に変更となった。カタール・ワールドカップはアラブの伝統、文化、アイデンティティに光をあてるものとして、中東にとっても重要だ。開会式は象徴的で洗練されており、アラブの創造性がいかんなく発揮されていた。

このメガイベントは男子ワールドカップで初の女性審判員が登場するという点も歴史的だ。日本の山下良美、フランスのステファニー・フラッパール、ルワンダのサリマ・ムカンサンガが女性として初めて今大会で主審を務めることになっており、さらに3人の女性が副審として帯同する予定だ。

2010年に第22回ワールドカップの開催地に選ばれて以来、カタールは12年にわたりこの世界的な祭典に向けた準備を進めてきており、国のインフラや環境の近代化に2000億ドル以上を投じてきた。今回のワールドカップには論争も起こり、その多くは開催国を批判するものだったが、スタジアムやファンゾーン、交通機関や空港などの綿密で計算された構成で批判が間違いであることを証明した。

物的インフラの準備だけでなく、カタールの300万人の人々のこのイベントに対する心理面も注目に値する。私を含め、この国の人々は不安と熱意が入り混じった気持ちでこのイベントを待ち望んでいた。あまりにも長い間待っていたので、一部には実現不可能と思う人もいたくらいのこの大きな夢が現実のものになったことが信じられないようだ。地下鉄、道路、スタジアムは国章を持ち、歌を歌う人々であふれている。

湾岸諸国の指導者たちはカタールの努力に理解を示し、全面的な支援を惜しまなかった。

シネム・センギス

ワールドカップは多様な文化や言語的背景の人々が集うイベントだ。このイベントは国家や民族の融和にも大きな役割を果たしてきた。特に興味深かった光景として、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とエジプトのアブドルファッターフハ・エルシーシ大統領が開会式の傍らで顔を合わせて熱烈な握手を交わし、両国の緊張緩和に向け明るい兆しが見られた。両首脳の楽しげな写真がカタールのシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アル・ターニー首長による仲介の成果なのは明らかだ。スポーツ外交を通じ、カタールはワールドカップをトルコとエジプトの指導者の友好を仲介する機会として活用したのだ。ここ数年、調停はカタールの外交目録にあるソフトパワー・ツールの一つとなっている。

カタールの首長はこの大会を世界中の人々が団結できるイベントと表現している。この呼びかけは湾岸諸国の指導者たちにも好評で、指導者たちはカタールの努力に理解を示し、全面的な支援を惜しまなかった。先週、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はワールドカップ開催の成功に向けたカタールの努力を支援するべく、同国の全省庁と政府機関に「カタールが必要とする追加支援や施設を提供する」よう指示している。

この大会は湾岸諸国の一致団結を大きく固める役割も果たしている。カタール対エクアドル戦で皇太子がカタール国旗に身をくるみ、サウジアラビア対アルゼンチン戦中にシェイク・タミーム首長がサウジアラビア国旗を持ち、首にかけたことはワールドカップで最も重要なシーンの一つだろう。サウジアラビアは8万人以上のファンの前でサッカーの強豪アルゼンチンを2-1で下し、歴史に名を刻んだ。スポーツデータグループのグレースノート社によると、これはワールドカップ史上最大の番狂わせだ。

この試合でアラビア語を話す人から「これはサウジだけの勝利ではなく、カタール人、バーレーン人、UAE人、クウェート人、オマーン人、そしてアラブ世界全体の勝利です」という重要なコメントがあった。ルサイルスタジアムの外でカタールのファンがサウジアラビアのファンとともに祝福する姿も一見の価値があった。ワールドカップ開催はカタールだけの成功ではなく中東全体の成功なのだ。サウジの勝利にも同じことが言え、これはすべてのアラブの勝利なのだ。カタールはこのイベントを通じて世界に「中東の誇り」を示そうとしている。この思いが欧米の批判をよそに、この世界的なスポーツイベントを支える湾岸諸国の人々を動かしている。

最後になるが、ワールドカップにおけるイランチームの姿勢も特筆したい。月曜日のイングランドとの初戦で、試合開始前に選手たちは大きなメッセージを発した。母国での抗議運動が2カ月目に突入するなかハリーファ国際競技場で国歌斉唱を拒否したことは、マフサ・アミニさんの死亡事件に抗議する人々への支持を表明する重要なものだった。

よく言われるように、サッカーは単にサッカーなだけではない。単なるエンターテインメントにもとどまらない。現在開催中のワールドカップはそのことを最高の形で示している。

  • シネム・センギス氏はトルコの政治アナリストで、トルコと中東の関係性を専門としている。Twitter: @SinemCngz
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