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大地震の悲劇を安っぽいプロパガンダに利用する者たち

シリア国民に対する度重なる責任放棄を償うことは、国際社会が担うべき重い責務である(File/AFP)
シリア国民に対する度重なる責任放棄を償うことは、国際社会が担うべき重い責務である(File/AFP)
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15 Feb 2023 03:02:34 GMT9
15 Feb 2023 03:02:34 GMT9

数万人の生命を奪った地震を一大PR活動の好機と見なせるのは、数百万の自国民を殺害し、住む場所を奪った人物くらいであろう。

数年間自らの宮殿に身を隠していたアサド大統領が姿を現し、ラタキヤとアレッポを訪れた。その間、シリア外交担当者たちは、すべての援助物資がダマスカス経由で流通していると主張している。だが我々は、この種の詐欺的行為を何度も目にしてきた。物資は政府派の人々に回され、反政府派住民は餓え、爆撃を受けて服従を強いられる。地震発生後シリアの政権が最初にしたのは、一人の生存者も残さないよう念を入れるかのように、被害を受けたマレア周辺に空爆を行うことだった。アサド氏周辺の当局者は、「テロ組織」にいかなる救援物資も届かないよう阻止すると述べているが、この語はアサド政権が反政府軍の支配地域の住民を指すのに普段から用いているものだ。この犯罪者的政権が救援物資をかすめ取り、転売しているという噂が早くもささやかれている。

シリアとイランの得意先であるレバノン人たちも、ダマスカス詣でをしてはアサド政権の正常化を支持している。レバノンのアブドラ・ベンハビブ外務大臣は、犠牲者との連帯を示すことが必要なまさにその時にダマスカスを訪問するという不名誉な企てを、なぜ行うことができたのだろうか。

ヒズボラ(シリアの領土のかなりの範囲で支配権を持つ)もまた地震を利用し、世界が信念に基づいて血塗られたアサド政権への関与を拒否したことは「偽善」だと糾弾している。「自国民を残忍に扱い、…毒ガスを用い、虐殺し、彼らの苦しみの大半の原因となってきた政府を我々が支援するとすれば、逆効果とまでは言わないにせよ、非常に皮肉なことです」とあるアメリカ国務省報道官は述べた。この時ばかりは、私もアメリカ外交筋の意見に同意である。

救援物資は遅ればせながらシリア北部に、損傷の著しいバブ・アル・ハワ検問所1か所を通って入りつつあるが、ロシアと中国は他の検問所を開くことに反対し続けている。多くのシリア難民が今回の地震の震源となったトルコ南部に逃れたため、今では大型トラック一杯の遺体袋となって故郷シリアに帰る人々の姿が見られる。

大地震によって、シリアは一時的に世界的議題の上位リストに返り咲くとともに、アサド氏の本質的な残忍性があらためて浮き彫りになった。

バリア・アラマディン

アサド氏はシリア政府がイスラエルに支援を要請したというネタニヤフ首相の主張を否定したが、両国とも地震をプロパガンダに利用している。また、アメリカが一時的に制裁を緩和したことに乗じて、イランが武器その他の禁輸品を援助物資用の車列に紛れ込ませるのではないかという懸念もある。

私は先週、複数の中東を専門とする欧州の外交官と話をしたが、彼らはレバノン大統領選とイランの封じ込めに関して、様々なシナリオを描いていた。

彼らによると、ヒズボラは草の根の支持基盤を失いつつあり、幅広くその脅威が知られるようになり、自由愛国運動(FPM)のミシェル・アウン氏やジブラーン・バシール氏とのつながりも希薄になったことでより強い圧力にさらされている。外交官たちは望ましいシナリオとして、ヒズボラが民意に基づいた候補者(いずれにせよヒズボラはその人物に圧力をかけて自分の意のままに操ろうとするだろうが)を認めざるを得なくなり、IMFとの合意に向けてレバノンが一歩を踏み出すという可能性を挙げた。

だが、彼らは新大統領や政府に関する合意が得られず、レバノンが無政府状態に陥るというシナリオも想定しており、核合意の中止という現状を踏まえると、イスラエルのネタニヤフ政権が軍事行動に出てイランの核計画を無力化しようとするのは時間の問題だとも指摘する。イラン政府が要請すれば、ヒズボラはイスラエルとの戦争に参加せざるを得ないかもしれない。その場合、戦火は中東全体に拡大し、非常に破壊的なものになるだろう。

レバノンに住む多くのイスラム教シーア派の人々はいまだにヒズボラを自分たちの名目上の代表者と見なしているものの、彼らはヒズボラが掲げる強硬な反国家的スローガンを支持しているわけではない。人々は貧困とレバノンの状況が日々悪化していくことにうんざりしている。また、2006年の紛争当時に十分すぎるほどの経験をした以上、「シオニストの敵」へのヒズボラの好戦的態度を再度受け入れる余地もないのだ。

レバノンの支配層に属する人々と定期的に関わりを持つ人々は、しばしば次のような感想をもらす。彼ら指導層は一般国民の苦しみには無関心で、そのような話題を避けたがる。その一方で、地域の対立関係について常に気にかけ、シリア難民の強制送還に熱心である。その結果、地震、2020年のベイルート港爆発、IMFとの交渉、大統領選をめぐる停滞といったことでさえ、地位争いにおける交渉のカードとなってしまうのだ。今下されつつある決定、あるいは無期限に延期されている決定が数百万人の生活と中東地域で紛争が再燃するか否かの命運を左右するにもかかわらず。

私が会話した欧州の外交官たちは、イラン政府への敵意の高まりは皮肉にも、地域での犯罪行為より、ロシアへの武器供与によって引き起こされていると指摘した。また、国境地域での警戒態勢の強化によって、とりわけイランにおける彼らの後援者たちが核合意後の制裁緩和から利益を受ける見込みがほとんどない状況下では、ヒズボラとアサド氏の麻薬取引を牛耳ることで儲けようという目論見に邪魔が入っているという。数か月にわたる抗議デモでイランはこれまでになく弱体化しているが、これはイランの同盟者にも当てはまるのである。

ヒズボラの経済的失政により、レバノン国内には「盗むものは残っていない」のであり、そのため利益の匂いを嗅ぎつけたハッサン・ナスラッラー書記長は国境と天然ガス採掘にまつわる儲け話に対して、例にない柔軟さを発揮しているのだ。

アサド氏が完全に権力を取り戻す日は来ないだろう。彼がシリアの国土の一部をかろうじて支配しているのは、ひとえにイランとロシア、ヒズボラとの同盟関係のおかげである。アサド氏がその生命を奪った数百万の人々の家族は、決して彼の所業を忘れない。ウクライナへの新たな攻撃にイラン製ドローンが用いられたことでロシアとイラン両政府への反感が世界中で高まる中、アサド氏はおそらく永久に国際社会から締め出されるだろう。

大地震によって、シリアは一時的に世界的議題の上位リストに返り咲くとともに、アサド氏の本質的な残忍性があらためて浮き彫りになった。アサド氏とレバノン、イランで彼を支援する勢力は死に物狂いでもがくだろうが、どれだけ時間を稼いだところで彼が戦争犯罪者でなくなるわけではない。

地震で被災したシリアの人々は、トルコの悲劇的犠牲者たちに劣らず世界の助けを必要としている。世界が内戦のシリアを見放し、いくつかの機能停止した地域の寄せ集めの状態で放置しているのは、彼らシリア国民の責任ではない。

したがって、シリア国民に対する度重なる責任放棄を償い、今現在助けを必要としている彼らの叫びに力の限り耳を傾けることは、国際社会が担うべき重い責務である。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストでニュースキャスター。中東とイギリスで活動している。Media Services Syndicate編集長で、数多くの首脳への取材経験がある。
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