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トランプの計画が向かうのは、2国家共存ではなくアパルトヘイトだ

ベンジャミン・ネタニヤフ首相と共にホワイトハウスで和平計画を発表するドナルド・トランプ大統領(File/AFP)
ベンジャミン・ネタニヤフ首相と共にホワイトハウスで和平計画を発表するドナルド・トランプ大統領(File/AFP)
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04 Feb 2020 02:02:51 GMT9
04 Feb 2020 02:02:51 GMT9

ヨルダン川西岸の地区を無作為に選んでエルサレムと呼ぶのは、アマゾンのジャングル一帯をロンドンと呼ぶのと変わらず、首都をどこからともなく召喚する魔法に過ぎない。

地図上でネゲブ砂漠地域を丸で囲んで、上から「農業」と書いても、奇跡的に砂が灌漑された農園に変化し、ガザの住民に未来永劫食べ物を供給するようにはならない。

最先端の道路システム、税関施設、病院、ガザとヨルダン川西岸を結ぶ地下トンネルを誇るのは、全てとても良いことだ。しかし、これらの公約が未確定の外国の出資者に依存していることを考えると、ジャレッド・クシュナー上級顧問が金メッキの舗装とダイヤモンドがちりばめられた街灯を約束することさえもあり得る。

これまでの和平計画では、何十もの小さな入植地「アウトポスト」にいる過激なシオニスト狂信者らをまとめてイスラエルへ送り返すことを必要としていた。クシュナー上級顧問の計画は、彼らに留まる権利を与えるだけでなく、道路とそれを支えるインフラを最も遠く離れた困難な場所においてまで導入するためにパレスチナの土地を分断する。

計画と共に提供された地図は、入植者たちがさらに数キロメートルの「自然な成長」分を開拓するのに十分なほど曖昧だ。入植者たちが、将来の米国大統領が追加の「現地の既成事実」を認めてくれることを期待しながら、何百もの新しい場所を開拓するこれ以上ない強い動機付けになるだろう。

パレスチナのマフムード・アッバス大統領が、イスラエルとの安全保障上の関わりの断絶を発表するだけでなく、「千回のノー」と答えたのは、ベンジャミン・ネタニヤフ首相の根本的な問題に対する柔軟性のなさを考えると、正解であった。

実り多い交渉には、議論のパラメーターについて少なくともいくつかの共通の合意が必要だ。 約150万人のパレスチナ難民が居住しているイスラエル周辺諸国でも、この取引は怒りをもって拒絶された。 難民の帰還権の取り消しは、これらの国々に長期的な影響をもたらす問題の1つにすぎない。

取引で約束された見返りは、パレスチナ人が領土を大規模に奪われることに同意し、全過激派集団を武装解除することをあてにしている。 前例に基づくと、パレスチナ人が全て言われたとおりにしようと努力したとしても、イスラエルが脆弱な治安上の口実を悪用して、工業地帯や道路建設、他のインフラなどの計画の実行を永久に妨げる可能性がある。

この取引がイスラエルに全てを提供している一方で、パレスチナ人にとっては無益であり、これらの領内にある多くの聖地を崇拝する何百万人ものキリスト教徒とイスラム教徒の宗教的権利を踏みにじっていることは、世界のメディアに広く認識されている。

エコノミスト誌は、ドナルド・トランプ大統領の取引を「世紀の窃盗」と表現し、新しいパレスチナの「首都」が、「巨大なコンクリート分離壁の向こう側に位置するアブ・ディスやシュアファトのような陰惨な地域」になると指摘した。

トランプ大統領の提案を、腐敗疑惑を抱えた問題ある指導者2人によって作られた無意味な余興であるとして片付けるのはたやすい。

この身内内で交渉された茶番と共に交わされた、吐き気を催すような崇拝のまなざしや親しげに背中を叩くあいさつ、そして大げさな賛辞は、これによって恩恵を受ける人々について知るべきことを全て物語る。

しかし、ネタニヤフ首相が、占領下のヨルダン渓谷、ヨルダン川西岸、エルサレム、ゴラン高原から切り出された広大な領土譲歩地の併合を急ぐ中、これが壊滅的に形勢を一変させることを否定すべきではない。オスロ合意後30年間の2国間取引のパラメーターに関するある程度の合意の終焉を意味している。将来、より見識ある米国大統領たちは、トランプ大統領による主権放棄を撤回するために、莫大な政治的資本を費やさなければならないだろう。

アラブ連盟は予想以上に強い声明を発表し、「最低限のパレスチナの人々の願望と権利さえ満たさず、国際法と国連決議で決められた平和プロセスの既定のパラメーターを破っている」としてトランプ大統領の提案を全会一致で拒否した。

国連とEUも同様に、国連決議遵守の必要性を強調している。英国のボリス・ジョンソン首相はこれらの留保を一切示さず、パレスチナ人に計画に尽力するようを促したが、彼の外務大臣はイスラエルが西岸の大部分を併合しようと急いでいるという「懸念」を後に表明した。

国際法と根本的に対立する取引は、トランプ大統領、ウラジミール・プーチン大統領、習近平国家主席などの指導者による国際正義と紛争解決のメカニズムの破壊によって可能になっている。

プーチン大統領と習国家主席は国連安全保障理事会を停滞させ、トランプ大統領の支持者らはすべての法的制約を拒否する大統領権限の絶対主義モデルを支持している。

取引で約束された見返りは、パレスチナ人が領土を大規模に奪われることに同意することをあてにしている。

バリア・アラムディン

これは、ナレンドラ・モディ首相のカシミール問題とインドにおける宗教および市民権の問題への強硬な対応や、中国における100万人以上のウイグル人強制収容、バシャル・アサド大統領のいまだ続く大量虐殺、イランの民兵組織による拡張主義、そしてミャンマーのロヒンギャ排斥でも見られる。これらの不正に対処するための真剣な国際的努力を誰も期待しておらず、国際法の優位性が再確認されていない状況下で、こうした例はさらに増加するだろう。

自分たちのメディアを利用してこの取引に反対しているISISやイランのような存在以上に喜んでいる者はいない。トランプ大統領とネタニヤフ首相は、立派な平和の見通しを裏切るテロリストの筋書きの思うつぼになっている。ちょうどアルカイダがエルサレムに対するイスラム教徒の怒りを利用したように、これらの根本的な不正が、多くの小さな火種を提供して数十年にわたる暴力とテロを生むことになる。

クシュナー上級顧問は、ネタニヤフ首相が初めて2国家共存の提案に乗ったことを誇っている。なぜか?それは、これが2国家共存の解決策ではないからだ。想定されているパレスチナ独立国(実現することはないだろうが)は、国家主権、分断されていない領土、首都、国境管理、軍隊などの国家の象徴を欠いている。

しかしまた、(今のところ)この取引は、パレスチナ人が公正な政治的代表権を享受できる1国家として独立する解決策への流れを阻止している。したがって、これらの提案は、1国家または2国家における解決策ではなく、アパルトヘイトの製法である。

米国とイスラエルの専門家もまた、これらの提案をアパルトヘイトのバントゥースタンを作るものと呼んでいる。イスラエルの権利団体ベツェレムは、パレスチナ人が「小さく閉鎖され孤立した飛び地に追いやられ、生活の自由もない」状態にあることの影響について警告した。

トランプ大統領とネタニヤフ首相のアパルトヘイトへの青写真は、イスラエルが数十億ドルもの米国の支援で軍事的優位を享受している限り、パレスチナ人による持続的な大衆蜂起がない限り、そして一丸となった国際的圧力がない限り、持続可能である。

パレスチナ全体で600万人近くのアラブ人がそのまま留まり続ける。これらの提案は、彼らの不満にも国家への願望にも触れていない。クシュナー上級顧問とネタニヤフ首相は、民族浄化とアパルトヘイトを前提とした提案でオスロ合意のパラメーターを抹消することにより、パレスチナの国民的願望を新しい形で表現させることになるだろう。

流血と紛争の歴史的な発作を何度も経験してきた私たちは、恐ろしい未来しか描くことができない。

  • バリア・アラムディンは、中東と英国の受賞歴を持つジャーナリスト兼ブロードキャスターである。彼女はメディアサービスシンジケートの編集者であり、多数の国家元首にインタビューしてきた。

免責事項:この記事内の著者の見解は独自のものであり、必ずしもアラブニュースの見解を反映するものではありません

 

 

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