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サウジ・イラン合意の3つの展望

6日、北京で握手するサウジ、イラン、中国の外相。(AP経由新華社通信)
6日、北京で握手するサウジ、イラン、中国の外相。(AP経由新華社通信)
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08 Apr 2023 09:04:45 GMT9
08 Apr 2023 09:04:45 GMT9

6日に北京で行われたサウジアラビアとイランの外相会談は、想定外の道へと踏み出す重要な進展であり、40年以上見られなかったレベルで地域の安定が実現する可能性がある。

3月10日の北京での合意からひと月も経たずに会談が実現したことは、中国の力をさらに示すものであり、事態を前進させようというサウジ・イラン双方の決意を示すものでもある。

両国からは外務大臣が出席したわけが、これは両国首脳が合意を信頼していることを示している。合意の細部については、担当の政府機関に託された。最初の合意の調印時に、国家安全保障最高評議会書記のアリ・シャムカーニ少将と、超高位のサウジ王宮府顧問で皇太子が最も信頼している側近のモサド・アル・アイバン氏が出席したことの重要性が見えてくる。私の理解では、これは王国の強い要望であり、「イラン外務省の合意はあってもイランの深層部や安全保障部門の合意はない」という冷笑的な声を黙らせるものだ。イラン政府が「この取引は政権内の全員が承認したものではない」と主張すれば、逃げ道がなくなることになる(イランに真の権力分担が存在するとは誰も思っていないが、以前はそうした論法が使われた)。

ここひと月の間、私はイラン政府が合意を遵守する可能性について何度も尋ねられた。それに答えられるのは政権の高官しかいない。合意の交渉を担当した人物もそう言うだろうが、このような合意が崩壊するのに多くは必要ないということだけは分かっている。

イランの交渉担当者はしばしば、ペルシャ絨毯の職人のような忍耐力をもっていると言われ、常に時間稼ぎをする。

ファイサル・J・アッバス

イランの交渉担当者はしばしば、ペルシャ絨毯の職人のような忍耐力をもっていると言われる。相手がサウジアラビアだろうが欧米諸国だろうが、交渉官は常に時間稼ぎをする。サウジの場合は、王位の継承時にはすべての王が高齢であるという事実を利用してきた。新たな指導部と対峙するのは時間の問題だが、新指導者が自分の周辺を固めるまでイラン政府は優先事項にはならないということをイラン側は承知していたのだ。西側の民主国家と対峙する際、イラン側は選出された指導者が数年で交代することを理解している。最近、ホワイトハウスの主がトランプからバイデンに交代した際も、後任者が就任してイラン核合意を復活させるまで、前任者の最大の圧力をしのげばいいだけだった。つまり、譲歩を引き出すことができるということだ。

中国政府の仲介によって3月10日に調印された合意に関しては、そうしたことがすべて関係ないというのは良い点だ。この合意が他と違うのは、「2段階認証」の利点があることだ。一方にはムハンマド・ビン・サルマン皇太子がおり、もう一方には中国がいるのだ。

若く、エネルギーに満ち、権力もある皇太子は、今後数十年間の国内の安定と外交政策の連続性をもたらす。そのため、担当する政府職員は最後まで合意のすべての細部に集中できる。一方で、今回の合意が米国ではなく中国によって仲介されたという事実は、イラン政府が合意から逃れられないこと意味する。仲介者が米国だったなら、議会で超党派の支持を得られない政府や、いずれにせよ任期を終われば去る大統領のおかげで、逃れることができたかもしれない。

今回の合意は、和平仲介者としての中国の世界デビューでもある。世界的な超大国として敬意を集められるかどうかの試金石ともなる。中国はイランに25年間で3000億ドルの投資を約束しており、最大の貿易相手でもある。中国という龍がイラン政府を厳しく監視し、合意が守られているかどうか確認するのは間違いない。私はそれが唯一の道だと思う。

では、合意の成功は間違いないのだろうか? 政治の世界では「絶対」はない。しかしながら、3つの可能性がある。

この合意が他と違うのは、「2段階認証」の利点があることだ。一方にはムハンマド・ビン・サルマン皇太子がおり、もう一方には中国がいる。

ファイサル・J・アッバス

最も悲観的なのは、イランが合意を遵守しないシナリオだ。そうなれば、地域の平和にとって大きな機会が失われることになる。だが同時に、イラン政府は中国という巨大な規模と存在感をもつ国の不興を買うことにもなる。中国は、世界でたった2つのイランの友好国の1つだ(もう1つの国ロシアは現在、手がふさがっている)。もしそうなっても、サウジアラビアにとっては現状に戻るだけのことだ。地域を不安定にさせるようなイランの活動に対してわが国は40年以上の経験があり、その軍隊とも渡り合ってきた。

最も可能性が高い現実的なシナリオは、合意がゆっくりとではあるが着実に進展することだ。合意事項には、相互不侵略および、相手国が侵略された際の支援がすでに含まれている。6日には、イランを後ろ盾とするイエメンの民兵組織フーシが6か月の停戦延長を申し出たが、これは良い兆候だ。サウジとイランは外交チャンネルを再開させ、直接対話が可能となった。イエメンやレバノン、イラク、シリアといった「発火点」で関係国の政府を支援し、安定を実現して最良の成果を得るために外交手段が使える。

ある日目が覚めたら、イラクやレバノン、シリアからの撤退も含め、イランの影響下にあるすべての地域紛争が解決している―― というのが最も楽観的な想定となるだろう。しかし、それらの国でイランが行ってきた投資や利害の大きさを考えると、そうしたシナリオは可能性が低い。

だが総体的に見ると、少なくともサウジの視点からは、ここまでは明確な勝利と言えるだろう。それは王国や地域にとってだけでなく、世界の市場やエネルギー部門にとってもそうなのだ。

  • ファイサル・J・アッバスはアラブニュースの編集長

ツイッター:@FaisalJAbbas

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